注目するのはこの検査項目

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「自覚症状がなければ、悪い数値でも慌てる必要はない」と生活習慣総合研究所所長の工藤医師。
まずは自分の健康診断表を見直すことから始めよう。

■晩酌と塩辛い食べ物が好きな人のケース

Fさん 41歳
身長(cm):174.0
体重(kg):68.5
BMI指数:22.6
腹囲(cm):85.0

IT関係の自営業。在宅勤務なので、ほとんど運動はしない。徹夜など生活リズムも乱れがち。酒が好きで晩酌が日課。休日には昼から飲むことも。酒を飲むときは食事をしない。

doctor's check――定期的な血液検査で兆候をキャッチ
肝機能を調べる血液検査項目はたくさんありますが、基本の検査はALT(GPT)、AST(GOT)、γ-GTP。基準値は施設により若干異なる場合があります。肝機能検査が正常値でも肝炎ウイルスに感染している場合もあります。精密検査には肝炎ウイルス検査、腹部超音波検査、CT検査などがあります。

沈黙の臓器といわれる肝臓。肝硬変になったとしても劇的に症状が悪化することがないので、早期発見が非常に難しい。なかには末期の肝臓がんに進行していても、自覚症状がないケースもある。

肝硬変は慢性的な肝炎を放置した結果、肝臓の細胞が壊死し、収縮し小さく硬くなる病気だ。

では、自覚症状のない肝硬変はどのようにすれば防げるのだろうか。「まずは定期的な血液検査です。脂肪肝、肝炎の兆候が表れたら、その段階で進行を食い止めること。肝硬変は完治することはありませんが、治療によって現状を維持し、普通の生活を送ることもできます」(工藤医師)

肝硬変に至る原因でもっとも多いのがA、B、C、D、E型のウイルスによるものである。A型、E型肝炎ウイルスは主に食べ物を介して感染するもので、海外での食事が原因になることが多い。

一方、血液を介して感染するのがB型、C型、D型肝炎ウイルス。なかでも気をつけたいのが慢性化しやすいC型だ。感染すると60〜80%が慢性化し、C型肝炎になる。そしてその約半数が肝硬変に進行する。またB型のように感染予防のための有効なワクチンがないのもC型肝炎の怖いところ。他人の血液にふれないことが最大の防御だが、もし思い当たるフシがある場合は、HCV抗体検査を受けることが望ましい。

次いで多いのがアルコールによるもの。いうまでもなく飲みすぎが原因だ。飲酒がすぎるとまず脂肪肝となり、さらに飲酒を続けていると肝臓が炎症を起こす。この段階で飲酒をやめれば短期間で改善するが、過度な飲酒が続くとアルコール性肝炎、肝硬変へと進んでいくのである。

肝機能検査の基本はALT(GPT)、AST(GOT)、γ-GTP。AST、ALTは肝臓の細胞に多く含まれ、細胞が壊れたときに血液中に出てくる酵素だ。したがってこの値が高いことは肝臓の細胞が壊れていることを意味する。また、数値だけでなく、どちらがより高いか(AST/ALT比)も大切。AST値よりALT値が高い場合は慢性肝炎、ALT値よりもAST値が高い場合は、肝硬変、肝がんの可能性があるからだ。

そして飲酒による肝障害の指標になるのがアルコールの分解に反応する酵素、γ-GTP。「新基準値」では、従来の基準値が0〜50U/リットルであったものが、男性12〜84U/リットル、女性9〜40U/リットルと緩和され、男女差も大きくなった。

「従来の数値とかなり差があるので、疾患が見過ごされる危険性もあります。新基準内の数値であっても過信せず、飲みすぎを控えるなど、生活習慣の改善を心がけることが重要です」(工藤医師)

ウイルスが原因の肝硬変と異なり、アルコール由来の肝硬変は自分の意思で未然に防ぐことができる。過度な飲酒を控え、規則正しい生活を心がけることが何よりの予防策だ。

■生活改善リスト
休肝日を設けたほうが、酒はより美味しく飲める

▼肝臓にいい食べ物代表のシジミは肝臓病患者にはNG

インスタント食品には添加物が多いので、肝臓の負担になる。神経質になる必要はないが、ハムなどの加工品にも添加物は多い。逆に肝臓にいいのはイカやタコ。含まれているタウリンは肝機能を向上させることがわかっている。肝臓病の食事療法は「高たんぱく、高カロリー食」がいいといわれていたが、現在では「栄養バランスよく適切な量を」に変化している。また、肝臓にいいといわれたシジミは鉄分が多いために、摂りすぎは肝臓病患者にはNGとなった。

▼待遇改善しないと大人しい働き者が突如反旗を翻す

気づかないうちに進行するのが肝臓疾患の怖いところ。酒は適量を守る。強い酒は避ける。夜遅くは飲まない。週に2回は休肝日を設ける。わかっていても酒飲みには難しい。せめて酒を飲むときは、チェイサーとして水やウーロン茶を一緒に飲むようにしよう。

▼気持ちいいと感じるスピードで

走る楽しさを実感すると癖になるのがランニング。夜は走った後の風呂上がりにビールを飲みたくなるので、肝臓のためにも朝ランのほうがいいだろう。会話のできるスピードで、距離は気にせずに、まずは30分間走ることから。慣れたら時間を延ばしてもよいが、60分間、週3回程度が理想。

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生活習慣総合研究所所長 工藤一彦 
1947年生まれ。信州大学医学部卒。防衛医科大学講師、女子栄養大学教授などを経て現職。著書に『健康常識にダマされるな!』(監修)など。

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生活習慣総合研究所所長 工藤一彦=監修 永浜敬子、遠藤成=文)