世界遺産登録にイチャモン!?

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 長崎市沖の軍艦島や福岡の官営八幡製鉄所など8県23施設からなる「明治日本の産業革命遺産」の世界文化遺産登録が今夏にも決まる見通しになり、地元をはじめとした日本中が沸いている。

 だが、これに中国と韓国が反発。近年は日本と中韓の摩擦が強まっているが、それが如実にあらわれることになった。その一方で、両国の過剰な日本バッシングに国内外から批判も起きており、世界遺産の一件をきっかけに議論が激化している。

日本の世界遺産登録に中韓「反対」で足並み

 日本の世界遺産登録が確実になったと報じられると、すぐさま韓国の尹炳世(ユン・ビョンセ)外相が「強制労働から目をそらし、産業革命施設を美化するものだ」と反発した。

 続けて韓国国会が5月12日の本会議で「朝鮮半島出身者が強制労働をさせられた施設」を含んでいるとして、日本政府が「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録を推進していることを糾弾する決議を可決。世界遺産登録委員会に対しても慎重な対応を求めるとしている。

 これに日本の菅義偉官房長官は「政治的主張は持ち込むべきではない」と翌日の会見で不快感を示し、日韓の溝が深まっている状況が浮き彫りになった。

 そんな中、14日に中国外務省の華春瑩副報道局長が定例会見で「中国などから強制連行された労働者を働かせていた遺跡が多くある」として、日本の世界遺産登録に「反対する」と明言した。韓国と同様に中国でも軍艦島などに強制連行されて働かされていたとする元労働者や遺族の反発が大きいといい、そうした行為を「日本の軍国主義が対外侵略、植民統治の期間中に犯した深刻な犯罪行為」としている。

 さらに華副報道局長は、元労働者らが日本企業に賠償などを求めていることも踏まえて「彼らの正当な要求に日本側はいまだに責任ある対応をしていない」と批判し、世界遺産登録は「強制労働問題に目をつぶるもの」と斬り捨てている。

 韓国に中国が追随して「反対」の立場で足並みをそろえた格好だ。

韓国で「孤立外交」に反発する声が高まる

 火ぶたの発端となった韓国の反発が特に強い状況だが、この背景には朴槿恵(パク・クネ)大統領の対日政策が関係している。日韓関係改善の前提条件に慰安婦問題の進展を掲げており、それが解決しなければ首脳会談に応じないと言い張る強硬姿勢を打ち出している。

 4月末に安倍晋三首相が米議会などで演説した内容についても韓国政府は公式に「糾弾する」と決議しており、朴大統領にすれば安倍首相の在任中に強制連行と関連した施設の世界遺産登録は認められないということだろう。

 だが、この政治姿勢に意外にも韓国国内から批判の声が上がり始めている。

 韓国の多くの大手メディアが日本の歴史認識の甘さを批判しつつも「孤立外交」の危険性を指摘。アメリカが日本びいきになっている状況を分析し、慰安婦問題や歴史問題にしばられて日本を冷遇し続ければアメリカからも孤立してしまうと危惧している。

 その流れによって朝鮮日報が「韓国の反日ポピュリズムが招いた自縄自縛」という記事を掲載し、中央日報もコラム欄で「国益のためには悪魔ともダンスを踊らなければならない」などと安倍首相を悪魔に例えながらも実用主義外交の重要性を説いた。

 米国は北朝鮮の動向なども踏まえて「日米韓の連携が重要」との立場を示しており、これが事態を大きく変える可能性につながっている。

相次ぐ批判に…朴大統領の姿勢が軟化

 過激な言動で知られる韓国のネットユーザーたちからも、外交姿勢を批判する以下のようなコメントが相次いでいる。

「韓国を愛しているが、外交はもどかしさを感じる」
「世界遺産登録に横ヤリを入れて日本を怒らせても得しない、冷静になってほしい」
「韓国の政治家たちは国益よりも反日に一生懸命な無能ばかりだ」
「韓国の世界遺産登録を日本が批判したら自分なら許せない。それと同じだよ」

 父親の朴正煕元大統領が親日派だったことから、かつて朴槿恵大統領は「親日派の子供」と非難されていた時期があり、それを覆すために強硬な反日姿勢をとってきた背景がある。だが、これだけ国内の批判が高まってくるとスタンスを変えざるを得なくなってきそうだ。

「13日に日本経団連の榊原定征会長と会談した際には、朴大統領が慰安婦問題や歴史認識問題に全く触れず、これまで拒絶してきた日韓首脳会談に前向きな姿勢を示しました。明らかに対日姿勢が軟化しており、徐々にでしょうが日本に対する批判も大人しくなっていきそうです。となれば、世界遺産登録に対する糾弾も次第に影を潜めていくでしょう。韓国がトーンダウンすれば、中国も同じく拳を下ろすでしょう」(地方紙の政治部記者)

 どうやら国内外の様々な事情が絡み合い、世界遺産登録への批判はフェイドアウトしていくとの見方が強まっているようだ。だが今回の一件で日本側が抱いた韓国への悪印象も、歴史認識問題に由来する韓国の日本に対する憎悪も根本的には解決していない。韓国メディアに「悪魔」とまで呼ばれた安倍首相の政権が続く限り、事情が変われば再び関係悪化が進行してしまう恐れがあるだけに今後も火種は生まれそうだ。

(取材・文/佐藤勇馬)