「トワイライト」2ヶ月で復活、その真相とは 背後に見えるふたつの新幹線
大阪〜札幌間を結ぶ寝台列車「トワイライトエクスプレス」は2015年3月、「車両の老朽化」を理由に廃止されましたが、同年5月16日、早くも復活。再び運行を始めました。いったいこれは、どういうことでしょうか。
「老朽化」で廃止された列車が2ヶ月で復活
2015年3月12日(木)発車分をもって、大阪駅と札幌駅を結んでいた豪華寝台列車「トワイライトエクスプレス」は運行を終了しました。その当日、北海道へ向けて旅立つ最後の列車を見送ろうと、人々が大阪駅ホームを埋め尽くした光景が各メディアで大きく報道されたのは、記憶に新しいところかもしれません。
しかしそれから約2ヶ月が過ぎた本日5月16日(土)、再び大阪駅から豪華寝台列車「トワイライトエクスプレス」が発車しました。
大阪〜札幌間の「トワイライト」が運行を終了するにあたり、JR西日本はその理由を「車両の老朽化」と発表しています。老朽化で廃止されたものが、約2ヶ月後に再び走行したわけです。これはいったい、どういうことなのでしょうか。
その背景は少し複雑です。公式的な「トワイライト」廃止理由は「車両の老朽化」ですが、ほかにも大きな影響を与えている要素があります。
新幹線開通で難しくなった「トワイライト」
ひとつが、2016年3月に新青森〜新函館北斗間で開業が予定されている北海道新幹線です。
上野駅と札幌駅を結ぶ寝台特急「北斗星」は、「トワイライト」と同じ2015年3月のダイヤ改正で定期運行を終了。以降は臨時列車として引き続き同区間で運転されていますが、2015年8月末、完全に廃止される予定です。
その理由としてJR東日本が挙げたのが「車両の老朽化」と、「北海道新幹線開業に向けた『総合監査・検査』等の実施による青函トンネルの夜間作業間合いの拡大」。つまり北海道新幹線の開業を目前に控え、夜間に青函トンネルの整備などを行う必要があるため、そこに夜行列車を走らせることが難しくなっていることです。「北斗星」がその影響を受けて、同様に青函トンネルを通過する「トワイライト」が影響を受けない理由はないでしょう。
そして2015年3月14日(土)に金沢駅まで延伸開業した北陸新幹線も、「トワイライト」廃止に大きな影響を与えていると考えられます。
北陸新幹線の延伸開業に伴い、その並行在来線である北陸本線は同じく3月14日から、金沢〜倶利伽羅間がIRいしかわ鉄道、倶利伽羅〜市振間があいの風とやま鉄道、市振〜直江津間がえちごトキめき鉄道という第三セクター鉄道になりました。
この第三セクター鉄道化された区間は大阪駅と札幌駅を結ぶ「トワイライト」の経路だったため、仮に現在、往時と同様に大阪〜札幌間へ「トワイライト」を走らせる場合、これら通過する第三セクター鉄道3社に「通行料」を払わねばなりません。
上野〜札幌間の「北斗星」「カシオペア」は、同様に東北新幹線の延伸開業で経営分離された第三セクター鉄道を2社経由して運行されていますが、そのうちの1社である青い森鉄道には2013年度、「北斗星」「カシオペア」の通行料としてJRから約4億円が支払われています。
難しくなる青函トンネルの通過、そして北陸新幹線開業と同時に発生する「通行料」や手間を考えると、2015年3月のダイヤ改正と同時に大阪〜札幌間の「トワイライト」が運行を終えるというのは、ひとつの合理的なタイミングだったといえそうです。
「トワイライト」復活の理由とその意味
ではJR西日本が「トワイライト」運行終了の理由として挙げた「車両の老朽化」はなんだったのか、となりますが、それももちろん事実。ただ、2015年3月のダイヤ改正に合わせ、老朽化で直ちに車両が使えなくなるわけではない、ということです。
5月16日(土)に再出発した「トワイライト」。その運行期間についてJR西日本営業本部の橋本さんは「1年程度を考えており、それ以降については白紙です。整備はしっかり行っていますが老朽化している車両ですので、そのあたりなど状況を見ながら考えていきます」と話します。
また再出発した「トワイライト」の運行区間は大阪〜敦賀〜京都〜下関間。すなわち全区間がJR西日本エリアで、青函トンネルも通りません。
車両をまだ使うことができ、運行上の支障もないならば、日本の豪華寝台列車の代名詞「トワイライト」を活躍させない理由はありません。
「トワイライト」引退と復活の背景には、こうした複合的な要因がうかがえます。ただ復活したとはいえ、約40年前に製造された車両の老朽化は紛れもない事実。「本当の別れ」が、遠くない将来に訪れるでしょう。
寂しいことではありますが、JR西日本の橋本さんは「2017年には『瑞風』が登場しますのでご期待ください」と話します。その正式な名称は「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」。「トワイライト」の名前と伝統を受け継ぐ列車として現在、JR西日本が運行準備を進めている新たな周遊型の豪華寝台列車です。
JR西日本は再出発した「トワイライト」で地元特産品の販売や伝統芸能の実演など「お客様へのおもてなし」を検討し、「瑞風」につなげていきたいとしています。そのため今回の「トワイライト」復活は「『瑞風』を開発し『トワイライト』名をさらに磨くこと」も、その理由に挙げられそうです。