「日本のリーダーには(歴史問題に関して)深い省察と、未来へのビジョンが必要だ」

一見、お決まりの「韓国による痛烈な日本批判」だが、その発言の主が「国連のトップ」潘基文事務総長とあっては、さすがに話が違う。首相を始め、安倍政権から一斉に反発の声が上がったのも当然だ。

「歴史の問題については専門家の議論に任せていくというのが安倍政権の基本的な方針だ」(安倍晋三首相)
「我が国の立場を認識した上で行われたのかどうか、非常に疑問。真意を確認し、日本の立場を国連等で説明していきたい」(菅義偉官房長官)
「世界各国の中で最も中立的である方が国連事務総長だ。自らの立場をどこかに偏るような発言はいかがなものか」(新藤義孝総務相)

帰省中で「本音」飛び出した?

問題の発言は2013年8月26日、潘事務総長が「帰省」していた韓国での記者会見で飛び出した。

潘事務総長は記者から北東アジア地域の緊張状態についての見解を求められ、「歴史認識問題や政治的問題、また軍事的要因によって緊張状態が続いていることは国連事務総長として遺憾」とした上で、特に「歴史認識」の部分に力点を置いてこう熱弁した。

「正しい歴史認識を持ってこそ、他国からの信用と尊敬を得ることができる」

この発言は日本を名指ししておらず、潘事務総長も直後に「事務総長として二国間の問題に直接介入することは望ましくない。これは私がいつも各国のリーダーに強調していることだ」と「弁明」している。とはいえ文脈からは、「右傾化」を中韓から指摘される安倍首相へのあてこすりなのは明白だ。

事実、直後に記者からは日本の憲法改正について質問が飛ぶと、潘事務総長も歴史認識の重要性を繰り返した上で日本を名指しし、冒頭に引いた安倍政権への直接的な「注文」に言及した。

この発言は日本国内はもちろん、「人民日報」を始め中国メディアも大きく報じた。一方で韓国では、日本の反発を受けてようやく注目が高まった格好だ。

事務総長は「中立」守る必要がある

本人が述べているとおり、国家間の問題に対し事務総長が一方に肩入れするような発言を行うことは異例だ。国連憲章でも、

「事務総長及び職員は、この機構に対してのみ責任を負う国際的職員としての地位を損ずる虞のあるいかなる行動も慎まなければならない」(第100条)

とその中立性が求められている。任期満了後の「大統領選出馬説」がささやかれているだけに潘事務総長としては国内向けのちょっとした「サービス」だったのかも知れないが、安倍政権としてはたまったものではない。

朝鮮半島地域研究などを専門とする木村幹・神戸大学教授はツイッターで以下のように発言している。

「事務総長が特定の国家を批判する発言は時にある(例えばシリアとか)ので、放置すると歴史認識問題で日本を批判する事は許容範囲になる。国連が『連合国』の延長線上にある事も重要。政府レベルできちんと批判しないと、同様の発言が続く事も」
「何れにせよ『フェアであるべき国連事務総長が日本の歴史認識を批判した』というのは重い。これが『通ってしまう』と、『日本の歴史認識を批判するのはフェアネスに反しない』事になる。日本側が歴史認識問題で自らの主張を通そうとするのであれば、ここは腕の見せ所」