「三井住友VISA太平洋マスターズ」で2年ぶりのツアー通算10勝目を挙げた石川遼。1打差で松村道央を振り切ると、ホールアウト後は関係者と抱き合い号泣。「つらくなかったですよ。“チョロかった”って言ってたと書いてください」と照れ笑いで隠そうとしたが、優勝者インタビューでも、記者会見でもその目には光るものがあった。
石川遼の1打速報で優勝までの全ショットを振り返る
 9勝までは怖いものしらずだった。15歳にして「マンシングウェアオープンKSBカップ」を制すと、プロ転向初年度に「マイナビABCチャンピオンシップ」で2勝目。さらに、09年には「ミズノオープンよみうりクラシック」を皮切りに4勝を挙げ賞金王にも輝いた。その攻め方は糸を引くようなストレートボールでピンだけを狙うスリリングなゴルフ。ハイリスク・ハイリターンな攻めは時に無謀と言われることもあったが、攻めて結果を出す石川にこれまでの常識はことごとく覆されていった。
 この5年間、石川が弱さを見せることはなかった。勝ち星を重ねている時は“出来すぎ”“ラッキー”といったフレーズを多用し、目標の「マスターズ」制覇だけを見据え「もっと練習したい」と過信することもなかった。2011年以降、勝ちから見放されている時期も「調子は良い。(勝利に)足りないものは無い」と決して後ろ向きな言葉を吐くことはなかった。時にはそれが本心でなくとも、自身を奮い立たせるために“強い石川遼”を演じ続けた。
 しかし、2年ぶりの優勝を決めたとき、石川はひと目をはばからず泣いた。チームのサポートへの感謝、勝てなかった時期の苦悩、すべてが堰を切ったようにあふれ出した。
 「苦しい期間はかっこつけていると思われるかもしれないし、自分でもそう思うんですけど…もがいているとか、勝てなくて悩んでいるとか、そういうふうに見られたくなかったんです」。勝利のなかったこの2年間、厳しい意見もあった。だが、石川遼も苦しんでいた。悩んでいた。そして、自らが抱えてきた弱さを勝ってようやくさらけ出すことができた。
 米ツアーシード権も確定し、いよいよ来季は米国を舞台に戦っていくこととなる。2年ぶりの優勝はこれまでの努力が間違いでは無かったと確信させるのに十分な内容だったが、それ以上に心に溜まっていた苦しさを吐き出せたことが何よりも大きいはずだ。10勝目にして初めて見せた“弱さ”は、いつしか強さへと変わっていく。弱さを見せてこそヒーローは強くなれる。
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