経済誌『週刊東洋経済』の編集長が、痴漢容疑で逮捕されたのは2月17日金曜日の夜11時過ぎのことだった。

 JR京浜東北線に乗った三上直行編集長(46歳)が、品川駅と大森駅の間で20代と30代の女性のお尻を触ったというのだ。金曜夜の京浜東北線の下りといえば、車内はギュウギュウ詰めである。報道によると、同じ車両に居合わせた乗客が三上編集長を取り押さえ、大森駅で警察に引き渡したとある。

 ここだけ切り取れば、社会的地位のある人物の痴漢事件である。ところが、少し気になることがある。それは逮捕される4日前の月曜日に発売された2月18日号の『週刊東洋経済』の特集記事だ。

「東京電力 偽りの延命」――、40ページを使った大特集では、「なし崩しの東電救済」「抵抗する東電」「原発コスト8.9円の『ウソ』」など、東京電力に対しての痛烈な批判記事を展開している。

 このタイミングのよさ。『週刊東洋経済』へ幾度となく寄稿している、ある経済評論家がこう話す。

「東洋経済と関わっている仲間内で、三上さんは刺された(ハメられたという意味)んじゃないかと噂されています」

 痴漢をでっち上げて、ある人物、もしくは所属している組織の社会的信用を失墜させる。そんなことが現実にあるのか? 関西方面で活動している、ある探偵会社の社長が“痴漢をつくる”方法についてこう明かす。

「痴漢のでっち上げを半ば専門にやっている業者はいます。メンバーには女性がいて、登録制になっていて比較的若い女性が多い。被害者役の女性はターゲットとほどよい距離を保ちつつ、電車が来たら同じ車両に乗ります。実際には触っていなくてもいいんです。被害者役の仲間の男性が近くにいて騒ぎ立て、ターゲットを取り押さえるんです。それを見た同じ車両の周囲の人は、ターゲットが痴漢をしたと思い込んでしまいます」

 やってなくてもダメなのか……。

「痴漢でっち上げの目的は、ターゲットがやったかどうかは関係なく“逮捕”なんです。それでアウトです。会社ではもうやっていけません。今回の編集長のように『酒を飲んでいて覚えていない』と容疑を否認しても、『酒を飲んで痴漢したかどうか覚えていない人の言うことなど信じられない』と言われてしまいますからね」

 三上編集長を知る、あるジャーナリストがこう話す。

「三上さんはまじめな人ですよ。痴漢なんてするような人ではないと思います。ただ、三上さんの人となりは別として、今回の東洋経済の特集が東電を刺激して、東電が後ろから手を回すかというと、それはリスクが大きすぎるように思います。確かに、今は東電にとって微妙な時期です。国有化の交渉をやっている最中ですからね。それに東電は、飲んで食って金を使って相手を取り込むということはやりますけど、強引に誰かを陥(おとしい)れることはないのでは」

 今回の痴漢事件の真相はわからない。しかし、雑誌や新聞などで企業や組織、政府に対して批判記事やスクープを飛ばすときには、身辺に対して細心の注意が必要なのかもしれない。本誌でも連載を持つ自由報道協会代表の元ジャーナリスト、上杉隆氏も、以前から自分の身を守るために注意を払っているという。上杉氏の本誌連載担当がこう話す。

「上杉さんは、約2年前の検察報道のときに東京地検から呼び出しを食らった前後から、法務省の人に直接、『ひっかけられるなよ』とアドバイスを受けたようです。その内容は『駅のホームでは女性と男性ふたりの3人いれば、ハメるのに十分だ』と。電車内である必要すらなく、駅の構内で女の人が『キャー!』と叫んで、残りの男が上杉さんの腕をつかんで、もうひとりが『あいつです』と言えば出来上がりだと。その忠告を受けて以来、上杉さんは電車に乗るのをやめています。当初はタクシーで移動して、その後は車を買いましたからね。移動はすべて車。お酒もその日から、都内近郊ではいっさい飲んでないですね。いつもノンアルコールビールですし。あと、新幹線のホームでは柱を背後にして、両手に荷物を持つようにしているそうです」

 わが週プレのイセムラ編集長、これからは両手に花じゃなく荷物ですよ。

(取材・文/頓所直人)

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