性別適合手術を希望する人が急増している。男性器を切断したり、女性器や男性器を形成したりして、性を変えるために行なう性別適合手術。いわゆる“性転換手術”のことだ。

 この手術を行なう岡山大学病院形成外科の担当者が言う。

「現在、当院での性別適合手術は1年以上の待ちが出ています」

 性別適合手術はGID(性同一性障害)患者を対象にするため、手術を受けるには事前に精神科の診断を受け、GIDであることを証明する精神科医2名の診断書が必要。生殖器にメスを入れる手術だけに間違いは許されず、精神科医の診断は半年ほどかけて慎重に行なわれるのだが……。岡山大学病院での手術を待ち続ける大阪府在住のK氏(43歳・男)がこう話す。

「私の場合、GIDの診断書をもらった上で手術まで“2年待ち”と言われました。単純に、手術室の前に性転換希望者の大行列ができているということ」(K氏)

 その理由について「クリニック日比谷」の形成外科医、百澤明氏が説明してくれた。

「私の知るかぎり、現在、日本で手術が可能な公的な病院は3つ、執刀できる形成外科医も4、5人。受け入れ可能な病院と医師が圧倒的に不足しているのです」

 では、なぜ手術希望者が増えているのか。前出のK氏がこう話す。

「現在、性別適合手術は健康保険の適用外。でも、近々、法改正されて保険適用となる可能性があります。病院の先生には『今年中には実現するかもしれないから早めに予約を』と言われました」

 前出の百澤氏が解説する。

「病院によって多少の差はあるが、国内での性別適合手術(男→女)は患者の全額負担で費用は約170万円。今までは高額な費用負担を嫌って手術を断念する人や、手術費が安いタイなどに渡航する人が後を絶たない状況でした。でも、保険適用となれば3割負担の約50万円で済む。実現したら手術の待ち期間はさらに延びることになる」

 昨年12月には日本精神神経学会など4学会が保険適用を求める要望書を厚生労働大臣に提出。性別適合手術の“3割負担”は現実味を帯びてきているというわけだ。特に「最近は男から女へ、その“一線”を越えようとする人が増加傾向にある」とは前出のK氏。

「テレビなどの影響で今や“オカマブーム”。『自分は女だ』とカミングアウトしやすい社会になり、オカマイベントでも新規の参加者が増えてきた。20歳以降に“デビュー”する人もかなりいる」

 さらにK氏が続ける。

「この世界には女装グセがある正常な男やゲイなどいろんなタイプがいるけど、『頂点はGID』という認識を持っている人が多いんです。そのブランドを得るためだけに精神科通いしたり、手術を受けようとしたり……。GIDはあくまで病気。これをファッション感覚でとらえる風潮は危険です」

 だが、危うい兆候はすでに出ていた。都内・精神科クリニックの精神科医A氏がこう囁(ささや)く。

「GIDをテーマにするテレビドラマがよくありますが、放映後は必ず患者が増える。そこで過去の体験などを聞くカウンセリングを行ない、思い込みか、GIDかを診断するのがわれわれの仕事ですが……。最近はネット上でGIDと診断されるための模範回答が流出しており、おそらくカウンセリングの手法がバレてしまっている。GIDを見抜くのが非常に難しくなっているのが現状です」

 前出の百澤氏もこううなずく。

「性転換に寛容な海外では、患者が生殖器を切除した術後に『こんなはずじゃなかった!』と病院を訴えたり、自殺するといったことが現実に起きています。今後、手術の症例が増加していくこの日本で、こうした最悪の事態が起きないとは限りません」

 2年待ちの性別適合手術。その2年後が心配になってきた。

(取材・文/興山英雄)

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