原発事故による放射能汚染で休業中のゴルフ場「サンフィールド二本松ゴルフ倶楽部」(福島県二本松市)などが、東京電力に除染完了までの維持費用など約8700万円を求めていた仮処分申請で、東京地裁が却下の判断を下したのは10月31日のこと。

 理由は、「除染は国の責任との指針が示されている。ゴルフ場の線量も毎時3.8マイクロシーベルトを下回り、営業に支障はない」(福島政幸裁判長)というもの。

 だが、この判決にはさまざまな異論が。福島県内のゴルフ場関係者が皮肉る。

「3.8マイクロシーベルトという数字は、原子力安全委員会が学校の校庭を利用する暫定的な安全基準として打ち出したもの。しかし、活動は一日1時間以内にとどめるという制限も付けられている。仮に1ラウンド(18ホール)を1時間で回るとすると、1ホールに要する時間は3分強。そんなゴルフをするのは不可能。『営業に支障がない』と言う裁判官は東電をかばっているとしか思えません」

「原発事故被災者支援弁護団」の高梨滋雄弁護士もこう怒る。

「(除染は責任を持って行なうという)国の方針を盾に、東電は自らの除染責任を逃れようとしている。その証拠に東電が被災者に送った損害賠償請求書に『除染費用の補償』という項目はない。東京地裁の決定はその東電の責任逃れを助けるもの。納得できません」

 とはいえ、司法の判断は重い。賠償せずに済んだ東電はさぞかしニンマリしていると思っていたら、アレレ、顔色が悪い? それもそのはず。この裁判は序の口、これから福島県下のゴルフ場による巨額の賠償請求が目白押しなのだ。そのひとつ、「いわきプレステージカントリー倶楽部」(いわき市・休業中)の合津純一郎総支配人が不満をぶつける。

「11月20日にコースを測定したら、地上高1mで毎時7マイクロシーベルトもありました。これでは営業再開のメドが立ちません。東電には何度も除染費用を賠償してとお願いしたのですが、なしのつぶて。250万円の仮払金があったきりです。おかげで20人いた社員も今は4人だけ。ラチが明かないので、原子力損害賠償紛争解決センターに調停を申し立てました。調停日は12月2日。請求額? 114億9000万円です」

「鹿島カントリー倶楽部」(南相馬市)の福躍好勝支配人も言う。

「地域復興の一助となればと思い、6月4日に一部コースを開放して仮営業していますが、コースの線量は毎時2.5〜8マイクロシーベルト。芝に付着したセシウムも高く、1万900ベクレル/kgもある。東電への請求額は除染費用、芝の張り替え費用、休業補償などを合わせて110億円前後になります」

 両ゴルフ場に対し、東電は屋内退避命令が出されていた4月22日以前の損害については賠償するが、その解除後の4月23日以降については「営業は可能だったはず」の一点張りで、補償に応じる気配はない。ところが……。

「東電は当ゴルフ場内にある別経営のゴルフショップには8月31日までの休業補償に応じている。同じ住所、番地にあるのに、どうしてゴルフショップは補償され、ウチ(ゴルフ場)は補償されないのか? 明らかな二重基準です」(前出・合津総支配人)

 なぜ東電はゴルフ場に対してここまで不誠実なのか? 経産省のあるキャリア官僚が言う。

「東電は原子力損害賠償法によって、11月21日に国から1200億円の支払いを受けたばかり。しかし、福島第一原発事故で休業に追い込まれたゴルフ場は12ヵ所もある。不動産価格の下落分も含めた賠償額はおそらく1ゴルフ場当たり200億円近くになるはず。つまり、ゴルフ場への賠償だけで、国からもらった虎の子の1200億円がふいになりかねない。賠償額をできるだけ切り詰めたいというのが東電の本音でしょう」

 延命のために賠償を渋りまくる東電。被害者を救済するには、やはり国の管理下に置くしかない?

(取材・文/姜 誠)

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