■滅多に見られない8-0の快勝

4万5千人の大観衆を飲み込んだ長居スタジアムは、日本のゴールラッシュに90分間、湧き続けた。歴史的な大勝。こんなゲームは、滅多に見られるものではない。試合直後には友人から「羨ましい! 俺も長居にいたかった」というメールをもらった。

だが、筆者はそれほど盛り上がってはいない。サッカーにおいて、ゴールほど痛快な瞬間はない。だが、それが8度も決まると、正直なところ興ざめしてくる。勝負の緊張感がなければ、サッカーの醍醐味は半減する。

シリアの失格によって繰り上げ出場となったタジキスタン、率直にいって彼らは日本の敵ではなかった。

ラフィク監督の宣言どおり、彼らは専守防衛に努めた。だが、守備の形があまりにも拙かった。ワントップを前線に残して、ペナルティエリア付近に9人のフィールドプレイヤーが群がっている。サイドはまばらで、中盤での寄せも皆無。これでは、どうぞシュートを撃ってください、ラストパスやクロスを出してください、といっているようなものだ。しかも中盤に味方がいないのだから、こぼれ球を拾って逆襲することもできない。シュート数39対1は当然の帰結。これほど勝負に無頓着なチームも珍しい。

■相手の弱さが得点差を生み出した

つまり、8対0は日本が素晴らしかったから、というより、敵が弱かったからだと考えたほうがいい。ミス続出で1点しか決められなかったベトナム戦からわずか3日で、同じチームが大変身できるはずもない。

もちろん、この試合にも評価すべき点がいくつかある。

ザッケローニ監督は集中力を持続したこと、ボールのないところでの動き、反応を評価していたが、筆者はゴールを積極的に狙い続けた点がよかったと考えている。
敵が出てこなかったこともあるが、日本の選手たちは積極的に前へボールを運び、遠目からでも果敢にシュートを撃った。この姿勢は足もとでつなぎすぎ、そこを狙われてリズムを崩したベトナム戦の教訓を生かした証だろう。
「オフ・ザ・ボールの動きがよくなった」とザッケローニは話していたが、この監督は修正すべき点はきっちりと修正してくる。

ハーフナーと中村の起用も功を奏した。特に長身ハーフナーの抜擢は、ゴール前を固めるタジキスタンには有効だった。

日本らしいパスによる崩しに固執せず、ゴールへの最短距離を選ぶ。当たり前だが、このあたりが結果重視のイタリア人らしい決断だ。監督が日本人だったら、いつものように李忠成を出して様子を見ていたのではないだろうか。高さを温存して地上戦で勝負していたら、いくら敵が弱くても、多少は苦労していたかもしれない。

■「世間」が盛り上がれば良いという訳では無い

この勝利によって、日本は最終予選進出に大きく前進した。そのことは素晴らしいが、ゴールラッシュに舞い上がっていては進歩がない。

今回のゴールラッシュで世間は盛り上がっているが、「世間」を構成する人々の大半は、いつもはサッカーを見ない人々ばかりであることを忘れてはならない。だが、メディアは世間が盛り上がれば売り上げが増すので、景気のいい言葉で世間を煽ろうとする。この仕組みにいい加減、気づかなければならない。

そういえばタジキスタン戦の前日、天皇杯でヴィッセル神戸が三洋電機洲本を8対0で退けた。神戸はJリーグで3連敗と不調にあえいでいたが、この圧勝でファンは「神戸は復活した!」、「神戸は進化した!」などと浮かれたりはしないだろう。

心に刻むべきは大苦戦したベトナム戦。タジキスタン戦の8対0は早く忘れたほうがいいと思う。

■選手採点

【GK】
川島永嗣〔6・0〕撃たれたシュートは1本。プレー機会はほぼ皆無だった。