藤田俊哉が熊本に残したもの【井芹貴志】
■短い時間の中でも彼らしくプレーした、熊本でのラストゲーム
「これはJ２じゃ反則だわ」
2009年３月８日のJ２開幕戦、隣に座って試合を見ていた同業の先輩が苦笑しながら言った。もちろんファウルのことではなく、彼のプレーについてだ。いつの間にかフリーの状態になってスペースに顔を出し、ボールを受けては簡単に捌いてリズムを作る。この試合、熊本は1-2で草津に敗れたが、しっかりとボールをつないで相手の守備網を崩していくという狙いの中心には、加入したばかりの藤田俊哉がいた。
ホーム最終戦後に行われたセレモニーでの藤田【写真・井芹貴志】
ホーム最終戦後に行われたセレモニーでの藤田【写真・井芹貴志】
それからちょうど１年10ヶ月。2010年11月28日、藤田は今シーズンのホーム最終戦となった37節・ギラヴァンツ北九州戦に後半途中から出場。プレー時間はアディショナルタイムも含め約16分と短かったが、限られた時間の中でチームの3点目となる西弘則のゴールを演出する。
赤いユニフォームを着て戦う最後の試合を自身の得点で飾ることはできなかったものの、ハーフウェイライン付近でパスを出した後もゴール前まで走り込んで、こぼれそうなところにきっちり詰めていた。そしてゲームの流れに応じてボールを落ち着かせる等、視野の広さと正確な技術、うまく全体をコントロールする今まで通りのプレーを見せた。
「自分なりのベストを尽くして貢献できればという思いでした。でも僕が入って3点目が取れたのは嬉しいね。もちろん誰が決めてもいいけど、欲を言えば、自分が入れたかったかな（笑）」
J2リーグ戦75試合６得点、天皇杯１試合出場という熊本での成績は、彼のキャリアにおいてはほんの一部に過ぎない。だが２シーズンの在籍期間で残したのは、数字だけでは語れない、熊本というクラブの将来につながるものだ。
■藤田に求められた役割とは何だったか
熊本がJリーグ入りして２年目のシーズンを迎えるにあたり、大物選手の獲得に動いているという話を耳にしたのは、2008年暮れのこと。漏れ伝わってきたのは「海外でのプレー経験があって、知名度も高い、元日本代表の中盤の選手」だという。条件に該当する現役選手が２人ほど思い浮かんだが、果たしてJ２の地方のクラブに本当に来てくれるのか――。
だが、「是非ウチでやってくれと」（池谷友良総監督GM）いう熱い思いはしっかり伝わり、「海外経験がある知名度も高い元日本代表の中盤の選手」は、晴れて熊本の一員となる。2009年１月28日に行われた加入会見で壇上に姿を現した藤田俊哉は、こう話した。
「名古屋を退団する事になった時に、いちばんに『このチームに君が必要だ』と強く言ってもらえたのが、熊本に決めた大きな理由です。その期待に少しでも応えられるよう、皆と一生懸命サッカーをして、ロアッソ熊本がもっともっと強いチームになってJ1を目指していく中で、自分が何らかの力になれたらと思います」
加入を決めるに際して藤田が「言ってもらえた」と話した「このチームに必要」という言葉には、単に戦力として必要という以上の意味が含まれている。例えば加入そのものが大きな話題になったように、「ロアッソ熊本」というチーム名がメディアに露出する回数が増え、それが観客増にもつながる可能性もある。だが加入会見の時の池谷GMのコメントには、そういった外部への訴求効果にも増して、チーム内、そしてクラブへの影響力に対する期待の大きさが込められていた。
「僕が最初に熊本に来た時と同じ話だけど、『洗濯は自分でするんですか？』とか、改めていろんな問題を俊哉から聞いて、懐かしいなぁと思うわけです。プロとしての最低レベルからも大きく離れている部分があって、そういう感覚が薄れてしまっているところがあった。純粋にサッカーをやっていく中で必要なものを、伝えて、教えて欲しいし、要求して欲しい。彼のようなビッグネームを連れてくるという事は、環境整備をして、そういうことに応えていけるチームにならなきゃいけない。そのためにも俊哉が必要だった」
つまり、日本を代表するプレーヤーの１人である藤田俊哉を迎えることによって、若い選手達や歴史の浅いクラブがステップアップする、あるいは自ずとそうならざるを得ない状況に、あえて追い込んだのだ。
（続きは、Jマガ携帯公式サイトで）
■著者プロフィール
井芹貴志
1971年生まれ。大学卒業後、情報誌の編集に11年携わり、2005年よりフリー。九州リーグ時代から熊本を取材し、「J's GOAL」「週刊サッカーダイジェスト」「エルゴラッソ」などで熊本を担当。
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「これはJ２じゃ反則だわ」
2009年３月８日のJ２開幕戦、隣に座って試合を見ていた同業の先輩が苦笑しながら言った。もちろんファウルのことではなく、彼のプレーについてだ。いつの間にかフリーの状態になってスペースに顔を出し、ボールを受けては簡単に捌いてリズムを作る。この試合、熊本は1-2で草津に敗れたが、しっかりとボールをつないで相手の守備網を崩していくという狙いの中心には、加入したばかりの藤田俊哉がいた。
ホーム最終戦後に行われたセレモニーでの藤田【写真・井芹貴志】
ホーム最終戦後に行われたセレモニーでの藤田【写真・井芹貴志】
それからちょうど１年10ヶ月。2010年11月28日、藤田は今シーズンのホーム最終戦となった37節・ギラヴァンツ北九州戦に後半途中から出場。プレー時間はアディショナルタイムも含め約16分と短かったが、限られた時間の中でチームの3点目となる西弘則のゴールを演出する。
赤いユニフォームを着て戦う最後の試合を自身の得点で飾ることはできなかったものの、ハーフウェイライン付近でパスを出した後もゴール前まで走り込んで、こぼれそうなところにきっちり詰めていた。そしてゲームの流れに応じてボールを落ち着かせる等、視野の広さと正確な技術、うまく全体をコントロールする今まで通りのプレーを見せた。
「自分なりのベストを尽くして貢献できればという思いでした。でも僕が入って3点目が取れたのは嬉しいね。もちろん誰が決めてもいいけど、欲を言えば、自分が入れたかったかな（笑）」
J2リーグ戦75試合６得点、天皇杯１試合出場という熊本での成績は、彼のキャリアにおいてはほんの一部に過ぎない。だが２シーズンの在籍期間で残したのは、数字だけでは語れない、熊本というクラブの将来につながるものだ。
■藤田に求められた役割とは何だったか
熊本がJリーグ入りして２年目のシーズンを迎えるにあたり、大物選手の獲得に動いているという話を耳にしたのは、2008年暮れのこと。漏れ伝わってきたのは「海外でのプレー経験があって、知名度も高い、元日本代表の中盤の選手」だという。条件に該当する現役選手が２人ほど思い浮かんだが、果たしてJ２の地方のクラブに本当に来てくれるのか――。
だが、「是非ウチでやってくれと」（池谷友良総監督GM）いう熱い思いはしっかり伝わり、「海外経験がある知名度も高い元日本代表の中盤の選手」は、晴れて熊本の一員となる。2009年１月28日に行われた加入会見で壇上に姿を現した藤田俊哉は、こう話した。
「名古屋を退団する事になった時に、いちばんに『このチームに君が必要だ』と強く言ってもらえたのが、熊本に決めた大きな理由です。その期待に少しでも応えられるよう、皆と一生懸命サッカーをして、ロアッソ熊本がもっともっと強いチームになってJ1を目指していく中で、自分が何らかの力になれたらと思います」
加入を決めるに際して藤田が「言ってもらえた」と話した「このチームに必要」という言葉には、単に戦力として必要という以上の意味が含まれている。例えば加入そのものが大きな話題になったように、「ロアッソ熊本」というチーム名がメディアに露出する回数が増え、それが観客増にもつながる可能性もある。だが加入会見の時の池谷GMのコメントには、そういった外部への訴求効果にも増して、チーム内、そしてクラブへの影響力に対する期待の大きさが込められていた。
「僕が最初に熊本に来た時と同じ話だけど、『洗濯は自分でするんですか？』とか、改めていろんな問題を俊哉から聞いて、懐かしいなぁと思うわけです。プロとしての最低レベルからも大きく離れている部分があって、そういう感覚が薄れてしまっているところがあった。純粋にサッカーをやっていく中で必要なものを、伝えて、教えて欲しいし、要求して欲しい。彼のようなビッグネームを連れてくるという事は、環境整備をして、そういうことに応えていけるチームにならなきゃいけない。そのためにも俊哉が必要だった」
つまり、日本を代表するプレーヤーの１人である藤田俊哉を迎えることによって、若い選手達や歴史の浅いクラブがステップアップする、あるいは自ずとそうならざるを得ない状況に、あえて追い込んだのだ。
（続きは、Jマガ携帯公式サイトで）
■著者プロフィール
井芹貴志
1971年生まれ。大学卒業後、情報誌の編集に11年携わり、2005年よりフリー。九州リーグ時代から熊本を取材し、「J's GOAL」「週刊サッカーダイジェスト」「エルゴラッソ」などで熊本を担当。
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