「オイ! この桃の件。そろそろいいだろ。一発かましたれや!」マンションの一室で、男女が携帯電話で何やらわめいている。桃の件で上の者から指示された若い男が、携帯電話に手をかけて番号を押し始めた。

 電話を受けたのは食品を扱う通販会社Aのお客様相談室。担当者は突然のお客様の要望に困惑する。電話をかけてきた男は、12個入りの岡山の高級な甘い桃を購入したという。しかし、本日12個目を食べ始めたが、いずれも甘くなかったとして、支払った全額を返還するよう要求してきたのだ。理不尽な要求のように見えるが、「返品特約」を逆手にとった新たな方法である。

 時を同じくして、化粧品の通販事業を行うB社のお客様相談室に一人の女性から問い合わせの連絡が入る。化粧水を使用してきて、もう底をつく状態にもかかわらず、今さらながらに「注文したのは、化粧水ではなく化粧クリームだった」と白々しく苦情を述べている。やはり、「返品特約」を利用した返金請求だった。

 一般的に通信販売にはクーリングオフの制度はない。「返品特約」が付帯されているか、商品に隠れた瑕疵(傷や欠陥)がない限り、原則として返品の対象とはならない。彼らは、「返品特約」が付帯されている通信販売業者を狙っては、返品の対象となる事柄を偽装し、事業者に要求する。その対応を観察し、彼らにとって「良いカモ」であるかどうかを見定めている。

「そこのリストの頭にある業者。D社っていったかな。あそこはやめとけ! 最近、警察のOBが入ったという噂がある。それよりE社だ。あそこはいいぞ! がっつり儲けさせてもらえ!!」

 返金要求で手応えをつかみ、対応が甘いと見るや、一斉に攻撃する。しばらくは返金で許してやるが、次第にエスカレートし、歯が折れた、お腹が痛くなった、大切な商談に行けなかったと、賠償金を要求するようになる。一度食いつかれたら、何百人もの仲間から骨までしゃぶられることになるのだ。

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