現地紙より。エジプト代表の宿舎とイングランド・ラグビーサポが襲われたとの報道<br>[photos by Tsutomu KISHIMOTO]

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 南アフリカは世界でも最悪の犯罪都市であり、一日の殺人件数は警察が把握するだけで50人、カージャックは年間で1700件にも達する――。

 数字に多少の違いはあるが、どのメディアも南アフリカは恐ろしい国だと報道している。そんな国で開催されたコンフェデ杯、グループリーグを終えるまでに筆者の身の周りで起こった出来事を駆け足で振り返っていきたい。

 高級エリア「サントン」は、犯罪の見本市のようなヨハネスブルクで、最も安全な場所である。筆者は多くの仲間たちと、サントンのホテルを拠点に動いていた。

 この地につくまで、サントンは自由に出歩ける場所だと思っていた。だが、そんなことはなかった。昼間はともかく、日が暮れてから通りを出歩くのは、かなり怖い。

 レストランやブティックが立ち並ぶ「マンデラ・スクエア」に新聞を買いにしばしば出かけたが、ここでもかつて銃撃戦が起きたことがある。ギャングたちは、セキュリティガードが銃器を所持していないことを知っているのだ。日暮れなら、2、300メートル先のホテルに移動するときも、タクシーを呼ぶ。それが常識になっていた。

 観光都市ケープタウンには、「ウォーターフロント」と呼ばれる広大で新しいモールがあり、夜遅くまで賑わっている。知人とリラックスして歩いていたら、後方からバタバタバタという激しい足音が近づいてきて、慌てて振り返ると、黒人の少年ふたりがセキュリティに追われていた。観光客の懐中を狙ったのだ。二人はあえなく捕まり、連行された。

 サントンやウォーターフロントが安全といわれるのは、他の地域に比べて、という意味だ。日本の感覚の安全ではない。

 ある晩には、仲間と日本食レストランで食事をしてタクシーで帰る際、警察官に職務質問を受けた。だれもパスポートを持っていなかったことで、警察官は「連行するぞ」とまで口にした。コンフェデの記者証を持っていたことで無事に解放されたが、警察官が暗に袖の下を要求していたことは間違いなかった。

 この国に限ったことではないが、南アフリカでは警察も信用できない。2010年には治安維持のために警察官が増員されるが、質の低い警察官が増えるだけかもしれない。

 南アフリカの新聞をチェックすると、毎日のように犯罪のニュースで埋め尽くされている。カージャック、銃撃戦、レイプ……。コンフェデに関わるメディアやスポンサーにも被害は出ている。警官に因縁をつけられたくらいで騒いでいる筆者は、かなりラッキーなのだろう。

 最後に、南アフリカに滞在して筆者が日々気をつけていることを、ひとつ紹介したい。

 20ランド(約220円)の札を、ポケットに多めに入れておく。脅されたときに、サッと支払うためだ。最近では、50ランドないと納得してくれないという意見もあるが、いずれにしろ、これで命が守れるとしたら安い話だ。

取材・文/熊崎敬