湯沸かし時間の比較

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最近、“IH”という言葉を目にする機会が増えてきている。テレビの通販番組や料理番組、飲食店などでも見かけた人も多いのではないだろか。IHは、火の代わりに電気を利用した調理器具だ。火を利用しないため、安全なだけでなく二酸化炭素の排出削減にもなり、地球環境に優しいハイテク機器である。

ところで、この「IHクッキングヒーター」は、火がないのにどうして鍋を温められるのだろうか? ガスに匹敵するほどの火力はどのようにして得られるのだろうか? その技術の核心に迫ってみよう。

■火を使わずに加熱ができる IHを支える技術
IH」とは、Induction Heating(誘導加熱)の略称で、「電磁誘導加熱」を意味する。今日では同様の技術を利用したものとして、IH炊飯器やIHポットなどが存在する。特筆すべき点は、IHクッキングヒーター自身が発熱している訳ではなく、鍋やフライパンを置いたときにはじめて、それらが熱を発するという点だ。鍋が置いてなければ、発熱はおこらずプレートが熱くなることはない。まるでキツネにつままれたような話だが、これには科学的な根拠がある。

IHの技術を理解するために、理科の実験を思い出してみよう。コイルの中に磁石を出し入れすると、コイルに電流が流れる。この現象は「ファラデーの電磁誘導の法則」と呼ばれる有名な法則だ。

IHクッキングヒーターは、プレートの内部に磁力を発生するためのコイルが配置されており、コイルに電流を流して磁力線を発生させる。その磁力線が鍋底を通過する際に電磁誘導が起こり、渦電流が鍋に流れる。このとき、鍋の電気抵抗により鍋そのものが発熱するという訳だ。直感的に説明すると、電球に電流を流すと、光とともに熱を発生するのと同じ現象といえるだろう。


■電磁波は健康に大丈夫なのか
IHクッキングヒーターは電磁誘導を利用しているので、電磁波をたくさん出すようなイメージを持つ人がいるかもしれない。電磁波による健康への害が心配になる人もいるであろう。

そもそも電磁波は、電気力線と磁力線からなる。電気力線は、電場の様子を視覚的に理解できるようにあらわした線であり、磁力線は磁石のN極から出てS極ヘ向かう仮想の線だ。IHクッキングヒーターの電磁波は、IHを支える技術で触れたとおり、厳密には磁力線(磁界)なので、仮に健康への被害があるとすれば、それは磁界によるものとなる。

IHクッキングヒーター 電磁波 Q&Aに詳しく書かれているが、通商産業省の「電磁界影響に関する調査・検討報告書」の「身近にある磁界の発生源の大きさに関するデータ」からも明らかなように、IHクッキングヒーターの磁界はヘアードライヤーや掃除機に比べてはるかに少ない数値だ。さらに国内外のガイドラインを大幅に下まわっているので、通常の使い方をしていれば、健康に有害な影響をおよぼすことはない。


■どっちが優秀? IHクッキングヒーター vs ガスコンロ
ところで、IHクッキングヒーターは普及してきているとはいえ、まだガスコンロを使用している家庭は多いであろう。IHクッキングヒーターは、ガスコンロよりも優秀なのだろうか?

●火力は?
主婦が一番気になるのは、やはり火力だろう。とくに中華料理では、強い火力を必要とする料理も多い。結論から述べると、IHクッキングヒーターでも強い火力が得られる。

ここで今一度、IHクッキングヒーターの基本を理解するために、電磁石の実験に立ち戻ろう。電磁石では、磁石の元となる金属に巻いたコイルの巻き数を増やしたり、電圧を高くことで磁石の力を強くできた。実は、IHクッキングヒーターでも同様の手法が使える。IHクッキングヒーター内のコイルの巻き数を増やし電圧を高くすれば、発熱を増すことができる。一般の家庭用コンセントは100Vだが、IHクッキングヒーターでは通常200Vの電源を使用することで、ガスコンロに匹敵する強い火力を得ているのだ。
図1.湯沸かし時間の比較
図1.湯沸かし時間の比較

※直径20cmのステンレス単層鍋を使用し、20度の水1.5リットルを90度まであたためるのに要する時間。IHクッキングヒーターには、松下電器産業製 KZ-H32Bを使用。

参考:湯沸かし時間の比較(東京電力 くらしのラボ調べ)

図1を見ると、IHは2kWでガス強火と同等の発熱を有しており、参考のサイトにも「強火が命のチャーハンもおいしく仕上がります」と書かれているので、強い火力を使う料理も問題なさそうだ。

●電気代は?
これだけの高火力が得られると、電気代がかかるのでは? と心配される人もいるであろう。東京電力によれば、IHクッキングヒーターの光熱費は月平均1,100円程度※であり、これを1日に直すと約37円となり、実質的にガスコンロと変わらないという。さらにオール電化住宅には、電気量料金が5%割引になる「全電化住宅割引」が適用されるそうだ。
※日本電機工業会「IHクッキングヒーター Q&A」

●使い勝手は?
IHクッキングヒーターはメンテナンス性がよく、トッププレートがフラットなので、汚れが付いた場合でもすぐに拭き取ることができる。機能的な面を見ると、鍋底の温度が上がり過ぎたり、鍋のない状態で一定時間が過ぎると、自動的に電源をオフにする機能などを備えた製品もある。

IHクッキングヒーターには、まだまだ良い点がある。ガスコンロのようにまわりの空気を暖めてしまうことがないので、キッチンまわりが暑くならずに済む。炎を使わないので、鍋底にススができたり空気を汚す心配がなく、立ち消えや不完全燃焼の心配がない。

●欠点はないの?
ここまでくると、IHクッキングヒーターはまるで優等生見える。あえて弱点をあげるとすれば、鍋底が平らなものでなければ使用できない点や、銅やアルミの鍋が使えない点などがあげられる。ただ後者に関しては、オールメタル対応IHクッキングヒーター※の登場により、改善されている。

※オールメタル対応IHクッキングヒーターは銅やアルミの鍋を使用できるが、鉄鍋に比べて熱効率が落ち、ガスコンロよりもコストが高くついてしまう場合がある


IHクッキングヒーターは、台所に革命をおこしたハイテクグッズだ。登場して間もない頃は銅やアルミの鍋が使えなかったが、その欠点は技術革新により克服されつつある。泣き所を抱えているのは事実だが、それを補うのに十分な魅力を備えたハイテクグッズといえるだろう。


参考
東京電力
東京ガス
日本電機工業会

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