夜も眠れないような困難に直面したとき、「名トップ」と呼ばれる人たちは、なにを考え、どう動いてきたのか。「プレジデント」(2017年3月20日号)では、エステー、大和ハウス工業のトップに、場面別の対処法を聞いた。第5回は「時代の流れについていけない」について――。

QUESTION
時代の流れについていけない

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エステー・鈴木 喬 会長の答え
面白いことを求め続けていれば、知らないうちに時代の最先端に

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■2カ月に1回は、海外に飛んで研究

IT技術なんかは一番そう感じますね。人にも教わるんだけどね。1度できても2度とできない(笑)。

写真=iStock.com/metamorworks

私は負けるのが嫌なんです。何でもナンバーワンにならないと気が済まない。だから自分ができないのは悔しいけれど、それで時代の速さについていけないとは思わない。時代の変化や経営環境の移り変わりについては、いろいろな本を読んで先読みします。トランプ大統領の誕生で世界はどうなるとか、中国とロシアとドイツが接近すると怖いなとか。おっちょこちょいだからつい先のことを考えちゃうんですよ。

2016年からは1カ月おきに海外に行ってます。たとえば6月にはフランスの土を研究しにいきました。消臭芳香剤の分野はいずれアロマテラピーや天然香料の方向に向かっていく。フランスはアロマ先進国で、子供の夜泣きや腹痛を治すときにアロマを使う。ラベンダーが盛りの時期にフランスに行って土や花の状態、アロマの精製場から流通、小売りの状況までつぶさに見てきました。これが商売のタネになるかといえば、先取りしすぎてうまくいかないことが多いんですけどね(笑)。

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大和ハウス工業・大野直竹 社長の答え
人にはAIが真似できない部分も。いつの時代も人間力向上は必須

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■家を売ることは、夢を売ること

AIやICTのような技術は恐ろしい速さで進化していて、50年先、100年先の世界がどうなっているのか、なかなか見通せない時代になっているのは確かです。人間がやっていることの多くを機械やロボットが代替する時代はそう遠くない将来にやってくるのでしょう。今や株の売り買いまで人工知能にやらせるわけですから。それでも人間でなければできないことがあって、それは必ず残ると思うんです。

我々が扱っている商品は、どこか店に立ち寄って衝動買いするようなものとは違う。お客様の立場からすれば「この人に夢を託したい」と任されることが多いんです。

若手の営業マンだったりすると、知識が乏しいとか、経験が浅いとか、相手は感じるかもしれない。でも、「この人は若いけど何か見込みがある」とか「夢が託せそう」ということで信頼を勝ち得て、仕事につながることもある。だから仕事を覚えるのは大切だけれど、まず人間力を磨いてほしい。本を読んだり、映画や芝居や絵画を見たり、自分でこうしたらいいと思うことをどんどんやって、どこから見ても魅力的な人を目指してほしい――。そういうことを入社式で必ず言っています。

技術の進化についていけないと感じることはあるかもしれない。でも人間の力には、どこまでいっても機械が真似できない部分がある。相手を魅了したり、信頼を得る力というのは、まさにそうだと思う。私はそこにこだわっていきたいし、大切にしなければいけないと思います。

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鈴木 喬
エステー会長
一橋大学卒業後、日本生命入社。エステーに出向し、1998年社長。「消臭力」などヒットを連発。
 

大野直竹
大和ハウス工業社長
慶應義塾大学卒業。入社以来、一貫して営業畑。副社長、営業本部長などを経て現職。
 

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(ジャーナリスト 小川 剛 写真=iStock.com)