地方の鉄道会社は大手の鉄道会社から中古車両を譲り受けて古い車両を置き換えることがありますが、とくに東急の中古車両が地方私鉄に渡るケースが多いようです。なぜ東急の中古車は地方私鉄で普及しているのでしょうか。

実は現在の車両と同じ時期にデビュー

 三重県北部と岐阜県西部を結ぶ養老線の車両が、東急電鉄の中古車両に変わります。


東急池上線を走る7700系(2014年8月、草町義和撮影)。

 養老線の線路と車両を保有して運行会社の養老鉄道に貸し付けている一般社団法人の養老線管理機構は、東急池上線で使われてきた7700系電車15両を譲り受け、現在の車両(31両)の約半数を置き換えることにしました。15両のうち6両が2019年2〜3月に運行開始の予定です。

 鉄道会社は通常、車両が古くなれば新しい車両を導入して置き換えます。しかし地方の私鉄や第三セクター鉄道は経営が厳しいこともあり、高価な新型車両の導入は困難。そのため、大手の鉄道会社から比較的新しい中古車両を安く譲り受けて、古い車両を置き換えることがあります。

 実際、養老鉄道が使っている現在の車両は約50年前の1963(昭和38)年から1970(昭和45)年にかけて製造されました。養老線管理機構も2018年8月、「(現在の車両は)老朽化が進んでいるため、車両更新により、塗装費や動力費等の削減、サービス向上を図ります」と発表しています。

 しかし、養老線管理機構が譲り受ける7700系は、1963(昭和38)年から1966(昭和41)年にかけて製造された車両。老朽化対策のはずなのに、現在使っている車両とほぼ同じ時期に製造されているのです。しかも、養老線管理機構は7700系を「今後30年程度利用する」としています。この計画通りに行けば、引退の日を迎えるのは製造から約80年後の2048年ごろ。蒸気機関車などの保存車両を除けば、相当な長寿車両になりそうです。

「新しい」と「長持ち」の組み合わせ

 養老線の古い車両はなぜ、同じ時期に製造された東急の古い車両に置き換えられることになったのでしょうか。養老線管理機構に話を聞きました。


養老鉄道が現在使っている車両。もともとは近鉄の車両だが、2018年からは養老線管理機構が保有して養老鉄道に貸し付けている(2013年8月、草町義和撮影)。

――いつごろから車両の更新を考えるようになったのでしょうか。

 去年(2017年)ぐらいからです。

――7700系の導入目的は現在使っている車両の老朽化対策とのことですが、7700系も現在の車両とほぼ同じ時期に製造されています。

 7700系の製造時期は確かに現在の車両と同じです。しかし、電装部品は約30年前に交換されていて、現在の車両に比べ新しくなっています。

――車体は製造当時のままで交換されていません。

 車体は現在の車両と違ってステンレス製ですから長く使えます。この点も7700系を購入するポイントになりました。

――現在使っている車両を7700系に置き換えることによって、利用者にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

 一部の車両は改造してクロスシートや車椅子スペースを設けます。これによりサービスの向上が図られます。

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 7700系は製造された当初、7000系(初代)を名乗っていました。しかし、1987(昭和62)年から1991(平成3)年にかけてモーターや制御装置などの電装部品を新しいものに交換し、これにあわせて形式名を7700系に変えています。このため、走行装置は現在の車両よりも新しくなっているのです。

 一方、車体も現在使っている車両と異なり、ステンレスを採用。ステンレスは腐食に強く、かなり長い期間使っても劣化しません。長持ちするということは、古い車両を新しい車両に置き換える間隔も長くなり、長い目で見れば車両の購入費用を抑えることができるといえます。

まだある東急車両を使う地方私鉄

 東急の中古車両を使っている地方の鉄道はほかにも多数あります。7000系(初代)に限ってみても、青森県の弘南鉄道や福島県の福島交通、石川県の北陸鉄道、大阪府の水間鉄道などが譲り受けていますし、改造後の7700系も十和田観光電鉄(2012年廃止)が譲り受けています。


東急の中古車両は全国各地に散らばっている。写真は北陸鉄道に譲渡された7000系(2015年1月、草町義和撮影)。

 東急の中古車両が地方の鉄道で普及している理由は、おもにふたつあるといえます。ひとつは先に述べた通り、ステンレス車体を採用していることですが、実際は東急の車両がステンレス車体に移行する前から地方私鉄への譲渡が活発でした。そこで出てくるふたつ目の理由が、地方の鉄道で「使いやすい大きさ」ということです。

 東急の車両は1両の長さが約20mのもの(20m車)と約18mのもの(18m車)があり、かつては18m車が主流でした。しかし、東横線などは輸送力が大きい20m車に移行。池上線などでも新型18m車の導入が進み、古い18m車は続々と引退していきました。一方、地方の鉄道は18m車に合わせた規格で整備されていることが多く、20m車の導入が難しい鉄道もあります。これは都市部の鉄道に比べて利用者が少なく、輸送力が小さくても問題ないため。古い18m車の「再就職先」としては、うってつけの環境だったのです。

 ちなみに養老線はかつて近鉄の路線で、現在の車両も近鉄時代から使い続けている20m車です。今回の車両更新でも近鉄から中古車両を譲り受けるという選択肢があったように思えますが、養老線管理機構は「近鉄から購入することも考えなかったわけではありません。しかし、近い時期に近鉄の中古車両が出てくる見込みがなかったため、東急の中古車両を購入することにしました」としています。

【画像】養老鉄道7700系のデザイン案


養老鉄道に導入される7700系のデザイン案(画像:養老線管理機構)。