「死んでいる会社」は「羅針盤」が機能せず、社員たちは迷走してしまう(写真:wildpixel / iStock)

経営において本質的に大事なことは、たった1つ。それは、会社が「生きている」ことである。
『現場力を鍛える』『見える化』など数多くの著作があり、経営コンサルタントとして100社を超える経営に関与してきた遠藤功氏は、「30年間の結論」として、会社や組織は「見た目の数字や業績」より、本質において「生きている」か「死んでいる」が重要だという。
30年の集大成として『生きている会社、死んでいる会社――「創造的新陳代謝」を生み出す10の基本原則』を上梓した遠藤氏に、「死んでいる会社」の経営陣に共通する「4大NGの共通点」について解説してもらう。

経営陣はリーダーとしての「仕事」をするべき

30年の長きにわたって、経営コンサルタントという仕事をやってきた。100社以上の会社と濃密なお付き合いをし、ここ10年近くは複数の会社の社外取締役、社外監査役としても経営に関与してきた。

その経験を通して確信して言えることが1つある。それは「会社は生きていなければならない」ということだ。

「生きている会社」と「死んでいる会社」を分ける差はいくつかあるが、「死んでいる会社」の経営者はリーダーとしてなすべき仕事を正しく認識していない

「生きている会社」の経営者は、会社の目的である「価値創造」を絶え間なく続けるために自分に求められている仕事を正しく認識し、実行しているが、「死んでいる会社」の「勘違い経営者」は正しい仕事の認識ができていないので、「価値創造」を続けていくことができないのである。

会社のリーダーである経営者が全身全霊を懸けて取り組まなければ、「生きている会社」にはなりえない。経営者が社員全員を「主役」にするような組織をつくるためのリーダーシップをイキイキと実行していれば、会社はイキイキする。しかし、経営者が死んでいれば「死んでいる会社」になってしまう。

では、「死んでいる会社」の経営者によく見られる「4大NG」とは、いったい何なのか。早速、紹介していきたい。

「死んでいる会社」の経営者によくある4大NGの1つ目は、「扇動者」として会社の目的や目標という「旗」を立てることができないことである。

会社が「登るべき山」を指し示し、その気にさせる

【1】会社の「旗」を立てる「扇動者」になれない

経営者の1つ目の仕事は、「扇動者」として組織を引っ張ることである。組織の先頭に立ち、夢や目標を熱く語り、社員たちを力強く鼓舞しなければならない。

私たちは混迷の時代を生きている。経営者は先が読めないあいまい模糊とした環境の中で、経営の舵取りをしなければならない。

そのとき何より大事なのは、自分たちが「登るべき山」を明確にすることである。経営環境が不安定で流動的だからこそ、揺らぐことのない夢や理想、つまり共通の「旗」が不可欠なのである。

そして、「旗」を立てることは経営者にしかできない。「旗」がたなびいていなければ、「会社」とは呼べない。

「旗」を立てるとは、目的、目標を定めるだけでなく、社員たちをその気にさせ、その実現に向かわせることである。「登るべき山」を明確にしても、社員たちの心の中に「登ろう」とする意思がふつふつと湧いてこなければ意味がない。

生きている会社」の経営者は夢や理想を熱く語り、自らその先頭に立ち、社員たちを鼓舞、扇動することができている

一方、「死んでいる会社」の経営者は、夢や理想を語ろうとしない。目の前の現実ばかりに引きずられ、社員たちはどんどんやる気をなくしていくのだ。

【2】会社の進路を示す「羅針盤」になれない

経営者の2つ目の仕事は、経営者自らが「羅針盤」となり、進むべき進路を明確に示すことである。

「登るべき山」を示しても、そこに到達するための親切な登山マップが用意されているわけではない。自分たちの手で道を切り拓いていかなければ、頂上には到達できない。

地図がないからこそ、「どの方向に向かうべきなのか」をリーダーは力強く示さなければならない。「死んでいる会社」は「羅針盤」が機能せず、社員たちは迷走している。

一方、「生きている会社」の経営者は「登るべき山」への合理的かつ現実的なルートを示すことができている。

進路の決定は「合理的」かつ「現実的」なものでなくてはならない。会社の強み、弱みを冷徹かつ客観的に見抜き、事実や数字に裏付けされた「理詰め」の判断、決断がなくてはならないのだ。

「死んでいる会社」の経営者によくある4大NGの3つ目は、「指揮者」として1つのハーモニーを生み出すことができないことである。

【3】社員の能力を引き出し、1つにまとめる「指揮者」になれない

経営者の3つ目の仕事は、会社の「指揮者」として社員たちの能力を最大限に引き出し、その力を1つに束ねて組織の力に変えることである。

 指揮者は、オーケストラという「共同体」のリーダーとして1つにまとめ上げ、音楽という感動を創造する。音楽家は「感動を創造する」のが仕事であり、経営者は「価値を創造する」のが仕事である。いずれも指揮者や経営者ひとりでは創造は実現できない。

「生きている会社」の経営者は、社員一人ひとりの個性、資質を見抜き、適材適所に配置し、1つの力にまとめ上げ、良質なハーモニーを奏でることができる。「指揮者」という仕事は、経営者にとって最大の醍醐味である。

「死んでいる会社」の経営者は「指揮者」としての力量に欠け、良質なハーモニーを生み出すことができない。どんなに優秀な社員がいても、バラバラのままでは1つの音楽にはなりえないのだ。

【4】「現場で汗をかく社員」を主役にする「演出家」になれない

「扇動者」「羅針盤」「指揮者」の3つの仕事はいずれも「表舞台」の仕事だが、経営者の4つ目の「演出家」という仕事は、「裏方」の仕事である

「生きている会社」の経営者は、社員たちを「舞台」の上に立たせ、社員たちを「主役」にしている。時にスポットライトを当て、演じやすい環境を整えている。名経営者と言われる人は、「名演出家」でもある。

しかし、「死んでいる会社」の経営者は、自ら舞台の真ん中に立ち、「主役」を演じることばかりに執着する。現場にスポットライトを当てることもせず、現場を覚醒させることも、社員たちの力を引き出すこともできない。しかし、「演出家」のいない舞台が輝くことなどありえない。

経営者だからこそ裏方の仕事を大事にする

経営者の4つの仕事の濃淡は、会社の成長ステージ、規模、競争環境などによって大きく変わってくる


会社の草創期には「扇動者」「羅針盤」の仕事がとても大事であり、会社の基盤がある程度整ってくれば、「指揮者」として全体をとりまとめる仕事が重要になる。会社が安定期に入れば、「演出家」としての仕事が求められ、同時に、次なる成長に向けて「扇動者」「羅針盤」としての仕事も並行して進めなくてはならない。

皆さんの会社の経営者は、はたして「生きている」だろうか。「生きている経営者」が不在のままでは、「生きている会社」になれるはずもない。

権力ばかりを振りかざし、役員室に閉じこもり、現場にも行かず、社員たちとも交流しない「勘違い経営者」が闊歩する会社は、間違いなく死んでいく

まずは経営者自らが、本記事で紹介した4つの仕事をきちっとやり切る――。それこそが「生きている会社」へと変身するための第一歩である。