家賃は安い? 心霊現象はある? 事故物件住みます芸人にほんとのところを聞いてみた
テレビ番組の企画をきっかけに、2012年から6軒もの事故物件に住み続けている「事故物件住みます芸人」の松原タニシさん。「家賃は安いの?」といった疑問から、「室内はキレイ?」「心霊現象は起こるの? 怖くない?」といった、住んでみないと分からないアレコレ、今後も事故物件に住みたいかまで、聞いてきました。
大阪、千葉、東京の事故物件で暮らすが、家賃は思ったほど安くない
自殺や他殺、病死や孤立死など、なんらかの理由で人が亡くなった物件を指すことが多い「事故物件」。こうした事故物件は、「なんとなく怖そう」「家賃が安そう」といったイメージが先行しがちです。SUUMOジャーナルが2018年に実施した事故物件に関する調査でもそのイメージを聞いてみると、「家賃が安い」と「怖い・不気味」が7割を超え、「心理現象がありそう」(43.3%)がトップ3という結果でした。
「家賃が安い」「怖い・不気味」とイメージする人が圧倒的に多かった(出典/SUUMOジャーナル編集部)
実際にはどうなのでしょうか。まずは、家賃の安さから聞いてみました。
「まず、家賃の安さですが、イメージほど安くないです。例えば月15万円が7万円の半額になることはほとんどない。たいていは月1〜2万円、安くなっている程度です。築年数が経過している古い物件だと、もともとが安くて5万円が3万円になっていることがありますね。ただ、初期費用は安くなっていることが多いです。敷金・礼金、ともにゼロだとか」といいます。そのため、お金がなく、生活にかける費用を抑えたいという人、人と違う経験をしてみたい人にはオススメだといいます。
「夢があるとか、仕事に打ち込みたい人は、家に帰って寝るだけの生活になりますよね。だから、家に気をつかう余裕がないし、部屋を癒やしの空間にしたいと思わなければ(笑)、事故物件はいい選択肢だと思います」と語るタニシさん。
では、多くの人が気になるであろう「心霊現象」については、どうでしょうか。松原タニシさんが本やトークライブなどでは、体験した心霊現象などを披露していますが、すべて実話なのでしょうか。
「本に書いてあることやライブで話していることは、実際にあったできごとです。でも、心霊現象というか、明らかに奇妙な映像が撮れたり、いろいろと変な体験をしたのは1軒目くらい。それ以降の部屋でそんなに毎日変なことは起きないですね。ただ、ロケで僕の部屋に訪れた霊感のある人が入りたくないと騒ぎになったり、僕自身が体に不調をきたすことはありました」とあっけらかんな様子。
また、ラップ音などの心霊現象についても、実際に暮らしていると慣れていくのだそう。
「はじめの一週間は、『あ、暮らしはじめて今日で一週間経過したな』って思って、やっぱり意識しているんですけど、二週間目から数えるのをやめて、1カ月くらい経過すると、『あ、音、鳴っているな、もうええわ!』ってなる(笑)」。ちなみに、たくさんの心霊現象は経験したものの、まだ「見た」ことはないのだとか。「だからこそ、一度、幽霊を見たいんですよ〜」と熱く(?)語ってくれました……。いえ、聞いているだけでおなかいっぱいです。
自殺、孤立死、殺人……。事故物件の内容により気をつけるポイントは?
ただ、ひと口に事故物件といっても、自殺や他殺、孤立死、病死など、さまざまな種類があります。SUUMOジャーナルの調査で事故物件の内容による検討度合いを聞いたところ、内容によって検討度は大きく変わります。該当の部屋であっても自然死や病死であれば住むことを検討すると答えた人が約半数。さすがに該当の部屋で自殺や他殺があった場合には3割に届きませんでしたが、少数ながら検討する人はいて、需要はあるようです。
隣や上下階、同じ建物内など、該当の部屋でなければ「検討する」という人がそれぞれ約4割いた(出典/SUUMOジャーナル編集部)
では、事故物件の内容によって住むうえでの注意点などはあるのでしょうか。
「自殺に関しては、全然、珍しくもないですし、慣れます。また、自殺の部屋の場合、死後すぐに発見されることが多いので、部屋の状態もよい場合が多いです。ただ、孤立死の場合は死後の発見が遅くなることも多いですし、もともとゴミがあふれていたりすると、虫が湧いていたり、ニオイなどもします。脱臭などで対策しても限界がある場合もあります……」と経験をあかしてくれました。
一方で、「他殺」が発生した事故物件は注意したほうがいいといいます。
「自分も経験しましたが、部屋に戻ってくることがあるんですよね、罪を犯した人が。刑罰にもよりますが、数年で出てくる場合もありますし、その人が知っている部屋になるので、やっぱり遭遇したときの怖さがあると思います」といい、心霊現象そのものよりも、生きている人間のほうが「怖い」というリアルを教えてくれました。
お仕事でなくても、事故物件に住んでみたいのですか?という質問にも、「住みたいですね、ここまで来たら、幽霊を見たいし、廃墟にも住んでみたいです。廃村にも興味が出てきました」と新しいジャンルにも意欲をみせるタニシさん。
「事故物件で暮らしているとね、人って死ぬよな、って当たり前のことに気がつくんですよ。人が死ぬっていいますけど、その人生があったこと、ストーリーがあるのを感じるんですよ。人生は限りあるし、明日があることも当たり前じゃない。限りある生命のうちに、いろんなところに住み、いろんな経験がしたい」と教えてくれました。
ホラーの特殊メイクそのままで、イベント後に駆けつけてくだったタニシさん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
事故物件に住むと、人の死を当たり前のこととして受け入れられるように
ここまで豊富なネタがあると、異性にモテそうですが、そのあたりはどうなのでしょうか。
「まず、事故物件に暮らしていますっていうと、初対面でも盛り上がりますね。話題にも困らないですし、興味を持ってもらえることは多いです。ただ、実際に部屋に来るってなると別で、敬遠されてしまいます。モテにはつながらないかな」とさみしそう。では、タニシさん自身が、事故物件で暮らしてきたメリットはどこにあるのでしょうか。
「事故物件に住めたっていう、自信を得られるところでしょうか。これから先、一人暮らし世帯も増えているので自宅で亡くなる人も増えるでしょうし、多くの人が避ける事故物件を避けずにあえて突っ込んでいくことで、何かをクリアしていくというか、人の死を当たり前のこととして受け入れられるような気がします」とタニシさん。
事故物件に暮らしていると心が休まらないので、外出することが多くなりますと笑うタニシさんですが、事故物件には、そこで暮らした人たちのエピソードが色濃く詰まっています。もしかしたら、事故物件で暮らすということは、人間の光のあたる部分も見えない影の部分も、まるごと受け入れる、ということなのかもしれません。
スーモと共演するのが楽しみだったというタニシさん(写真撮影/SUUMOジャーナル編集部)
●取材協力・松原タニシさん Twitter
1982年生まれ、神戸市出身。テレビ番組の企画で事故物件に住むようになり、「事故物件住みます芸人」として数々の事故物件に住み続けている。2018年には実体験と実話をもとにした「事故物件怪談 恐い間取り」(二見書房)を上梓。全国の怪談やトークショー、インターネット配信などにも出演中。
(嘉屋 恭子)