新型「クラウン」試作車に試乗、悩める高級セダンが63年目の大変革
●ユーザーの高齢化と保有台数の減少が悩みの種
トヨタ自動車の「クラウン」がまもなく15代目に進化する。日本の高級セダンの代表格でありながら、近年はユーザーの高齢化や保有台数の減少など悩みも多いという。その状況を払拭すべく、デザインもメカニズムも大胆に刷新した新型のプロトタイプをテストコースで試した。
○豊田喜一郎の思いをよみがえらせる新型「クラウン」
クラウンが誕生したのは1955年1月1日。当時、多くの自動車メーカーが欧米車のノックダウン生産に従事していた中、純国産の高級乗用車として送り出された。日本人の頭と体で、世界に誇れる高級車を作るというトヨタ自動車創業者、豊田喜一郎氏の思いが形になったクルマだ。
それ以来、クラウンは常に革新に挑戦しながら60年以上の歳月を重ねてきた。例えば現行の14代目では、ピンクや空色など斬新なボディカラーを登場させた。
しかし、トヨタによれば、従来からのユーザーはついてきてくれるものの、新しいユーザーを取り込めないのが悩みだという。平均年齢は約65歳だといい、保有台数は「ゼロクラウン」と呼ばれた12代目の半分ぐらいになっているそうだ。
もう一度、豊田喜一郎氏の思いをよみがえらせ、世界を驚かせるぐらいのクルマを作らなければいけないという危機感をトヨタは抱いた。そんな中から、新型クラウンは生まれたという。
○シリーズ展開は見直し、商品を一本化
トヨタはまず、従来のイメージから脱却するため、ロイヤル/アスリート/マジェスタという3つのシリーズを1つにまとめた。同じくユーザーの高齢化に悩む「カローラ」が、ハッチバックを復活させたのとは対照的だ。
その上で、スポーティモデルとして「RS」を設定した。もちろん“レーシングスポーツ”の略ではない。クラウンは伝統的に形式名に「S」を使っており、初代はR型エンジンを積んでいたので「RS系」と呼ばれた。意味は違えど、その名を現在によみがえらせたわけである。
新たな方向性を持たせたことも特徴だ。コネクティッド性能を盛り込んだこともそのひとつ。ただし、これについては全車にDCM(車載専用通信機)を搭載するという以外に情報は公開されなかった。
静岡県のテストコースで対面した新型クラウンのプロトタイプは、昨年秋の東京モーターショーで「クラウンコンセプト」としてお披露目されているものと基本的に同じだったけれど、屋外で見るとやっぱり新鮮だった。
●形は変われど幅は同じ、デザインのこだわり
○「クラウン」で初めて採用した「6ライト」
なによりも、クラウンの歴史上初めて、前後ドアとリアウインドーの間にも窓がある「6ライト」を採用したことが大きい。真横から見ると、リアまでほぼ水平にすっと伸びたキャラクターラインの上に、ゆったりした弧を描くルーフラインが重なって、かなりエレガントになったという印象だ。
現行型で話題になった大きなフロントグリルは上下に薄くなり、シャープになったヘッドランプとの一体感が増した印象。リアコンビランプがこのヘッドランプと同じモチーフになっていることも気付いた。欧州車ではおなじみのデザインテクニックで、クルマ全体としての統一感が高まった。
ただし、ボディサイズは意外にも全長が少し伸びただけで、全幅は従来どおり1,800mmとしている。小回り性能を示す最小回転半径は5.3mでプリウスと同等だ。この点では日本の道と日本のユーザーのことを大事に考えていた。
○高級セダンとして作りこんだインテリア
インテリアはまず、アクセスからこだわったという。ドアハンドルは日本人の体格でも握り心地の良い形状と角度に仕立て、重厚感のあるドアの閉まり音を表現するため低音を増幅し、高音を抑える構造にしたそうだ。
インパネは低く、クラウンとしてはかなり開放的だ。ドアトリムとのつながりも重視しており、包まれ感もある。スイッチが整理されているのも気付いた点で、センターの上下2段のディスプレイは見やすかった。
センターのエアコンのルーバーが左右に首を振る、クラウンらしい仕掛けは健在。カップホルダーは使わないときはリッドがせり上がる凝った作りで、1.9秒という作動時間も実験を繰り返して決めたという。しかもリッドには滑り止め加工が施してあり、片手でキャップを開け閉めできる。日本製高級車ならではのおもてなしだ。
インテリアのカラーコーディネートが豊富に用意されていることにも感心した。エクステリアを含め、色で楽しめるクルマになりそうだ。後席は身長170cmの筆者であればゆったり過ごせる。スロープしたルーフラインで懸念された頭上空間も問題なかった。
●性格が変わった? 新型「クラウン」の走りを検証
○多彩なパワートレイン、2Lターボが好印象
パワーユニットは3種類。2代目から受け継がれてきた6気筒ガソリンエンジンが消え、レクサスの「LC」や「LS」に積まれているものと基本的に同じ3.5LのV型6気筒ハイブリッド、「カムリ」にも積まれる2.5L直列4気筒ハイブリッド、現行型の途中で追加した2Lガソリンターボエンジンとなる。
試乗したコースは、アップダウンとコーナーが連続する、クラウンとしてはハードなもの。よって、販売の主力になりそうな2.5Lハイブリッドは、登り坂での4気筒の唸りが耳に届きがちだった。その点、3.5Lハイブリッドは6気筒だけあって滑らか。ただし、こちらはコーナーで前の重さが気になった。
ということで、個人的なお気に入りは2Lターボのガソリン車。これも4気筒だが高回転までスムーズに回り、力も十分で、良い意味でクラウンらしからぬリズミカルな走りが上質感とともに堪能できた。
○最大のウリは何か
シャシーはひと足先にモデルチェンジしたレクサスLS用をベースに幅を狭めたもので、トヨタの縦置きエンジンでは初のTNGAプラットフォームとなる。
正確でシャープなステアリングを狙ったという言葉は、すべての試乗車で体感できた。途中で乗り換えた現行型のおっとり感に驚くほどだった。もうひとつの目標として掲げていた、あらゆる速度域で目線が動かない乗り心地は、RSはややゴツゴツ感があったものの、標準型はクラウンらしいまろやかさと2018年のセダンらしい安定感が同居していた。
安全装備ではトヨタセーフティセンスの第2世代を標準装備し、駐車場では壁だけでなく歩行者や他車も感知して自動ブレーキなどが作動するパーキングブレーキサポートも搭載した。でも、新型の最大のウリは6ライトによるエレガントなフォルムだと思う。このフォルムで新たなユーザーを惹きつけられるかに注目したい。
トヨタ自動車の「クラウン」がまもなく15代目に進化する。日本の高級セダンの代表格でありながら、近年はユーザーの高齢化や保有台数の減少など悩みも多いという。その状況を払拭すべく、デザインもメカニズムも大胆に刷新した新型のプロトタイプをテストコースで試した。
○豊田喜一郎の思いをよみがえらせる新型「クラウン」
クラウンが誕生したのは1955年1月1日。当時、多くの自動車メーカーが欧米車のノックダウン生産に従事していた中、純国産の高級乗用車として送り出された。日本人の頭と体で、世界に誇れる高級車を作るというトヨタ自動車創業者、豊田喜一郎氏の思いが形になったクルマだ。
しかし、トヨタによれば、従来からのユーザーはついてきてくれるものの、新しいユーザーを取り込めないのが悩みだという。平均年齢は約65歳だといい、保有台数は「ゼロクラウン」と呼ばれた12代目の半分ぐらいになっているそうだ。
もう一度、豊田喜一郎氏の思いをよみがえらせ、世界を驚かせるぐらいのクルマを作らなければいけないという危機感をトヨタは抱いた。そんな中から、新型クラウンは生まれたという。
○シリーズ展開は見直し、商品を一本化
トヨタはまず、従来のイメージから脱却するため、ロイヤル/アスリート/マジェスタという3つのシリーズを1つにまとめた。同じくユーザーの高齢化に悩む「カローラ」が、ハッチバックを復活させたのとは対照的だ。
その上で、スポーティモデルとして「RS」を設定した。もちろん“レーシングスポーツ”の略ではない。クラウンは伝統的に形式名に「S」を使っており、初代はR型エンジンを積んでいたので「RS系」と呼ばれた。意味は違えど、その名を現在によみがえらせたわけである。
新たな方向性を持たせたことも特徴だ。コネクティッド性能を盛り込んだこともそのひとつ。ただし、これについては全車にDCM(車載専用通信機)を搭載するという以外に情報は公開されなかった。
静岡県のテストコースで対面した新型クラウンのプロトタイプは、昨年秋の東京モーターショーで「クラウンコンセプト」としてお披露目されているものと基本的に同じだったけれど、屋外で見るとやっぱり新鮮だった。
●形は変われど幅は同じ、デザインのこだわり
○「クラウン」で初めて採用した「6ライト」
なによりも、クラウンの歴史上初めて、前後ドアとリアウインドーの間にも窓がある「6ライト」を採用したことが大きい。真横から見ると、リアまでほぼ水平にすっと伸びたキャラクターラインの上に、ゆったりした弧を描くルーフラインが重なって、かなりエレガントになったという印象だ。
現行型で話題になった大きなフロントグリルは上下に薄くなり、シャープになったヘッドランプとの一体感が増した印象。リアコンビランプがこのヘッドランプと同じモチーフになっていることも気付いた。欧州車ではおなじみのデザインテクニックで、クルマ全体としての統一感が高まった。
ただし、ボディサイズは意外にも全長が少し伸びただけで、全幅は従来どおり1,800mmとしている。小回り性能を示す最小回転半径は5.3mでプリウスと同等だ。この点では日本の道と日本のユーザーのことを大事に考えていた。
○高級セダンとして作りこんだインテリア
インテリアはまず、アクセスからこだわったという。ドアハンドルは日本人の体格でも握り心地の良い形状と角度に仕立て、重厚感のあるドアの閉まり音を表現するため低音を増幅し、高音を抑える構造にしたそうだ。
インパネは低く、クラウンとしてはかなり開放的だ。ドアトリムとのつながりも重視しており、包まれ感もある。スイッチが整理されているのも気付いた点で、センターの上下2段のディスプレイは見やすかった。
センターのエアコンのルーバーが左右に首を振る、クラウンらしい仕掛けは健在。カップホルダーは使わないときはリッドがせり上がる凝った作りで、1.9秒という作動時間も実験を繰り返して決めたという。しかもリッドには滑り止め加工が施してあり、片手でキャップを開け閉めできる。日本製高級車ならではのおもてなしだ。
インテリアのカラーコーディネートが豊富に用意されていることにも感心した。エクステリアを含め、色で楽しめるクルマになりそうだ。後席は身長170cmの筆者であればゆったり過ごせる。スロープしたルーフラインで懸念された頭上空間も問題なかった。
●性格が変わった? 新型「クラウン」の走りを検証
○多彩なパワートレイン、2Lターボが好印象
パワーユニットは3種類。2代目から受け継がれてきた6気筒ガソリンエンジンが消え、レクサスの「LC」や「LS」に積まれているものと基本的に同じ3.5LのV型6気筒ハイブリッド、「カムリ」にも積まれる2.5L直列4気筒ハイブリッド、現行型の途中で追加した2Lガソリンターボエンジンとなる。
試乗したコースは、アップダウンとコーナーが連続する、クラウンとしてはハードなもの。よって、販売の主力になりそうな2.5Lハイブリッドは、登り坂での4気筒の唸りが耳に届きがちだった。その点、3.5Lハイブリッドは6気筒だけあって滑らか。ただし、こちらはコーナーで前の重さが気になった。
ということで、個人的なお気に入りは2Lターボのガソリン車。これも4気筒だが高回転までスムーズに回り、力も十分で、良い意味でクラウンらしからぬリズミカルな走りが上質感とともに堪能できた。
○最大のウリは何か
シャシーはひと足先にモデルチェンジしたレクサスLS用をベースに幅を狭めたもので、トヨタの縦置きエンジンでは初のTNGAプラットフォームとなる。
正確でシャープなステアリングを狙ったという言葉は、すべての試乗車で体感できた。途中で乗り換えた現行型のおっとり感に驚くほどだった。もうひとつの目標として掲げていた、あらゆる速度域で目線が動かない乗り心地は、RSはややゴツゴツ感があったものの、標準型はクラウンらしいまろやかさと2018年のセダンらしい安定感が同居していた。
安全装備ではトヨタセーフティセンスの第2世代を標準装備し、駐車場では壁だけでなく歩行者や他車も感知して自動ブレーキなどが作動するパーキングブレーキサポートも搭載した。でも、新型の最大のウリは6ライトによるエレガントなフォルムだと思う。このフォルムで新たなユーザーを惹きつけられるかに注目したい。