その出で立ちは国内外のライバルの中でも存在感を放つ

 静岡県・伊豆の修善寺にあるサイクルスポーツセンターでの新型LSの試乗会を終えた晩に、東京・銀座を歩いていると、偶然にも一般オーナー車の新型レクサスLSに遭遇。その姿を見て、売れる、半分成功したようなものだと率直に思えた。

 その姿、想像を大きく超える存在感があり、メルセデス・ベンツSクラスやBMW7シリーズ、さらには先代のレクサスLSなどの中で、低く伸びやかなフォルムを含めて威風堂々としていたのだ。

 もちろんかなり押し出し感の強い顔をしているので、もっと上品に、ひっそりと高級車に乗りたいというエレガント志向の方からのウケは落ちるかもしれないが、メルセデス・ベンツSクラスが得意とする豪華絢爛やゴージャス感をハイサルーンカーに求める方の心には、新型LSのあの見た目は鋭く刺さるはず。

 何にせよ世の中の存在感のあるクルマ達がひしめく銀座で、紛れ埋もれることなく“あれ”だけの存在感を示したデザインには、ほかにはない価値を追求していくプレミアムブランドのフラッグシップモデルとして成功であり拍手を送るべきだろう。

 さて、11年ぶりにフルモデルチェンジをした新型LSの生きた姿を見た感想から述べてしまったが、ついでにもう一つ、これは手放しで拍手したいと思える作りにも触れておこう。それが内装。

 プレミアムブランドという名のとおり、プレミアム性、他にはない希少性が価値だとも言えるだろう。しかもそれが上品かつ魅力的に表現されていたら、この手のハイサルーンカーにとって最高。まさにその世界が室内空間には表現されていた。

 具体的には、寄木細工を造る手法で仕上げられた精巧なウッドパネルや、織物として仕立てられた立体的な内装、さらには切子ガラス加工が施された加飾など、世の中のどの高級車にもない、日本らしい伝統工芸の匠の技を使い、鋭くもあり、暖かみを感じる独自の室内空間を演出している。

 後席を含めてシート形状が良く、座った瞬間にホッとして身を預けたくなる感覚も抱くが、同時に目から飛び込むその匠の技が生み出す世界観が欲しくて新型LSを買う方がいそうな仕上がりだ。

 それら内外装も大事だが、ハイサルーンカーとして大事な乗り味はどうなのか?

運転の楽しさは明確に向上! だがショーファーカーとしては……

 今レクサスが強く求めている、求めて行きたいものが、これなのだろう。今回のLSはドライバーズカーとしての色合いがとても濃い。

 そもそも初代LSはその静粛性の高さで世を驚かせた。そして次なるLSは、ハイブリッドを武器に、乗り心地や静粛性にさらに磨きを掛けてきた。それらつくりは静かに乗る、運転手付き乗るショーファーカーとしては強くオーナーの心を掴んだが、オーナー自らが運転する層の方々にはどうだったのだろうか? 今回の新型LSは、まさにその層を満足させるために動いてきた印象だ。

 ボディがひとまわり小さく感じ、フィット感がある。走行中、全般的にエンジンの存在感がある。ハンドルからの手応えも、路面をダイレクトに掴んでいるような感覚がある。まるでスポーツカーに使う表現ばかりが並ぶが、そのような感覚を抱いたのだから仕方がない。運転を楽しめるハイサルーンカーの領域では、BMW7シリーズが得意としているが、それと肩を並べる仕上がり。

 それがLS500h、そしてナンバーが取れておらず、サイクルスポーツセンター内だけの試乗に止まった新開発3.5リッターターボを搭載するLS500共にあった。

 とくにLS500は、仮想10速変速を実現するマルチステージハイブリッドのLS500h以上に、静かな電動ドライブがないなどの特徴からもスポーティ仕上がり。さらにスポーツ性の高いFスポーツともなると、個人的はハンドル操作に対して若干過敏に感じるほどの曲がり方をする。

 そのあたりは、LS500の四輪駆動になるとフロントタイヤが駆動してクルマを引っ張る力が旋回力の立ち上がりをマイルドにするので、とても素直で個人的に好みだ。

 そのような味付けなので、想像が付くかもしれないが、若干今まで得意としてきた、ショーファーカーとして重要な静かさや、走行振動の少なさなどのしっとり感が影を薄めてしまった。具体的には走行微振動があり、突き上げや突き上げ音も大きく、どのクルマにとってもそれらがキツくなる低速走行&荒れた路面では、ショーファーカー利用の方にとって乗り味を確認した方が良いレベルとなる。

 これは恐らく狙っていなかった特性ではあるのだろう。今までの魅力に加えて、ドライバーズカーとしての性能を追求したら、今まで得意だったはずの分野が若干弱くなってしまったと直感。背景にはひと足早くLCから使い出したGA-Lという新たなプラットフォームの高剛性特性をまだ手懐けられていないこと。これはどのメーカーでも新規プラットフォームはなかなか使いこなせないので仕方ない。

 それ以上に気になったのはタイヤ。採用されたランフラットが硬くて、しなやかに”ヨレる”などの動いている感覚が少なすぎる。これが乗り味に大きく影響しているのも事実だ。

 タイヤはクルマの乗り味や安全性そして素性を決める大きな要素で、簡単には変更できないはずだが、この硬さを熟成重ねて履きこなせるようになるのだろうか。

 若干の不安は残るが、これらを踏まえると、快適性を重視、乗り心地を重視する方は、自身で乗り味チェックするのが良いだろう。逆に自らが運転するハイサルーンカー好きの方は、若干硬めではあるが心を奪われるモデルに仕上がっている。しかも運転が疲れたら高速道路であれば“ほぼ”クルマ任せで走れるほどの運転支援機能までついて、ドライバーを手厚くケアする要素に満ち溢れていた。