テストの相手としては、想像以上に悪くなかったと思う。ハイチ代表との親善試合が決まった際は疑問の声も聞こえたが、他の大陸でのW杯予選が最終局面を迎えていることを考慮すれば、FIFAランク48位のカリブの国を招待したのは最善に近い選択だっただろう。


倉田秋と競り合う、大阪生まれのハイチMFエリボー

 彼らは北中米カリブ海予選の第4ラウンドで敗退しているが、同グループを突破したコスタリカとパナマは続く5次予選で共にロシアへの切符をつかんでいる。特にコスタリカは、前回のブラジルW杯で8強に残った強豪だ。

 その2チーム相手にも接戦を演じたハイチは、10月10日の横浜でも日本と競り合った。代表招集は3月のゴールドカップのプレーオフ(ニカラグアに敗北)以来で、全体練習は2日しか取れなかったという。

 チームには20歳前後の若手も多く、連係不足と緊張からか、序盤はプレー精度の低さが目立った。しかし、徐々に落ち着きを取り戻していくと、2点のビハインドから一度は逆転。終了間際に失点して白星こそ得られなかったものの、パワフルかつスピーディな逆襲や、見事なスーパーゴールなど、日産スタジアムを訪れた観衆を大いに楽しませた。

 試合後、元フランス代表のティエリ・アンリのゴールを彷彿とさせる、チームの3点目を決めたデュカン・ナゾンに話を聞いた。

「本当にタフな試合だった。日本は(力を込めて)すごくいいチームだったので、厳しい戦いを強いられたけれど、自分たちも精一杯プレーした。3-3のスコアは僕らにとっていい結果だと思う。日本のようなビッグチームを相手に好結果を得られたので、すごくハッピーだよ」

 今年1月にイングランドに渡り、今季はコベントリー(4部)でプレーするストライカーは、出生地のフランス訛りの英語で上機嫌に応じてくれた。あの美しいゴールについて訊くと、「自分でもびっくりするようなゴールだったね」と表情はさらにほころび、日本代表の印象を尋ねると次のように答えた。

「技術の高さは評判通りだった。その上、絶え間なく動き続けてパスコースを作っていたから、なかなかボールを奪えなかった。ストライカーの動きは参考になったし、前半の左サイドバック(長友佑都)は攻撃参加のタイミングが素晴らしく、うちの守備陣を混乱させていたよね。先制点をアシストしたクロスも見事だった。

 それから、やっぱり香川(真司)だよ。素早くシンプルにプレーして、最後は同点ゴールも決めた。トップレベルでの経験を豊富に持っていることを実感させられたね。ワールドカップでも、多くの対戦相手を苦しめるはずだよ。サプライズを起こせるんじゃないかな」

 予選で対戦したコスタリカと比較してほしいとお願いすると、「今から言うのは僕の本心だ。決して、あなたへのリップサービスではない」と前置きした上で、こう続けた。

「僕はコスタリカとも戦ったけど、感触としては日本のほうが遥かにいいチームだ。確かに、コスタリカは前回のワールドカップで躍進したけど、実際に対戦してみるとそんなに怖くなかった。でも、日本からは常に脅威を感じた。彼らが攻撃に転じた時には、『やられてしまうのでないか』という恐怖がいつもあったんだ。フットボールに確実なことは何もないけど、もしワールドカップで日本がコスタリカと戦えば、高い確率で日本が勝つと僕は思う」

 攻撃陣で目を引いたもうひとりの選手、背番号7をまとったウィルドドナルド・ゲリエは、今季から加入したアゼルバイジャンのカラバフでチャンピオンズリーグのグループステージにも出場している。鋭い仕掛けから反撃ののろしを上げる得点をアシストした左ウイングは、「ハードな試合だった。でも、僕らもいつも通りにベストを尽くした。この結果は悪いものではないけど、満足するのは今日だけにして、明日からはまたクラブでトレーニングに励みたい」と切り出した。

「日本はクオリティーの高い選手がたくさん揃ったチームだね。ただ、フットボールではあらゆることが起こるので、今日のような結果も受け入れなければならない。僕は今シーズン、チェルシーやローマとの試合にも出たけど、選手個々の能力は今日の日本とそれほど大きな差があるとは思わなかった。もちろん、組織力という点では違いがあったけど、代表チームはいつも一緒に練習できるわけではないから、一概に比較することはできないよ」

 最後に、大阪生まれボストン育ちのセントラルMF、ザカリー・エリボーも立ち止まって取材に応じてくれた。「日本語も話せるけど、英語が一番」ということで大阪弁は聞けなかったが、無意識に少し気だるい口ぶりはアメリカの若者らしいものだった。

「すごく楽しかったよ。生まれ故郷の日本で代表の試合ができるなんて、最高の経験だね。日本代表にはずっと憧れていたんだ。実際にプレーしてみて、パスのスピードや精度に驚いたよ。選手は誰もがキレのある動きをしていたしね。このようなチームには、集中が切れると簡単にやられてしまう。最後の同点ゴールはまさにその好例だ。想像していた通り、レベルの高いチームだったよ。香川と浅野(拓磨)が特に印象に残っている。彼らのような選手が同じチームにいれば、中盤はパスを出すのが楽しいだろうな」

 彼のバックグラウンドについて訊くと、こう答えてくれた。

「大阪の吹田市で生まれて、3歳の頃にボストンに引っ越したんだ。(MLSの)
ニューイングランド(・レボリューション)のアカデミーに入り、今はそこのファーストチームでプレーしている。

 お父さんがハイチ人だから、代表の誘いを受けることにしたんだけど、ハイチには一度も住んだことがないんだ。だからフランス語はほとんどダメ。でも、日本人のお母さんとはよく日本語で話してきたよ。オフには日本に帰ってきたりもするんだけど、いつも本当に楽しみにしているんだ。日本が大好きだからね。こうしてサッカーの試合で戻ってくるのは初めてだったから、今回の帰国
はまた特別なものになったよ」

 日本が本大会で北中米カリブ海のチームと対戦する可能性もある。その際には、この試合を『いい予習だった』と振り返ることができるような戦いを見せてほしい。

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