とりあえず「OK、OK」で乗り切る子育て

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「大声で子どもにどなり散らして、後悔したことがある」。

周りにたずねると、これは幼児以上、とくに男児を持つ「母親あるある」らしく、かくいう私も何度となく体験済みだ。

グレた過去はないはずなのに、ヤンキーさながらの口調で息子にキレて、泣かせて、その後自分の未熟さを呪いつつ、「でも私だって一人の人間だもの……」などと言い訳をめぐらせたりしているが、総じて苦い。もう次はやりたくないと思う。

そんなときに再確認したくなるのが、「今どき子育て3箇条」(※私が勝手に命名)ともいうべきものだ。

1.怒らない
(命に関わるとき、お友だちに危害を加える時などに怒るのは良い)

2.子どもは人格のある一個人であると認識せよ
(親の所有物ではないので、頭ごなしに命令はしない。子どもの横にいる存在であれ)

3.子どもを否定せずに、肯定せよ
(人格を否定する発言はNG。他人と比べる発言もNG)


これは母親になって約5年間、さまざまな子育て論を見聞して、自分なりに簡略化したものだが、実践できていないところを見ると、いまいち分かっていないらしい。

「ああ、やっぱり自分はダメなんだな……」とこれまた幾度となく落ち込んだのだが、ちょっと待て。上記の3箇条って、心構えと実践の境界線にあって、本当に改善するにはフワッとしすぎてないか?とようやく気が付いた。

子どもを生んだら自動的に母親という立場になり、心構えがついていけない者にとって、自覚しているのは己が「子育ての素人」だということ。子どもの成長で現れるアレコレが初体験なわけで、ときには実母・義母の「昔の子育て論」に振り回されつつ、検索すれば盛りだくさんすぎる子育て情報を取捨選択して、「自分なりの方法」を手探りで見つけていく。

というわけで、ようやく本腰を入れて考えてみた結果、現時点でたどり着いたひとつの結論が、「OK、OK法」(※私が勝手に命名)である。母親の怒りを逃がし、いったん子どもを肯定しているので、前述「今どき子育て3箇条」の条件をすべてクリアしているのだ(たぶん)。

やり方はいたってシンプル。子どもマターで何かが起こったとき、母親の第一声を「OK、OK」とする、というものだ。

ちなみにOKと、心の中でつぶやいてもいいが、導入時は本当に発声すると良いと思う。砲丸投げ選手が球を放ったあとに雄たけびをあげて飛距離を伸ばすように、発する声と成果は連動するから不思議である。

例えば牛乳の入ったコップを持ってフラフラしているわが家の4歳児が、案の定牛乳をこぼしたとする。

母:「OK、OK〜床を拭いてね」
子:「いやだ!」
母:「OK、OK〜こぼした人が拭いてほしいな」
子:「いやだ!」
母:「OK、OK〜ママが拭きます」

例えばきょうだいげんかで双方号泣、阿鼻叫喚のとき。

母:「OK、OK〜どうしたの?」
兄:「〇〇(妹)が! いきなりペンを取ったの!」
母:「OK、OK〜こっちはどうしたの?」
妹:「にいにっ(兄が)! イタイ、イタイ……」
母:「OK、OK〜じゃあ、ペンを2本にして、順番に書いてあげる」

母親は「OK、OK〜」と言うだけで、もう怒らなくていい。なんてカンタン!
と言い切ってみたいのだが、この最初にOKと言うには結構な忍耐力がいる。仕事に遅刻する寸前の牛乳こぼしだったら、あるいは締め切り前かつ就寝時間を大幅にオーバーしているときのきょうだいげんかだったら、もちろん心中穏やかではない。

でも、子どもに対する態度が変貌する代わりの「クセづけ」として、意図的に「OK」を絞り出すことにより、とりあえず状況を肯定し、ソリューションを模索しやすい思考にもっていくのである。

そう、どうやら今の子育てにおいて迅速に処理すべきは母親の「負」の感情であって、子どもの失敗ではない。子どものしつけとか行儀とかは二の次でいいのだ。

私はこのOK法の実践により、ひとまずここ3週間ほどはヤンキーさながらの口調に変貌していない。情けないことではあるが、今のところ自己最高記録である。「いいかも」と思った読者がいたら、ぜひお試しいただきたい。

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私はやや神経質で不器用かつ未熟な母親だと自覚している。子育ては本来楽しいもので、人生を豊かにしてくれるクリエイティブにあふれたものだ、と心の底から思える人もいて、4人きょうだいを子育て中のママ友や、90歳の助産師さんの記事なんかでは、「肩の力を抜いて、ただ子どもに愛情を注げばよい」と言っている。

その話を聞くたび、じんわり温かい気分になって尊敬の念が湧き、私もその境地に行けたらいいのに……と心から思う。子どもたちのことは大好きなので、その延長でいられたら良さそうなものだが、何がどうしてこじれてしまうらしい。原因は消化不良の自己顕示欲や焦りなのだろうか。そして、そんな母親たちはきっと他にいると踏んでいる。

だから、自分もまるごと「OK、OK〜、しょうがないわい」と肯定して、子どもたちへ「好きだ〜大事だ〜」を連発するのがちょうどよい。いい言葉は、いい言霊となって身体と心に作用するらしいから。OK、OK〜子育てにも、得意・不得意があってOK! 子育て中は人生で最もアクティブな時期のひとつってことで、堪能していくしかないのだから。

斎藤貴美子
コピーライター。得意分野は美容・ファッション。日本酒にハマり、Instagramの#SAKEISAWESOMEkimikoで日本酒の新しい切り口とコピーを思案中(日本語&つたない英語)。これからの家族旅行は酒蔵見学。二児の母。