セクサロイドは電気羊の夢を見るのか : 情熱のミーム



オリエント工業40周年記念『今と昔の愛人形』展が渋谷のBUNKA村の近辺にあるギャラリースペース「アツコバルー」で開催されている。

ダッチワイフとは一線を画したリアリティのあるラブドールの開発で知られるオリエント工業は、もともと障害者向けに開発・販売されたという経緯がある。

オリエント工業のラブドールは一体20万円から60万円という高価な商品だ。だからなかなか実際に目にすることがない。

この日も女性客の方が多く、カップルの姿もちらほら見えた。
私をこの展示会に誘ったのも女性だった。女性の方が興味を持つらしい。

店内は篠山紀信の作品を除き撮影自由で、その場で写真集も購入できる。

歴代のラブドールがずらり並んだ姿は圧巻だし、なんなら一体欲しくなってくるという不思議な空間だ。




筆者が一番驚いたのは、ラブドールの制作過程を写真で展示するコーナーだ。



 一体一体の完成度が非常に高いので、実際に工業製品として生産されている場面を見ると、もはや近い将来にアンドロイドはこのように作られるのだろうというプロトタイプ工場にしか見えなくなってくる。

 オリエント工業は実際に大阪大学の石黒浩教授と実際に動作するアンドロイドの開発を行ったり、昭和大学と協力してリアルな歯科研修用のロボットを開発するなど、高度な技巧を活かした応用も積極的に行っている。



 あまりに完成度が高いので美術品として家にひとつ飾りたいという衝動にかられる。
 
 認知や性衝動といったものに極めて高い多様性があるのが日本という国だと筆者は理解している。

 成人向け漫画、いわゆる「エロマンガ」というジャンルが成立しているのも世界で日本くらいではないだろうか。

 その昔、エロ漫画が大好きであるという知人に、「実写のアダルトビデオは見ないの?」と聞くと、こんな答えが返ってきたことがある。

 「実写もたまには見るんですけど。頭の中で一度絵に変換しないとなんないから疲れるんですよ。だったら最初から絵の方がいいじゃないですか」

 この回答は衝撃的だった。



 これを聞いた時はこの回答の意味がよくわからなかったのだが、それからかなり時間が経って、AIの研究を本格的にやるようになってから彼のこの回答がときたまフラッシュバックする。

 絵は、絵描きが認知した現象を再現するために省略または拡張したものであると考えられる。つまり、絵描きをAIとすれば、絵は絵かきが認知した特徴ベクトルの一種と考えることが出来るわけだ。

 AIが人間に置き換わったとしても同じで、エロ漫画家はアタマのなかにあるエロい妄想をストーリー化し、場面化して作品を書き上げる。

 だから実経験が乏しくても、マンガならば想像しやすい。どうもそれが漫画という表現手段に人々が惹きつけられる理由なのではないか。

 ラブドールは、エロ漫画と同様に造形師が女性を解釈し、再現した特徴ベクトルであると考えられる。

 基本的にこういうことに無頓着な僕でさえ、全裸の状態のラブドールの写真を掲載することには抵抗を感じる。しかしもしこれがパリなら、誰も疑問を持たず堂々と全裸のまま街角に飾られていただろう。実際、オペラ・ガルニエの周囲には全裸の女性をかたどった街灯が並んでいる。

 さらに凄いのは、ラブドールが芸術品ではなく、量産される実用品として販売されていることだ。

 ラブドールは高価だが、マネキンのかわりに使えばより衣服を魅力的に見せることができるかもしれない。いずれもっと高度なAIと、もっと高度なアクチュエータが完成すれば、ラブドールは一般社会に入り込むアンドロイド(人型ロボット)の原型になるだろう。
 

 会場では実際のラブドールに触れることが出来るコーナーも用意されていて、やはりこのコーナーも女性に人気があった。

 ラブドールに実際に触ると、吸い付くような弾力と、ヒヤッとする冷たさが同居していた。

 
 この冷たさが、ラブドールと動物を分ける壁であるように筆者は感じたが、もしかするとこの冷たさはずっとこのまま残るかもしれない。

 好きなになった女性とデートして、やっとのことで手を握ると、ヒヤッと冷たい。そういうことはよくあるけれども、そのときに「あ、この子は人間じゃないんだ」と初めて分かる。そんな時代が来るかもしれないし、逆にアンドロイドの女性が男性に恋をして、やはり手を繋いだ時に温度差を感じなくて、「ああ、この人もアンドロイドなんだわ」と安堵するような日が来るかもしれない。

 それはそれで結構幸せな人類の彼岸なのではないかと想像してしまうのだ。

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