探偵が突き止めた、時折ポストに入れられている「NTT」チラシの正体
以前、「急増。実家の高齢者を狙う不動産詐欺「地面師」の恐ろしい手口」で高齢者を騙し、大金を巻き上げる「地面師」の実態を暴いたメルマガ『伝説の探偵』。今回は、集合住宅にポスティングされる「NTT販売代理店が光回線の契約をすすめるチラシ」を徹底追及。マンションなどにお住まいの方であれば一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。メルマガ著者で現役の探偵である阿部泰尚さんが、探偵の名に賭けて辿り着いた、とんでもない悪徳業者の実態とは?
NTTを騙る悪質な営業行為を行う業者を追跡してみてわかったこと
以前から私も気になっていたことがある。それは、時折マンションに入るポスティングのチラシだ。
「ご入居者様各位」
「当マンションでは、フレッツ光の工事が完了しており、各戸のご入居の方には随時、光回線への工事を行なっています。」
「つきましては、ご都合の良い日時をご指定ください。カスタマーサービスマンがお伺いさせていただきます。」
というような内容のチラシだ。
文面自体はいかにもそれっぽく、マンションの入居者は全員何らかの手続きや工事をしなければならないような内容になっている。
さらには、「NTT」の言葉の響きだ。
いくつかのチラシを取り寄せてみたところ、「NTT販売代理店」であると書いてあり、「NTT」のロゴがチラシについている。
また、ほとんどのチラシには、このチラシから申し込むことで、電話代やインターネット回線の使用料が、「2ヶ月無料」「3ヶ月無料」となると書いてある。
ただ、何か腑に落ちないのだ。
そんなに世の中甘くない、日和見にあっちが得、こっちが得だと右往左往すれば必ずしっぺ返しを喰らうのが世の常だ。
事務所にあるデータベースで見てみると、詐欺被害相談として、マンションにポスティングされていたチラシを見て、工事をしなければならないと思い、電話をしたところ、結果的に月額使用料が高くなってしまったとか、ブロバイダを変えられてしまい、従前のメールアドレスが使えなくなってしまった。などの相談が入っていた。
実のところ、この手の相談は詐欺というよりかは悪質商法の部類であり、NTTに直接問い合わせることで、多くは解消される。
ただし、この手の被害は実に多いのだ。
第一、色々な友人と話をしていても、この話題を出せば、必ず、「あれ何なの?」と知っているのだ。
きっと日本全国津々浦々にこうしたチラシは、ばらまかれているのであろう。
まずは電話で業者に直接電話をしてみようと考えたが、それでは下世話な素人記者レベルであるので、電話番号から設置事業者を調べ、会社名が判明したところで、法人登記簿謄本を取り寄せた。法人登記簿謄本には所在地や事業の目的、代表取締役の氏名と住所、取締役の名前がある。
そこでまずは、所在地を調査することにした。
都内ではオフィス街にあたる住所である。早速、移動の折に現地調査をしてみることにした。
しかし、住所は確かにあるし、オフィスが入居している雑居ビルなのだが、ポストや入居企業の一覧を見ても、このNTTの代理店を名乗る企業名はなかった。
こうしたことは調査ではよく発生することであるので、私は軽い聞き込みを行うことにした。
ちなみに、法人登記簿謄本には、建物名や部屋番号を示す必要はない。
だから多くのは、番地から枝番あたりまでを表記し、部屋番号や建物名は表示しないのだ。
この企業の登記簿も同じであった。
ただ、まともに営業をしている企業であれば、ポストに企業名くらいは書くものだ。
個人ならば、昨今の混沌とした犯罪被害への懸念や個人情報保護の高まりから、表札を出さないことは納得できるが、企業情報は個人情報云々ではない。
むしろ、その逆だろう。
つまり、この段階でまともな営業をしている事業者ではないと頭の片隅にはおいておいた方が無難なのだ。
さて、聞き込みの結果、この企業は建物の6階の1室に事務所を構えているということがわかった。
早速、その正確な住所をGoogle先生で検索をしてみると、オフィス賃貸情報の下に「一般社団法人」がヒットした。
現在、一般社団法人は15万くらいで株式会社を作る要領で簡単に作ることができる。一部の金持ちなどは、これを相続税逃れに使っているとも指摘されているくらいだ。
この一般社団法人は、東京都の一部だと誤認させるような説明で、多重債務者を個人再生させることを事業としていると謳っていた。
念のため、東京都に問い合わせをしてみたが、そのような事業は委託もしていなければ、そのようなセンターは知らないとの回答を得た。
ますます怪しい。
「一般社団法人」は「公益社団法人」とワケが違う。
一般的には、「社団法人」と聞くと、あたかも「公益社団法人」なのかとイメージしてしまいがちだが、一般社団法人には主務官庁はないし、一定の基準を満たせば、登記することは簡単なのだ。
こうしたものは、あたかも消費者を誤認させようとする意図が見て取れる。
また、社会的信用力のある企業名や行政の名前を使い、あたかも公の事業のように見せかけて、消費者を誤認させるように仕向けて、あぶく銭を得ようとする発想は、そのものズバリで、同じ住所にある一般社団法人もNTTの代理店と名乗る企業も同じで
はないか。
私は一旦現地を引き上げ、一般社団法人の登記簿謄本を取り寄せることにした。
さらに貸金業の届け出や金商法における届け出を確認してみたところ、さらに別法人がこの住所地に存在することが判明したのだ。どうやら問題だらけのターゲットを引いてしまったらしい。
あちこちの企業を調べていたらキリがないと判断し、私はこのNTTの販売代理店と名乗る企業をターゲットにして、他は補足情報程度で取り扱うことにした。
すぐに判明したことは、NTT東日本の特約店・販売委託店であることは事実だということであった。その上で、NTT東日本に確認を取ると、正規の代理店の委託先であるということで、新たなサービスなどの周知が難しいこともあり、委託先には営業の指導はして、販売を再委託しているとのことであった。
NTT東日本からは指導をするという話が聞けたが、指導というのがどの程度かは不明であるし、そもそもこの販売を委託するような制度自体に企業としての無責任姿勢はアリアリであり、なんだか悲しくなってくる。
実態を調査するために、住所地への出入りする人物を特定するにも、事前の情報から別法人が同じ住所地を使っているという確かな情報もある。
だが、調査とはやってみないとわからないもの、そもそもわからないから調査をするのだから、判明情報には喰らい付いてこその「探偵魂」とも言える。
私はじっくりと調査をすることにした。
そして、地道に調査を進めているとポスティング業者が判明した。
これは単に出入りする人物を確認していくという地道な内偵調査の賜物であり、私からすれば、ポスティング業者がわかれば、その配布地域の特定も可能であり、チラシが配布された地域で聞き込み調査を進めれば、被害者に当たることもできる。
ヨミは時間こそかかったが、的を得たものになった。
まず、この会社の社長は、元々はコピー機などの事務機器のリース業者であり、電話の工事などは業者の知り合いも多く、お手の物であった。
このチラシは一定の効果があり、自ずと配布地域から電話が鳴る。
それを受けて、契約代理店がNTTとの間に入る契約に必要な情報を聞き出し、従前の契約を見直してカスミを取ったり、彼らは「親」と呼ぶ正規の販売代理店が持つ新たな回線契約に切り替えさせることで利ざやを稼ぐという手法が主な収入源になってい
た。
つまりは、紙の上での仕事であり、どこかへ出張って工事をするということは、まずないのだ。
一方、この手の詐欺的手法に引っかかるのは、大学入学や就職などで一人暮らしを始める地方出身の単身の若者や集合団地などに住む高齢者世帯であることもわかった。
特に高齢者世帯では、インターネットをしたいという需要が高く、インターネットの出張設定もするし、パソコンの販売もすると言って、スマホがあれば済むようなテレビ電話システムを売りつけたり(この場合はリース契約をして結果市販価格の数倍の
価格で売りつける)、意味不明な保守点検契約を結んでいるケースもあった。
このような商材は、その時期の旬で決まり、例えば携帯電話大手キャリアが、キャンペーンを行い、契約奨励金を出すといえば、、、、チラシに騙されて電話をしてきて、よくわからない消費者ということで、無意味なサービスをつけられても何の文句を言わない「カモ・リスト」で電話営業をするのだ。
一方、彼らが「親」と呼ぶ正規の代理店についても調べてみた。
こちらはこちらで、片っ端から電話をしてテレアポ営業に励んでいた。
では、この「親」は電話番号をどこから入手しているのか?
なぜ私にこの疑問が浮かんだかといえば、このテレアポ部隊の営業マニュアルには、このような一文があったからだ。
「もしも、なぜ私の個人情報である電話番号がわかったのか?と訊かれたら、、」
「電話番号を1つずらして、順番にお電話させて頂いております」と答えなさい。
とあるのだ。
さらに
「販売代理店のくせに、契約情報がそっちにいっていないというのは、解せないが・・・」と疑問をぶつけられたら、、、
「個人情報保護の観点から、そういった大切な情報まではきていませんので、あくまで自己申告してもらい、その上で適切なプランをご案内させて頂いております。」と答えなさいとある。
つまりは、番号を1つズラして、無数の番号にコールして、テレアポ営業をこなすという超ハードな営業体制が敷かれていることになる。
それは耳障りこそ良いが、現実には不可能であろうとも言えるのだ。
そこで、さらに調べてみた。
これは探偵調査という代物ではなく、単にこの仕組みについて調べたのだ。
「NTT東日本 プライバシーポリシー」
「NTT西日本 プライバシーポリシー」
とネット検索すれば、個人情報の取り扱いについての規定を誰もが簡単に読むことができる。
解釈の問題もあるが、要は「サービスの告知」「インターネット接続などに関するサービス」については、販売委託先に情報を提供することも可能性はあるというように読み解くことができる。
その上で、もしも営業行為を停止して欲しければ、申し出てくださいということのようだ。
一方、企業については個人ではないので、この範疇ではなく、ハローページを含め公開されることが前提であるため、中小企業の社長さんを狙ったテレアポ営業は、それこそ、迷惑電話だと認識されていようが止まるはずもないのである。
NTTのホームページから代理店や特約店などは検索することができるので、迷惑な営業電話などを受けたら、そこで調べてみるのも1つの方法だ。この検索ページには、代理店や販売委託を解除となった業者名も出ている。
つまりは、NTTとしては適正な指導をしているし、問題が多い業者は解約していると言える。
ただ、ネットで調べてみても、傍若無人な悪質な営業行為は無数に確認することができるし、その上で、企業として指導をしているでは、仮に処分的な対応をしていたとしても、「何でそんな業者に委託しているのだ?」ということになる。
「本当は、詐欺的な勧誘もチラシも、結果利益が生じるのであれば、ユーザーからクレームが出るまでは放置しておけば良い」とでも思えるような姿勢だ。
企業は利益を追求するものだし、NTTからすれば、全く別の会社が行ったことまで責任は取れませんと言いたいところなのではないか。
さらにいえば、ユーザー側もきちんと契約書を読んだり、電話での契約変更だとしても、いろいろな確認はしたのですか?とでも言いたいところなんだろう。
ただ、営業マニュアルがあり、周知されてもないサービスプランなどがあって、営業側は生業としてやっているプロなのだ。
騙されたり、不利益な契約に気がつかずそのままになっているユーザーが後を絶たないのは、単に、この販売代理や委託というある意味の責任の所在を不明瞭にするシステムに問題があるとしか言わざるを得ない。
仮にやるなら、徹底的に調査をして実態を積極的に把握するとか、コンプライアンスを徹底した子会社のみ営業を許すなどの根本的な改革が必要だろう。
結論、
NTT代理店や販売委託など、チラシ勧誘は全て企業の営利営業である。
電話で勧誘してくる電話関係の業者は迷惑電話である。
問題ありだと思ったら、NTTに電話をすると、だいたい解約などに応じてくれるが工事後だと違約金云々という話になることがある。
NTT代理店とか販売委託というだけではかなりの業者がいるので、しっかりと、社名や電話番号を記録し、被害を受けたらNTTに報告すれば、処分の対象になることがある。
image by: Shutterstock
『伝説の探偵』
著者/阿部泰尚(記事一覧/メルマガ)
2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
出典元:まぐまぐニュース!