丸五の「特ロースかつ」(1850円)の肉質はしっとりとして、噛みごこち、味わい共に申し分ない

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おいしいとんかつを求めて、東京中のとんかつを食べ歩く三人の食いしん坊・山本益博、マッキー牧元、河田剛が同じ店をそれぞれ採点する「東京とんかつ会議」。そのなかでも、三人が太鼓判を押す店舗が「東京とんかつ会議・殿堂入り店」だ。審議の結果、第4回の殿堂入り店として選ばれたのは秋葉原にある「丸五」だ。

【写真を見る】丸五の「特ヒレカツ」(2100円)は、甘い香りが漂う

■ 丸五「特ロースカツ」(1850円/定食2300円)

■ 山本益博「東京最高峰のとんかつ店の一軒」

今回「とんかつ殿堂入り審議」のため、いつもは店へ別々に出かけるところ、三人一緒に足を運んだ。そこでロースカツの他、ヒレカツや生野菜などのメニューからいろいろと注文したのだが、どれも質が申し分なく、調理が的確で「脱帽」と言ってよい感想である。ひと言で言えば、「丸五」は東京最高峰のとんかつ店の一軒である。毎日、人が溢れ返る秋葉原の繁華街からわずかに離れた横丁で、これほど優れた職人仕事を見せてくれる店の方々に敬意を表したい。感想は、前回一人で出かけた時と全く変わらないので、当時のものを再掲載させていただく。

ひと昔前、伊丹十三監督に映画「たんぽぽ」のための取材を受けたことがある。「おいしいラーメン店の見分け方を教えて欲しい」というものだった。私は「店構えがさりげなく、店内は清潔感に溢れ、それに、箸立て、胡椒、爪楊枝、灰皿などがぴったり等間隔に並んでいる店でしたら、まず外れません」と答えた。「職人仕事」は飾らず、真面目に、同じことを繰り返すことを、それだけでも見て取れるのである。ラーメン店ではないが、秋葉原のとんかつ店「丸五」が全くそれに当てはまる一軒である。秋葉原の電気街の中に整然と佇むような店構え、こざっぱりとした店内、カウンター席に座ると、ソース、岩塩、辛子、らっきょう、梅干しが見事に同じ並びで置いてある。

注文は「特ロースかつ」(1850円)にセット(450円・ご飯、赤だし、お新香)をつけてもらう。時間をかけてじっくり揚げられたカツは、見た目は大きくないが存在感十分。肉質はしっとりとして、噛みごこち、味わい共に良い。庖丁の均等な入り方と揚げ切りが良ければ申し分のないところ。キャベツのみでなく、サラダ感覚の付け合わせがいい。ご飯は暖簾を出したての11時半だったから、これまた文句なし。豆腐となめこの赤だしも香りが高い。新香も同様。職人仕事を絵に描いたようなとんかつだから、食べる方も美しく食べたいと思い、皿の上をきれいに平らげて店を後にした。こういう店が秋葉原にあることは、小さな奇跡と言って良いかもしれない。(山本)

■ マッキー牧元「早く食べて、と訴えかけるロースカツ」

優れたレストランが少ない秋葉原にあって、昼には開店前から列をなす、人気とんかつ店である。二階に分かれる店内は、清潔感に満ちている。卓上はソースに辛子、醤油、塩に、ラッキョウと小梅の容器が、等間隔、同じ順番で、整然と置かれてあるが、これもまた良いレストランの証左である。

今回は「ロースかつ定食」(1850円)、「ヒレかつ定食」(2100円)、「特ロースかつ」(1850円/セット450円ご飯・味噌汁・お新香)、「串かつ」(1400円)をいただいた。ロースカツの断面は、しっとりと肉汁で潤んでいて、“早く食べてください”と訴えかける。もうこの光景だけで、とんかつ好きはやられてしまうだろう。中粗の衣は肉に密着し、サクサクとして香ばしく、油切れもいい。ただし、前回同様、下に敷いた紙に面した衣が、自身の熱と油で湿ってしまっているのがもったいない。キャベツに立てかけるなどした方が、良いように思う。肉質はきめ細やかで、豚肉本来の甘みがあって、脂もするりと溶けていく。ヒレは、衣の剥がれが気になったが、甘い香りが漂う、ヒレカツの魅力があった。串カツのネギの火の通しも素晴らしい。

特におすすめは、量も30gほど多く、肩ロース寄りの肉を使った「特ロースかつ」。肩ロース寄りゆえに、背脂だけでなく、肉の間にも脂の層が刺し込んでいるが、そこにもきっちりと火が通されており、食感を損なわない、丁寧な仕事が光る。その脂と緻密な肉を噛む喜びに満ちたカツである。どろりとした濃度があるソースは、甘みが勝っているが、後味のキレは良く、ご飯を呼び込むには最適である。シソの細切りが混ざったキャベツはみずみずしく、塩、レモンと醤油、添えられるドレッシング、ソース、いずれで食べてもおいしい。おすすめは、口のリフレッシュとなるレモン醤油である。ご飯、白菜、人参昆布の細切りの新香も標準以上、なめこと豆腐の赤だしは、香り良く、品があっておいしい。(牧元)

■ 河田剛「秋葉原の宝といって過言ではない」

これほど隙のない店は珍しい。秋葉原の宝といっても過言ではないだろう。一階のカウンターでは職人の緻密な仕事ぶりを見ながら食事することができるが、修業先の「かつ吉」を思わせる民芸調の二階のテーブル席も落ち着いた雰囲気で良い。「特ロースかつ」(1850円)、「特ヒレかつ」(2100円)などに、セット(450円・ご飯、赤だし、お新香)を注文した。

カツは比較的低温で長めに揚げている。このため見た目は白っぽい。特ロースの肉はしっとりとして、噛むと肉の旨味が滲み出してくる。脂も自然な甘味でいくらでも食べられそうだ。衣はかなり粗いパン粉を使っているが、ふんわりと揚がっているため、口の中でさっと溶けていく。塩でもとんかつソースでもおいしくいただける。ソースはとんかつに対して味が勝ちすぎない。キャベツもみずみずしく、ざっくりした食感がいい。レタスとトマトも質が高いものを使っている。今回、生野菜だけを別に注文したが、これも素晴らしかった。炊き立てに近い状態を保っているご飯、味噌の香りが高い赤だしも申し分ない。(河田)

【東京ウォーカー】