イスラム教徒の女性といえば、顔を隠すように頭に巻くヴェールが特徴的ですが、イスラム教シーア派が大多数を占めるイランでは、過去にヴェールを巻いていない女性が堂々と街中をかっ歩していた時期が存在します。そんなイランの神秘に満ちた女性のファッション変遷をまとめたムービーが「100 Years of Beauty - Episode 3: Iran (Sabrina)」です。

100 Years of Beauty - Episode 3: Iran (Sabrina) - YouTube

何のメイクもしていないすっぴん状態からムービーはスタート。



髪をくくり……



簡単なメイクも施し……



完成したのが1910年代にイランで流行ったというスタイル。眉毛がつながっているように見えるのは気のせいではなく、当時は「つながり眉毛」の女性が大勢いたということ。



1910年代のイランでは白色のヴェールをかぶるのがオーソドックスで、黒色のヴェールは「死を連想させるもの」として敬遠されていたそうです。



続いて1920年代のイランで流行ったスタイルがコレ。簡単にヴェールをかぶっていますが、ヴェールの色は白ではなくなっており、首元までスッポリかぶるようなスタイルでもないので、ほんの10年でかなり自由な風潮に変化した模様。



そして1930年代にはもはやヴェールかぶっておらず、代わりに帽子をオシャレに着用。これは、1936年にパフラヴィー朝の王であったレザー・パフラヴィーが国の近代化を進めるためにヴェールの着用を禁止したからです。当時を知るイラン出身の人類学者ズィーバー・ミール=ホセイニー氏によると、パフラヴィー朝はヴェール着用者を逮捕することで女性から強制的にヴェールを剥奪したそうで、これには敬けんなシーア派のムスリムだけでなく一般女性の多くも反発した、とのこと。ホセイニー氏いわく、当時のヴェール着用派のムスリム女性は「ヴェールなしで人前に出るなんて裸で外に出るのに等しい!」と主張していたそうです。



そして1940年代。パフラヴィー朝の王政時代に出されたヴェール着用禁止令は1941年に撤廃されますが、着用の義務はなくなったままでした。なので、当時の女性たちは自由なヘアスタイルを楽しんでおり、過去の抑圧されてきた不満が一気に噴き出しているかのようで、ど派手な口紅も特徴的です。



打って変わって、シンプルなヘアスタイルが流行した1950年代。西洋化の流れは敬けんなムスリムには敬遠されていましたが、上流階級の男女からは大いに歓迎されたそう。



中東の人々は元々彫りが深くて濃い顔をした人々が多いのですが、それに負けない派手なピンクの口紅と、元々の彫りの深さをさらに際立たせるような濃いアイラインでゴリゴリに濃いめなスタイルが流行っていたようです。



さらにメイクを施し中。眉毛が2本あるように見えますが果たして……。



できあがったのが1960年代スタイル。過去のスタイルよりもさらに目元を強調しており、二重を際立たせるため上まぶたに黒色の太い線を引き、とにかく目力のすごいメイクが完成しています。口紅は過去の流れからは外れてナチュラルなものになっているのもポイント。



髪型はとにかくモリモリ。



そして1970年代。もう終わるだろうと思っていた目元のメイクがさらに強化されており、このまま、まゆ毛とつながってしまうのではというレベルに。



それでも元々の彫りの深さとゴージャスな雰囲気のメイクはよくマッチしているのだから驚き。



次の瞬間、ここまで積み重ねてきたメイクが急遽全て落とされてしまい……



ヴェールをかぶっただけの非常にシンプルな1910年代スタイルに逆行。



これは1979年に起きたイラン革命により、1980年からイラン政府が再び女性にヴェールの着用を義務づけたから。昔は白のヴェールが主流でしたが、シーア派の十二イマーム派の指導者であったルーホッラー・ホメイニー氏の教えに従い、1979年以降は黒のヴェールが正式なものとして推されるようになっています。多くの人の頭の中のムスリム系女子はこんな風に黒のヴェールをすっぽりかぶっているハズ。



1990年代になると黒以外のヴェールを着用する人も増えたようで、現在も黒以外の色物や柄物をかぶる女性は大勢います。



2009年のイラン大統領選挙では、世論調査では大きな支持を得ていた元首相のミール・ホセイン・ムーサヴィー候補と、現職のマフムード・アフマディーネジャード候補による激しい選挙戦が行われました。投票率は85%を超えており、国民からも大きな注目を集めたのですが、結果は当初不利とみられていたアフマディーネジャード候補の大勝となり、この結果に多くの識者や国民が抗議運動を行いました。このデモ活動は国内外のイラン人にも支持され、デモのシンボルカラーであった「緑」から緑の革命とも呼ばれています。



そして2010年代のスタイルがコレ。ヴェールは赤のど派手なものを着用しており、現代の若い女性たちは嫌嫌ヴェールを着用しているわけではなく、ファッションの一部として楽しんでいるそうです。



なお、YouTubeのコメント欄には「素晴らしい!イランの女性は常にヴェールを着用する必要があったわけではないんです。また、緑の革命時代の女性はとってもクールですよね」といったコメントも存在しました。