竹中平蔵『郵政民営化』
 竹中平蔵・郵政民営化担当相が、郵政民営化に関する自論を紹介する著書を出版した。題して『郵政民営化』。発売されて間もない19日午後、早速購入して一読した。

 小泉純一郎政権の誕生を機に、慶應義塾大学教授から国務大臣に転身、4年近く日本の金融・経済財政政策の中核を担ってきた著者については、改めて紹介する必要もないだろう。ことあるごとに「抵抗勢力」から「学者大臣」と揶揄(やゆ)され続けてきたが、04年夏の参院選では自民党比例代表として72万票を獲得、当選を果たした「政治家」である。

 「郵政民営化を正面から論じた書物がない・・・ぜひ自分自身で郵政民営化についてしっかりと語らなければならない」(「はじめに」より)。そんな思いが著者を本書の執筆に駆り立てたという。だが、副題に「『小さな政府』への試金石」とあるように、本書には、郵政改革論議だけではなく、日本という国の未来像が描かれている。その意味では、「政治家・竹中平蔵」の決意表明の書と見ることもできる。

 本書はきわめて分かりやすい。たとえば、郵政4事業を「物流業」、「銀行業」、「保険業」、「コンビニ業」と言い換え、郵便局は「2万4700のチェーン店」であると説明し、「基本的には民間でできることだ」としている点などは、難解になりがちな郵政民営化の論点を簡潔かつ明確に説明している。

 「なぜいまか?」、「料金は上がるのでは?」、「田舎の郵便局は?」など、国民が抱く基本的な懸念については「Q&A形式」で答えるという手法でわかりやすく伝えている。民営化の影響をメリットとデメリットの両面から説明している点も評価したい。

 あえて深読みすれば、「郵政民営化反対」を唱える一部の政治家へのいらだちが随所に見られるので、竹中大臣が置かれている今の状況をうかがい知ることができておもしろい。ただし、簡単な説明は付けられてはいるものの、「イコールフッティング」とか「ユニバーサルサービス」など、相変わらずカタカナ語が多いことは多少気になるところだ。

 竹中大臣が見つめる2007年は、「団塊の世代」が退職年齢に達し、人口減少が始まる年である。そのときに「『小さな政府』をつくるという看板を是非とも掲げたい」と考える竹中大臣に対して、抵抗勢力は「大きな政府をつくる」という看板を掲げるのかどうか。郵政改革をきっかけに高まりつつある、これからの政府と市場のあり方を問う議論に、国民が積極的に参加する上でも、一助となる本だ。(PHP研究所刊、1050円)【了】