ハリルホジッチ監督の初戦でもキャプテンマークを巻いた長谷部。攻守における存在感は圧倒的だった。 写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

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 ヴァイッド・ハリルホジッチ新体制の船出となる初戦でキャプテンマークを託されたのは、やはり長谷部誠だった。
 
「監督からは今日のミーティングで(キャプテンだと)伝えられました。ただ、チームには5、6人のリーダーがいるべきで、今日は僕だったということ」と本人は語ったが、ピッチ上では攻守に気の利いたプレーを連発。本田圭佑、香川真司、岡崎慎司ら“従来の主軸”がベンチスタートだったこともあり、特に前半の存在感は特筆すべきものがあった。

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 積極的に前へ出て行く守備で相手の攻撃を未然に断ち切り、つなぎのパスとサイドチェンジ、縦へのくさびを効果的に打ち込む。ボランチとして、求められた役割はほぼ完璧にこなしていた。
 
 なにより秀逸なのは、そのバランス感覚だ。周囲に目を配りながら「新しい選手をできるだけ乗せるように、指示を出しながらプレー」(長谷部)するのは、決して簡単な仕事ではない。そのなかで、指揮官から出された「縦に速く攻める」、「球際で激しく当たる」というお題をクリアしてみせたのだ。
 
 ボランチでコンビを組んだ山口蛍は、的確なパスと守備時のポジショニングで高パフォーマンスを披露したが、長谷部の黒子的献身が彼の攻守における素早い状況判断を助長したのは間違いない。
 
 また、90分間を通したゲームマネジメントも長谷部の魅力だろう。チームの新たな傾向として“相手の裏を執拗に狙う攻撃”が強調されるが、それは単純に素早く攻めるという目的に止まらない。長谷部は次のように説明する。
 
「相手DFが背後を警戒すれば、中盤のスペースが空いてくる。それを効果的に使えたのが残り20分、15分くらい。相手のディフェンスラインが下がって中盤が間延びしていたので。だから終盤はそこ(相手DFと中盤のギャップ)にボールを入れようと意識していた」
 
 本田や香川らの細かい崩しが活きたのも、そんな伏線があってこそ。試合の展開を冷静に見極めた長谷部もまた、攻撃のリズムを変える役割を担ったひとりだった。
 
 自らの立場を理解し、監督の意図するサッカーをピッチ上で表現する。長谷部は“長谷部たる所以”を、またも見事に示したと言えよう。
 一方で、個人的なプレーの変化も随所に感じさせた。31分にはスローインの流れから永井のパスを右サイドの深い位置で受け、正確なマイナスのクロスを清武に配球。惜しくもゴールにはつながらなかったものの、2列目を追い越す動きで攻撃に厚みをもたらしていた。
 
 ハリルホジッチ監督のやり方を踏まえ、長谷部は自身の役回りをこう話している。
 
「アギーレさんの時はアンカーだったし、ザッケローニさんの時のボランチはあまり前へ行くようなスタイルではなかった。でも、今はボランチもどんどん前に絡んでいって良いと言われているので」
 
 浦和に加入した当初など、かつてトップ下を主戦場としていた長谷部にとっては当然、攻撃参加は武器のひとつである。ただし日本代表では11年のアジアカップ・シリア戦以降ゴールが無いように、近年はその特長が存分に発揮されているとは言い難い。
 
 この試合では見られなかったが、持ち前のミドルシュートを含め、より攻撃意識を高められれば、遠藤保仁とは違ったタイプの司令塔としても十分に計算が立つだろう。
 
 もちろん、今はまだチームを構築している段階であり、選手起用も含めて手探りな部分が大きい。ハリルホジッチ監督は相手によって戦い方を変えることで知られ、当然「出る選手によってやり方も変わってくる」(長谷部)。そのなかでも、ボランチの位置から攻撃に出て行く長谷部は、迫力と可能性を感じさせた。
 
「まだ1試合なんでなんとも言えないけど、もっともっと良くなると思います」
 
 チームの縦への意識を司りながら、バランスを考えて周りの良さを引き出す。時に自ら最前線へと顔を出し、フィニッシュに絡む――。“深化”するキャプテンが、日本代表をどう進化させるのか。ロシア・ワールドカップに向けた初陣を終え、今は不安よりも期待が大きく上回っている。
 
取材・文:増山直樹(サッカーダイジェスト編集部)