【世界長者番付】日本人トップのユニクロ柳井氏に「社員に還元しろ」と非難の声
米経済誌『フォーブス』が3月2日、2015年版の世界長者番付を発表した。資産10億ドル(約1200億円)以上の富豪は前年比181人増の1826人となり、米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が資産総額792億ドル(約9兆5158億円)で2年連続トップ。「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの会長兼社長を務める柳井正氏が資産総額200億ドル(約2兆4270億円)で41位に入り、2年ぶりに日本人資産家の頂点に返り咲いた。
日本人では柳井氏に次いでソフトバンクの孫正義社長が141億ドル(約1兆6900億円=75位)、楽天の三木谷浩史社長が87億ドル(約1兆400億円=151位)と続き、ミクシィの笠原健治会長が14億ドル(約1675億円=1324位)で初のランクインを果たした。
庶民にとっては気の遠くなる数字ばかり。もはや羨ましさを通り越して何の感慨も湧かないくらいだが、このビリオネア(資産10億以上の富豪)の中で日本人トップの柳井氏に批判が集中する事態が起きている。
「ブラック企業」疑惑のトップが億万長者ユニクロといえば、安さと品質を兼ね備えた衣料品チェーン。国外展開も好調で日本を代表する企業にまでなっている。だが、それと同時に「ブラック企業」の代名詞の一角にもなっているのは周知の事実だ。
社員の離職率が「3年で5割、5年で8割超」と報じられ、入社からわずかな期間で店長に抜擢されるものの、それは“名ばかり管理職”。いわゆる「管理監督者には残業代を支払う必要がない」という規定に無理やり当てはめ、残業代を出さずに社員を酷使していると伝えられた。店長はタイムカードを押して退社したように装い、その後サービス残業をしているとされ、労働時間が月300時間を超えても会社側が黙認していると指摘された。
これらを報じた『週刊文春』と書籍『ユニクロ帝国の光と影』(横田増生・著)を発行する文藝春秋がユニクロ側から「事実無根」として訴訟を起こされたが、東京地裁は「繁忙期のサービス残業を含む月300時間超の労働は事実」と認定。さらに、ユニクロの中国工場の劣悪な環境を指摘した部分についても「事実と認められる」とされ、ユニクロ側の完全敗訴で国から「ブラック企業認定」される結果となった。
こうした経緯があったため、ネット上では柳井氏の国内資産トップ獲得に以下のような批判が巻き起こっている。
「社員から吸い上げたカネを貯め込んでるのか」
「ブラック企業の社長が日本トップの資産家って現状は考えさせられるね」
「こき使ってる社員に少しでも還元してやれよ」
「豪華な暮らしをしている王様と悲惨な奴隷の会社ってイメージ」
「ユニクロの社員は長者番付の結果をどう思ってるんだろう」
「ブラック企業」報道が相次ぎ裁判にも負けたことに危機感を抱いたのか、同社は昨年6月からパート、アルバイトの正社員化に着手。地域限定の「R(リージョナル)正社員」とし、転勤のある「N(ナショナル)正社員」に比べると年収では見劣るものの、短い日数や短時間の勤務を認めつつ賞与も支給するという画期的なシステムを打ち出した。また、柳井氏は「残業を減らせ」と大号令を出しており、表面的には「ホワイト企業化」といえる改革である。
「ブラック企業報道で最も柳井氏が危惧していたのは、すき家やワタミのような人手不足。酷使されると知れ渡れば、働き手がいなくなってしまいますからね。パート・アルバイトの正社員化は人材の定着率を高めることで人手不足の心配をなくし、さらには従業員ひとり当たりの収益率を高めることができる。しかし、結局は増大する人件費のシワ寄せが社員にきて、しかも残業せずに収益を上げろという無理難題に苦しめられる」(経済ライター)
ユニクロは数年前にも5000人を対象に契約社員の正社員化を打ち出したが、約1400人しか応じず大失敗に終わった。目の前で正社員の悲惨な状況を見ていれば、いくら甘い言葉で誘われようとも固辞するのは仕方ないところだ。今回の改革も一時しのぎで批判をかわすだけの「絵に描いた餅」で終わる可能性がある。
柳井氏、ブラック企業報道とネット世論に噛みつくしかし、そんな批判はどこ吹く風で柳井氏は意気軒高だ。経済誌『日経ビジネス』(2月9日号)の「善い会社」ランキングでソフトバンクが1位、ユニクロが2位に選ばれ、柳井氏はインタビューで「私が会長兼社長を務めるファーストリテイリングが2位。おまけに、社外取締役に名を連ねるソフトバンクが1位だ。率直にうれしい」とご満悦だった。
さらに「私は当社をブラック企業と呼ぶ人たちの方が間違っていると思う」と報道を真っ向から否定し、「当社には全世界に100社ほど取引先がある。一部の事象を取り上げて、全体に問題があるかのように批判するのはおかしい」と口角泡を飛ばした。
また、食品産業で相次いでいる異物混入事件にも言及しつつ「ネットの共鳴作用が働いて血祭りに上げているのだろう。ヒステリックで寛容性のない風潮が広がっている」と、ネット世論への皮肉も飛び出した。
しかし、これについても、
「一般人と企業家では『善い会社』の定義が違う」
「裁判所からブラック認定されたんでしょ」
「1位も2位も社員が可哀想なことになってるような……」
などと批判の的になっている。また、ユニクロは国内事業の伸び悩みがささやかれながらも今年の新入社員を約900人と前年の2倍以上も採用しているが、これも柳井氏の言葉とは裏腹に「ブラック体質による離職率の高さ」を証明しているともいえる。
自身と会社に対する世間の批判が単なる「ひがみ」や「ネットのせい」だけではないと認識しなければ、いつまでもブラック企業の烙印は消えないだろう。
(取材・文/夢野京太郎)