By Jonathan Powell

iPodなどのデジタルオーディオプレーヤーや、スマートフォンなどの普及で、外出先でもイヤホンヘッドホンを使って音楽を聴いたり映画やTV番組などを視聴したりする人が増えましたが、耳の形は人それぞれ特有のものなので、イヤホンのフィット感がイマイチですぐに耳から落ちたり、気づけば耳クソで汚れていたり……。これらの不満をためまくっていたSeth Stevensonさんは、聴覚学者にインタビューしたり自分の周りの友人や家族にヒアリングしながら「理想のイヤホン」は一体どこにあるのかを調査しています。

The Horror of Earbuds - Slate Magazine

http://www.slate.com/articles/technology/technology/2014/07/earbuds_that_won_t_fall_out_testing_earhero_yurbuds_stayhear_tips_and_more.html



イヤホンの欠陥

理想を追い求めるにあたり、Stevensonさんはまず「イヤホンには主に2つのタイプがありますが、これらは両方共に欠陥を持っている」と語ります。

イヤホンは大まかに言って2つのタイプに分けることができるのですが、そのうちのひとつは耳の穴部分にシリコンパーツを挿入するタイプのカナル式イヤホンになります。シリコンパーツを差し込む部分である「外耳道(イヤーカナル)」をもとにつけられた名称なのですが、人によってはこのカナル式イヤホンが「最高にフィットして快適!」という場合もある一方で、装着時に何か違和感を感じる人も多く、長時間使用すると耳に痛みを感じたりすることもあります。

Stevensonさんが友人や同僚に聞いて回ったところ、多くの人々が自分の耳とカナル式イヤホンのシリコンパーツが合っていないと感じており、いつも耳の穴の部分に違和感を感じていたそうです。また、ジョギングなどの運動中に簡単に外れてしまったり、人によっては大きなあくびをしただけでも外れてしまうこともあるとのこと。さらに、耳の穴に密着するために、長時間つけっぱなし状態でいる違和感に耐えられずにイヤホンを外したくなったり、使用後にシリコンカバーの回りに耳あかが付いてたりと、なかなかに悲惨なもの。



By StevenW.

もうひとつのイヤホンタイプというのはシリコンカバーのついていないオーソドックスなイヤホン。iPhoneやiPadに付いてくる「EarPods」もそのひとつに当てはまり、これらはカナル式イヤホンのように耳の穴にピッタリくっつくパーツはないので、カナル式に見られるような耳あか問題や圧迫感から解放されたい場合はオススメなイヤホンです。

しかし、これらは耳の穴にぴったりくっつくわけではなく、カナル式イヤホンのようにシリコンパーツもないので地下鉄などの騒々しい場所で使うと、カナル式イヤホンよりも音量を大きくする必要性が出てきます。さらに、耳にピッタリフィットしているわけではなく隙間もカナル式イヤホンよりも多いので音漏れも大きくなる、という問題も秘めています。加えて、「EarPodsの音質は中音域が強かったり、運動で汗をかいたりすれば簡単に耳の穴から抜け落ちてしまう」とStevensonさんはEarPodsの不満点を並べています。



By Gadgetmac

◆専門家に聞いてみた

他にもさまざまな形のイヤホンがありますが、ジーンズのポケットに入れて外に出かけるには少し使いづらいものが多いそうです。イヤホンについて調べる内に「誰もが快適に使えるイヤホンがほしい」と考えるようになったStevensonさんは、耳の穴に入ってくることなく、しっかり耳にフィットして快適に過ごせる理想のイヤホンを探すべく、Lantos Technologiesにて耳を3Dスキャンする機器を開発する聴覚科学者のBrian Fligor氏にいろいろな疑問をぶつけることにします。Fligor氏は、ボストン小児病院ハーバード大学医学大学院にて耳の診断も行っている人物です。

そんなFligor氏によれば、「誰しも外耳道は独特の形をしており、これは指紋と同じくらいに個人個人で形が全然違う」とのことで、さらに「ひとりの人間の耳の穴でも、左右で形が異なります。私がこれまで集めてきたデータによれば、約1/4の人は『既製品のイヤホンは耳にフィットしない』と語っている」とも語っています。

また、Stevensonさんは以前から「イヤホンをつけながら歩くと頭の中で自分の足音が響く」という不思議な現象を経験していたため、これについて尋ねてみたとのこと。すると、それは「閉鎖効果」と呼ばれるものが原因であることが判明しました。歩いている際に地面に足がつくと、振動が足元から体を伝って移動します。Stevensonさんがイヤホンを耳につけて歩いている際は、イヤホンと鼓膜との間に隙間が開いており、この隙間に歩いた際に発生する振動が入ってきて足音が頭に響いた、とのことでこれは体の異常でもなんでもなかったそうです。



By Ed Yourdon

◆解決策その1

Fligor氏によれば既製のシリコンカバーがどうしても合わない、という人は専門家の指導の下でよりフィットしやすいカスタムメイドのものを購入することを推奨しています。しかし、カスタムメイドのイヤホンには大きな欠点が2つある、とStevensonさんは言います。

ひとつ目の欠点は「値段が高すぎる」というもの。既製品よりもフィットするイヤホンカバーをゲットするには少なくとも100ドル(約1万円)以上の費用がかかり、さらに高価なものともなればキリがありません。Fligor氏はカスタムメイドのインイヤーモニター(IEM)を作成するサービスを提供していますが、自身で「良心的な値段」と語っていながらもその価格は750ドル(約7万8000円)にも達します。

Fligor氏が勧めるカスタムIEMを購入しようとすれば、かなりの出費は免れません。例えばUltimate EarsのカスタムIEMは、5万〜10万円程度で購入可能となっています。

Ultimate Earsカスタムインイヤモニター



もうひとつの欠点は「カスタム品は良すぎる」というもの。カスタム品を使うと耳の穴を密封し過ぎてしまい、外部の音がほとんど遮断されてしまうそうです。例えば猛烈にクラクションを鳴らしながら接近してくる車の存在に気づけなくなったりするので、Fligor氏はカスタム品をつけて「夜にひとりでジョギングしてはいけない」と語っており、これは「カスタムIEMなどを装着していると周りの音が遮断されて背後から襲ってくる強盗などに気づけなくなるから」とのことです。

◆カスタム品以外で安く良いイヤホンをゲットする

カスタムIEMをつくるために時間やお金をかけたくない、という場合の選択肢としてStevensonさんは以下の4つを挙げています。

01:Decibullz

例えば「Decibullz」と呼ばれる耳にピッタリフィットするイヤホンがあります。これは専用の素材を使って簡単にひとりひとりの耳の形に適したイヤホンモールドが作れるというもので、価格は59ドル(約6000円)。

安価で手軽に自分の耳にフィットする専用イヤフォンを作れる「Decibullz」 - GIGAZINE



しかし、Decibullzを使っても結局は耳の穴に既製品のシリコンカバーパーツが入ってくるので、「耳の穴に何も入れたくない!」とういう人にとっては適さないイヤホンです。

02:Aftershokz Bluez 2

骨伝導を応用したヘッドホン「Aftershokz Bluez 2」を使うという方法もあります。実際に装着すると少し肌がくすぐったい感じですが、耳の穴には何も入れずに済みます。

AfterShokz Bluez 2 骨伝導ワイヤレスヘッドフォン - Apple Store (Japan)



Stevensonさんは耳の中に異物感を感じることなく音を聴けるこの装置に感動したそうです。しかし、この装置は装着時に大量に音漏れするという欠陥があり、これは隣りに誰かが座れば何を聴いているのかしっかり分かるくらいにすごいものだったそうです。さらに、耳の上にかさばるような感じで装着することになるので、長髪の人はメガネをかけているような見た目になるのもマイナス点、とStevensonさん。

Review: Aftershokz Bluez 2 Headphones-bone conduction leaves ears free 2 hear hazards #cycling http://t.co/L2j22DRIcc pic.twitter.com/TmpTXrkTSM— road.cc (@roadcc) 2014, 7月 24

03:earHero

earHeroは聴覚学者の夫婦が作ったイヤホンで、149ドル(約1万5000円)から購入できます。もともとはスキーヤー向けに作ったイヤホンだったそうですが、無線で通話を行う警備関係者の間でヒットして、現在は200人を超えるシークレットサービスが愛用していたりするそうです。警備関係者に愛される理由は、仕事中ずっとつけていても快適なつけ心地と、装着時は他人からほとんど見えない、という点です。

In Ear Headphones for Cycling, Running Headphones, Covert Earpiece



earHeroは確かに快適だったそうで、耳の穴の中に本体を入れ、本体を固定するためのワイヤーを耳の外側にを引っかけるスタイルは着用していることを忘れるほど、とStevensonさんは評価しています。

earHeroの装着方法は以下のムービーで確認可能。

earHeropro - Instructional Video for the Most Cover and Tactical Earpiece Ever on Vimeo

しかし、earHeroは音が非常に小さく音楽を聴くのには適していないとのこと。

04:Yurbuds

Yurbudsは独自のツイストロックテクノロジーで「耳から落ちない」ことをウリにしたイヤホンです。これはシリコン製のイヤホンカバーが付いていないのですが、装着時は耳を強く圧迫するとのこと。フィット感はピッタリ過ぎるくらいなのですが、耳の穴を拡張しているかのようでStevensonさんにとっては微妙なものだった様子。

yurbuds



なお、たくさんのイヤホンを評価しまくってきたStevensonさんですが、彼にとっての最良の選択肢はBoseのステイヒアチップを使うことだったそうです。

How to best fit the StayHear+tips on your QuietComfort 20 Acoustic Noise Cancelling headphones - YouTube