『アジア親日の履歴書』(辰巳出版)著者紹介
丸山ゴンザレス。犯罪ジャーナリスト、旅行作家、編集者。1977年生まれ。宮城県出身。バックパッカーとしてアジアを放浪した旅行記『アジア罰当たり旅行』でデビュー。丸山佑介名義で国内アンダーグラウンドシーンを取材するかたわら、国内外の危険地帯に潜入を繰り返す。著書に『旅の賢人たちがつくた海外旅行最強ナビ』『海外あるある』『図解裏ビジネスのカラクリ』『ブラックマネジメント』など多数。

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旅行作家、丸山ゴンザレスさん。アジアやアフリカをバックパッカーとして渡り歩いた旅行記『アジア罰当たり旅行』でデビューし、現在は丸山佑介名義で国際犯罪ジャーナリストとしても活躍中。裏社会や犯罪など、アウトロー界隈への造詣も深い。

6月に発売された新刊『アジア親日の履歴書』は、「親日」と呼ばれるアジア各国をリサーチし、その理由を探った本である。
日本とアジアとの関係が様々な意味で注目されている昨今。同じくバックパッカー経験のあるHK・吉岡命がインタビューを敢行した。前編は、執筆の背景を中心にお届けする。

●中国と韓国について“あえて”触れない理由

───書店によっては、『アジア親日の履歴書』もいわゆる反中国・反韓国をテーマにする本と同じ棚に入れられていますが、今回のリサーチのなかに中国と韓国、北朝鮮を含めなかった理由をお聞かせください。

丸山ゴンザレス(以下、丸山) この本の冒頭にも書いてありますが、ひとつは、その話題を出すと、みんなの思考が硬直するからです。押し黙るわけではなくて、自分の思う論を一方的に喋ってきたりだとか、圧倒的に毛嫌いしたりだとか。自分がどういう立ち位置にいて、どういう意見を持っているかというのを、多くの人が口に出したいわけ。執筆前のことですが、この本を書くにあたって、ツイッターで情報提供を呼びかけたんです。僕のメールアドレスを公開したところ、次々と罵詈雑言が……。

───というと具体的には?

丸山 調査の一環で「中国韓国以外の親日エピソードください」という内容のツイートをしました。そしたら「恥ずかしい人ですね」とか「物書きをしているそうですが、転職をオススメします」とか言われた。直後のツイートに「これは企画のためのもので、思想信条とは一切関係ありません」って書いてあるにもかかわらず。彼らはそこを読み飛ばす。都合のいい拾い方しかしないなあ、と思いました。

───『アジア親日の履歴書』を読むと特定の思想に偏っていないように感じられましたが。

丸山 なによりも、フラットに書くように心がけたからです。たぶん、ツイッターで批判した人たちよりも、僕のほうが中国人や韓国人の友だちは多いんじゃないかな。今、日本人は韓国や中国へばかり目線がいっている。他のアジアの国にも、もっとみんなが知らないようなエピソードがあることを伝えたい。だからこそ、この本では中国と朝鮮半島の「親日」については、あえて言及しなかったんです。

───昨今の出版業界は韓国や中国へ言及した本がとても多いですよね。おうおうにして「愚韓」とか「恥韓」とか、否定的なタイトルが目立ちます。

丸山 そういうのをお好きな方もいるでしょう。もうお腹いっぱいだという方、もっとアジアの人たちと仲良くしたいなと思っている方へ、この本を向けたかった。……実は、僕もゴーストライターとしてその種の本を書いたことがあるんですよ。

───なんと!

丸山 どの本かは言えませんが。著者となる人がいて、その方に代わって書いたわけです。中国や韓国、果ては日本の政府や国民性に対しても、好意的な本ではなかったですね。僕の思想信条ではなく、著者となる方の立ち位置というものがありますから。でも、『アジア親日の履歴書』を書く前に一度、いわゆる反中国・反韓国的な本というものに携わっておきたかった。どういう目線なのか知りたかったので。

●アジアの「親日」を形成する二本の柱

───日本では一般的に、たとえば台湾やタイは「親日」であるというような印象を持っている人が多いと思います。しかし、その理由を訊ねられると、少なくとも僕は言葉につまってしまう。

丸山 結局、根拠なく「親日」と言われて、ぼんやりとしてるんです。漠然と空気になっているような、雰囲気としての「親日」。たとえば現在、目に見えやすい関係としては、経済、貿易、ビジネス上の結びつきが挙げられます。

───政府によるODA、日本企業のアジア進出などですね。

丸山 極端な話、今現在の日本が受け入れられている背景にあるのは、カルチャーや、提供している製品のクオリティーが高いからだと思います。ただし、その意味での「日本という国が好き」という感覚は、「日本に対して興味がある」というふうに言い換えることができるでしょう。日本文化や製品を好んでいる人たちの存在がひとつの柱。もうひとつは、歴史的背景。この二本柱が、今の「親日」と呼ばれるようなカテゴリーの人たちを裏付けているものだと思う。だから、歴史的経緯や戦後補償に遡り、各国の日本と絡みのある近現代史を見ることも必要になります。こう見えても一応、僕は歴史学の修士号を持っていますから。小説を書いているわけではない。研究者として、立ち位置はフラットであるべきだと思っていますね。

───現地の人と国際的な議論をすることになったら、歴史を知っていないと困りますね。

丸山 気質が違うんです。日本人の多くは触れないでおこうって気分がどこかあるけど、アジア人や欧米人はおしゃべり好きの議論好き。だから、知っておかなければいけないことは確かにある。だけど、今その話題で本を書くとすると、どうしても中国と韓国の話題になるでしょう? ……それ以外の国のことをみんなは知ってるのか?って。普通だったら触れないところを書いてるんです。実際、アジアの近現代史を横断的にまとめた本って、あんまりない。各国別とかになっちゃう。そういうのだと読まないでしょう。

───タイトルに騙されたと言ったら語弊がありますけど、「日本はこんなにすごいんだぜイェイ!」みたいな、自尊心を満たすための本ではない。

丸山 深く知ることの前に、横断的に知っておきたいことがある。そんなときに、専門書ではちょっと不便だろうな、と思った。たとえば学校の教科書でも、アジアの近現代史のパートって本当にわずか。教科書に書いていればまだいいほうで、資料集で数ページ、つまりほとんどないわけ。だから、やっぱり日本人はアジアのことを知らないんじゃないのかな。

●古過ぎる物語は「今」に生きていない

丸山 他の「親日本」を否定するわけじゃないけど、たとえば、タイの山田長政まで遡ってね、それがタイ人の「親日」の根拠だとするのは、少し疑問です。ひょっとすると古過ぎる物語って「今」に生きてないんじゃないか。たとえば、ポルトガル人が日本に鉄砲を伝えたからといって、僕らは特別に親ポルトガルじゃないでしょう? 中国から羅針盤と火薬が伝わったからって、特別中国が大好きってこともないじゃないですか。結局、他の国もそうなんです。

───「親日」というテーマを扱いつつ、現在だけを見ようというのであれば、現地で丸山さんが海外で経験した「心温まるエピソード」を集めただけの本にするという選択肢もあったはずです。

丸山 普通にやれば、「親日」を読み解く材料は直接触れ合った個人の話にしかならない。でも、それでは「点」にしかならないじゃないですか。ある程度は「面」として理解したい。だから僕は『アジア親日の履歴書』を、行動を前提にした「副読本」としてほしい。たとえば、自分でアジアへ行って、現地の人と出会って、「日本人だから」と親切にしてくれる人がいます。このなかで書いている近現代史は、根拠となる材料の提示なんです。ようは、日本人が知らなくても相手が知っていることがある。それは、日本人としては、ちょっともったいないというか、恥ずかしいことかな。

───昨今はネット上でも、国際関係や歴史認識についての議論が盛んです。その内容を覗いてみると、やっぱりというか、中国・韓国に関する言及が圧倒的に多い。

丸山 みんな興味あるんだろうな。この本の最後にも書きました。「親日」の対極にあるのは「反日」ではない。「無関心」です。隣国トラブルはどこの国でもある。戦争や領土問題が根ざしていることも珍しくないから、だいたい隣りの国とは仲が悪い。だから韓国と相容れないっていうのは、ある意味しょうがないのです。

後編へ続く

(HK・吉岡命)