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Windows 8を搭載したワコムの液晶ペンタブレット「Cintiq Companion」。筆圧対応ペンやマルチタッチ操作に対応し、OSを搭載した高性能コンピューターとしてこれ1台でクリエイティブな作業を可能にした。日頃の業務にペンタブレットは欠かせないレタッチカンパニーのフォートンが、実際の作業の中でテスト。その使用感を聞いた。
ワコム Cintiq Companion
Windows 8を搭載、タブレットPCの機能を備えた液晶ペンタブレット。フルHD対応の13.3型ディスプレイに、付属のプロペンで画面に直接描き込むことが可能だ。

PC用のソフトが動かせるポータブルな1台

西山慧(にしやま・けい)
フォートンの創立メンバーであり、常務取締役。デジタルレタッチを日本で初めて手掛けたレタッチャーのパイオニア。現在は動画レタッチを中心に国内外の仕事を精力的にこなしている。

片岡大(かたおか・まさる)
LIGHT PUBLICITYにてレタッチを担当後、フォートンに入社。「神は細部に宿る」を胸に秀逸な目で、ビジュアルをハイクオリティに磨き上げる。ビューティから映画作品まで数多く手がけている。

──Cintiq Companion を触ってみていかがでしたか。

片岡 液晶ペンタブレットのCintiqシリーズはきちんと使ったことがなかったので、液晶画面を直接ペンで触るというのは最初はなかなか慣れませんでした。でも使いこんでいくうちに違和感がなくなって、Photoshopのスタンプツールでゴミを取ったり消し込んだりする作業などは、画面に直接描いている感覚が気持ちいいなと思いました。

──Cintiq Companion は Windows 8を搭載したタブレットPCでもあるのですが、そのあたりはいかがでしたか。

西山 今回はPhotoshopとAfter Effectsをインストールしてみたのですが、いつも使っているPC用のソフトがタブレット型の端末で動くのはとてもいいと思います。

片岡 PCと液晶ディスプレイとペンタブレットが1つにまとまっているところがいいですね。ポータブル感があるので、常にこれ1台で作業して慣れてしまうのがいいのではないかと思い、外付けのモニターも使いませんでしたが、まったく不便さを感じませんでした。

──スピードは他のPCと比べてどうですか。

片岡 Cintiq Companionのメモリは8GB、CPUはインテル Core i7ですから、立ち会い用に普段弊社で使っているノートパソコンとほとんど性能は変わりませんが、思った以上に速い。グラフィックの仕事だとストレスはまったく感じません。テスト用に試した画像は、雑誌用に解像度を落として横5500pxで縦が4000px、レイヤーは20枚以上。合成とその調整レイヤーが全部乗った状態でスムーズに動くというのは驚きました。Photoshopのぼかしフィルターは画像が大きいと時間がかかりますが、雑誌見開きぐらいであればほとんど待ち時間はありませんでした。

西山 私は主に動画レタッチの仕事をやっているので、After Effectsで検証してみました。実は正直なところ、動画ではあまり使えないだろうと思っていたんですが、MP4の動画のプレビューをしてみたら、途中で止まったりせずスムーズに再生できました。しかもメモリ8GB分の再生が終わったら、すぐにまた次の8GB分が始まるんです。そのタイムラグがあまりないので、撮影した映像をその場で確認するのに良さそうです。

──動画も問題なく再生できるんですか。それは予想以上のスピードですね。

西山 DPXフォーマットの動画はさすがにダメだろうと思ったのですが、こちらも問題なし。3〜4秒のDPXが、MP4より速いぐらいの感覚でプレビューできました。CMはだいたい数秒のショットがいくつか続いて15秒のCMになるので、2〜3秒の動画がサクサク動けば1ショットの作業では問題ありません。レイヤーを積んでいくとそれなりに遅くなりますが、トーンカーブ2〜3枚だったら普通に動きます。会社に戻ればもっと速いコンピュータがありますが、立ち会いの時に簡単なシミュレーションをするには充分なスペックだと思います。

──それだけの性能があれば、ポータブル性を活かして新しい使い方ができそうですね。

西山 私は社内での作業より、撮影の立ち会いや打ち合わせで使うのが適しているかなと思っています。先日も、シャンプーのCMの打ち合わせに持っていきました。仮編集が終わったばかりの画像を見ながら、髪がぱらついて見える部分を埋めたいとか、色浮きを押さえたいといった説明を受けました。いつもはプリントアウトした画像をもらってメモするんですけど、今回はその場でデータを1枚抜き出してもらい、Cintiq CompanionのPhotoshopでざくざくと指示を書き込むことができました。プリントと違って色が見えますし、やはり本番で使用される実際の素材に指示できるのはいいですね。

会社に戻ってからも、プリントをいちいち手渡しするのではなく、社内のサーバーにアップするだけで、スタッフ全員と簡単に情報共有ができました。今回は仮編集後の打ち合わせでしたが、撮影立ち会いの時には待ち時間などを利用して、動画データを転送して作業するのもいいかもしれません。USB 3.0がついているのでデータの読み込みも速いですし、動画もQuickTimeで15秒ぐらいだとそれほど重くないので、問題なさそうです。

片岡 打ち合わせでも立ち会いでも、周りに人を集めて見やすいんですよね。

西山 テーブルの上にフラットに置いて、みんなで囲んで画面を確認しながら打ち合わせができるのはいいですね。撮影の立ち会いは、グラフィックだとカメラマンとADぐらいですが、動画の場合はそれに加えて照明部やモーションコントロール担当もいてスタッフがとても多い。クライアント席と代理店席もあります。その人達を全員呼んできて見せるというのは結構気がひけてしまうんですが、Cintiq Companionだと気軽にそれぞれの方たちのところに持っていってパッと確認ができます。

角度調節可能なスタンドが付属。フラットから4段階にポジションを変更。ポータブルキーボードはオプションで用意されている。

色が信頼できるのは何より重要なメリット

──Cintiq Companionはクリエイティブの現場で有効に使えるということですね。

片岡 はい。液晶画面はキャリブレーションを取れるのもいいですね。ちゃんとキャリブレーションをしておけば、外出先でも色が確認できるので、会社に戻った時もスムーズに作業できて、精神的にもこの色でいいんだという安心感があります。

西山 撮影の立ち会いの時、液晶画面の色が信頼できるというのはすごく大きな意味があります。

片岡 その場ですぐに正確な判断ができるのは助かります。

西山 立ち会いで何回か経験があるのですが、撮影したカメラマンが色を指示することがあって、「こういう色にしたい」というイメージを持ち帰ってレタッチをすると、後で「こんな色じゃなかった」と言われてしまうんです。カメラマンも撮影時のモニターをレタッチの立ち会いに持ってくるわけではないですし、誰もが完璧にキャリブレーションを取っているというわけでもない。それにAdobe RGBで見ていたら、こちらで動画をお見せすると今度はsRGBになりますから、それでも色は全然違ってしまいます。イメージの統一はそれほど難しいことなので、撮影立ち会いの時からCintiq Companionを持ち込んで、全員が共通認識できる色をその場で作ってしまえば、そういったトラブルは減らせそうです。

──そういったワークフローは、Cintiq CompanionのOSがPCと同じWindows 8であるからこそできる。

西山 そうですね。動画もグラフィックも、いつも使い慣れているソフトが使えないと仕事の場ではあまり意味がないんです。でき上がったものをさらっと見せるだけだったらiPadでもいいんですけど、立ち会いでは「黒髪のこの部分は潰れているかいないのか」といったシビアな話をすることもあります。普通は一般的な現像をしたらどうなるかということで見ていくのですが、実際にはPhotoshop等の中で濃度を上げたり下げたりして数値で確認してみないと正確な答えは出せません。PC用のソフトを動かせるということは、プロ用ツールとしてはとても重要な要素になります。

Cintiq Companion 本体にチルト角度調整機構スタンド、プロペン、ペンケース、ソフトケースが付属(Wireless Bluetooth キーボードのみ別売)

独自のナビゲーション操作で効率アップ

──お二人ともCintiq Companionを仕事で使うのはほとんど初めてとのことでしたが、使用してみての感想は?

片岡 すごく性能が安定しているので、雑誌の写真のレタッチならこれ1台でフィニッシュまで行けるんじゃないかと思います。よく使うPhotoshopは、ウインドウの位置も変えたり、カスタマイズして使いやすくしました。

Photoshopで細かい作業をするときは画像を拡大して、ウィンドウの右側のスクロールバーを動かすと思いますが、このCintiq Companionでは「ナビゲーター」パネルを画面の左側に移動してみました。そうすると左手でナビゲーターを触ってスクロールができるので、13.3型の小さな画面でも想像以上に効率よく作業ができました。「レイヤー」や「トーンカーブ」のパネルはいつものように右側に置いておいて、微妙な操作が必要なときはペンで触るという感じです。

トーンカーブなどペンで細かな操作をするメニューは画面右に、左手で操作するナビゲーターは左に移動して、ペンとマルチタッチ操作を両立

西山 私たちは板型ペンタブレットのIntuos Proで作業をするとき、メインモニターには画像だけを表示して、右側のサブモニターにはPhotoshopなどのツールやパネルを表示しています。だから何かをしようと思うたびにペンを左右に動かすことになるんですが、片岡のような使い方なら、手をあまり動かさなくてすむので負担も減ると思います。

──Intuos Proと比べて操作感、使い心地はどうですか。

片岡 単純に慣れが大きいと思いますが…画面がもうちょっと大きければ描きやすいかな。でもポータブル感優先だったらこれぐらいがベストかなとも思うんですけど。

西山 ペンの作業だけで考えるとあまりストレスを感じないんですけど、マルチタッチの操作はやはり画面が小さいのでズレることがありました。

片岡 僕も最初はそうでしたよ。

西山 ああ、やっぱり慣れなんですね。それと私は1.8kgの重量が気になったのですが、普段持っていくノートPCと比べたら全然軽いんですよね。

片岡 重量に関しても慣れだと思います。どこでもこれ1台で仕事ができるのはいいですよ。場所を変えて作業をすると、イメージが客観的に見れることもありますし。

──社内で移動できるメリットもあるんですか。

西山 そうですね。フロアを移動して別のルームと共同作業をする時には自分で作った画像をそのまま持っていったり、誰かにチェックしてもらう時にも中にファイルが入っていれば簡単ですから。その場ですぐに修正もできますし、作業効率アップに貢献してくれる1台だと思います。


撮影:坂上俊彦