『洞窟物語』の作者が送る新作アクション『ケロブラスター』

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世界で一番有名なインディゲーム開発者といえば、エキレビでも何度か紹介した『マインクラフト』のノッチことマルクス・パーション氏でしょう。一方で日本はといえば、『洞窟物語』の開発室Pixel(天谷大輔)ではないでしょうか。

PCのフリーゲームからスタートした『洞窟物語』は、その完成度の高さから口コミで話題を呼び、Wiiウェア、ニンテンドー3DSなど、家庭用ゲーム機に続々と移植。ゲーム開発者の国際会議「ゲームディベロッパーズカンファレンス2011」でも、おそらく日本人のインディゲーム開発者として初めて講演し、注目を集めました。なにより「日本人が一人で開発したゲームが全世界でヒットした」という事実が、大きな驚きで迎えられました。

その開発室Pixelの最新作『ケロブラスター』がついに発売されました。プラットフォームはPCとiOSで、PC版はインディゲームのオンライン販売サイト「PLAYISM」、iOS版はこちらで購入できます。

ゲームは横スクロールのアクションシューティングで、プレイヤーはキャット&フロッグ社に務めるカエルです。転送装置の掃除のため、さまざまなステージに降り立ち、モンスターを退治していきます。ステージの右端まで進んでボスを倒せばクリアという、シンプルでゲーマーの挑戦心をかきたてるシステム。モンスターを倒すとコインが入手でき、道中のショップでブラスターを強化したり、最大ライフを増やしたりできます。

ブラスターは初期装備の「ショート」、当たり判定が大きい「ファン」、泡が遠くまで転がっていく「バブル」があり、上・右・左に打ち分けられます。ユニークなところでは、進行方向と異なる向きに連射しながら移動することもOK。つまり左側に攻撃しながら、後ずさりするように右に移動したり、上方の敵を攻撃しながら、左右に移動できたりするのです。操作が複雑になるので、敬遠されがちですが、あえて盛り込まれました。

本作のポイントは「優しさ」です。前作『洞窟物語』でも話題を集めた、ドット絵で描かれた温かみのあるグラフィックは本作でも健在。主人公のカエルをはじめ、主要キャラクターは16×16ピクセルで描かれ、パタパタアニメで所狭しと動き回ります。動物だけの世界というのも、サイエンス・フィクションならぬスペース・ファンタジーといった印象で、アニメ『宇宙船サジタリウス』のよう。どこか懐かしい世界観を提示しています。

ゲームの難度も初心者向けに抑えられています。タイトル画面が操作の練習ステージになっていたり、段階的に難しくなっていったりと、ステージ構成もセオリー通り。何度も繰り返し遊んでコインを集め、ショップで武器を強化すれば、実質的な難度も低下していきます。筆者にはちょうど良い塩梅でしたが、アクションゲームになれた人なら、数時間でクリアできるかもしれません。その場合はショップを利用しないなど、ぜひ自分ルールを設定して「もう一周」してください。

そして本作のもう一つの「顔」ともいえるのが、いわゆる「ピコピコ音」で奏でられるゲームサウンドです。昔のファミコンゲームを彷彿とさせる、フュージョン系のメロディアスな楽曲で、オールドゲーマーには懐かしく、今時のゲーマーには新鮮に聞こえること間違いなし。前述のプレイズムをはじめ、Youtube上でプロモーション動画が配信されているので、まずはその世界を耳で体験してみてください。

ただ、「優しさ」は「迷い」にもつながるんですよね。

『洞窟物語』と『ケロブラスター』の最大の違いは、出目がフリーゲームか否かという点です。『洞窟物語』は、もともと趣味として作られたので、PCだけを考えればすみました。しかし『ケロブラスター』はインディゲーム、すなわち「飯の種」ですので、売上を無視できません。PCだけでなく、より広範囲にリーチできるiOS版で配信されたり、難度を低めに抑えた点も、それ故でしょう。

ところが、iPhoneなどのiOSデバイスには、物理ボタンが存在しません。画面の一部をタッチさせる方式では、プレイ画面が小さくなってしまいます。一方で前述のように、本作ではショットを上・左・右に打ち分けさせるなど、そこそこ複雑な仕様となっています。そのためiOS版では移動ボタンを左右に限定し、上移動がジャンプボタンで代用されました。ショットもボタンではなく、攻撃方法をレバーで指定しておけば、自動的に連射する仕組み。ボタン配置がパズルのようで、開発者の苦労がしのばれます。

一方でPCゲーム版はカーソルキーで移動し、Zキーでジャンプ、Xキーでショットとなっています。ただ、移動しながらショットを別方向に打ち分けようとすると、(筆者が下手なだけかもしれませんが)まごつくんです。移動と攻撃の方向を切り分けるのであれば、左右の親指で別々の十字キーを操作させたいところでしょう。今時のゲーム機なら、アナログスティック類が左右にあるので、これが可能です。ところがPCゲームで販売するということは、キーボードでの操作を切り捨てられない、ということなんですよね。

これは筆者の勝手な想像ですが、おそらく「本当に武器の打ち分けが必要なのか」という逡巡は、開発中に何度もあったと思われます。攻撃方法を移動方向と同じにすれば、こんな面倒な問題は発生しないのですから。しかし、それでもこの仕様を残したい、という思いが形になって残りました。一人で作っているのだから、ギリギリの決断は自分がする。その責任は自分が負う。これぞインディゲーム・スピリッツです。

iOS版とPC版のどちらがオススメか。意外や意外、iOS版でもアクションがしっかり楽しめます。ジャンプボタンを押す時間で跳躍距離が伸びる仕様なので、思わず熱くなって画面をぎゅぎゅっと押してしまうことも。家でじっくり遊ぶならPC版で、画面サイズを大きくすれば、ドット絵アクションの機微が楽しめます。なによりサウンドもスピーカーで聞き放題。ぜひ「優しさの世界」を体験してみてください。
(小野憲史)