広島新庄vs桐生第一 延長15回決着つかず!膠着状態を打ち破るための策とは何か?
広島新庄・山岡 就也(3年)、桐生第一・山田 知輝(2年)という技巧色の濃い投手戦が延長15回まで続き、1対1の均衡はついに破れなかった。2人の技巧の特徴は本格派の色を残している、というところにある。
たとえば左腕山岡は、大会雑誌にストレートの最速が「143キロ」と紹介されている。しかし、この日の最速は136キロで、その多くは130キロ台前半である。事前情報の143キロと実際に投げた130数キロの差はおおよそ10キロ近く。山岡が意識しているのかいないのかわからないが、結果だけ見れば山岡はこの10キロ差をうまく活用していた。
山岡の投球フォームは始動のときの足の上げ幅の大きさに特徴がある。足上げと同時に大きく体を後ろに預け、そこからガクンガクンとギアチェンジするように勢いを増して腕を振っていく。そして、力強い腕の振りとは裏腹に投げられる球は「最速143キロ」の快速球ではなく、130キロ台前半のストレートだったり、もっと多かったのは100キロ台の縦割れカーブや120キロ台のツーシームであったりする。 大まかで申し訳ないが、ストレートの比率は全体の3割くらいだったのではないか。ストレートのタイミングでボールを待つ桐生第一の打者は変化球の多さに面食らったと思う。
一方の山田は正統な右の本格派である。173センチの山岡に対して184センチと上背があり、その長身と柔らかい真上からの腕の振りで、1回戦の今治西戦ではストレートが最速136キロを計測した。しかし、この日の山田が投じたストレートの多くは120キロ台である。そしてストレートの比率は山岡同様、少なかった。
低め、低めと呪文を唱えるようにカーブ、スライダー、チェンジアップをストレートと同じ腕の振りで投げ込んでくる、というのが山田の騙しのテクニックである。1、2回こそ得点圏に走者を進められる苦しい展開だったが、3回以降は三者凡退が7回もあり、危なげなく延長15回を投げ切った。
打線に目を向けると、桐生第一はミスが多かった。7回にはエラーで出塁した山田が一塁で、9回にはやはりエラーで出塁した速水 隆成(2年)の代走・翁長賢太(2年)が二塁まで進んだものの山岡の牽制球で殺されている。 10回はエラーで出塁した高橋 章圭(3年)がバントで二塁まで進み、2番石井 翔太(2年)のライト前ヒットで生還を目論むが惜しくもホーム憤死。 11回には2死一、三塁の場面で一塁走者の翁長が二盗を試みるが、キャッチャー・田中 啓輔(3年)の正確なスローイングで刺され、チャンスはことごとく目を摘まれてしまった。エラーを得点にしていくのが甲子園で勝てるチームの特徴である。そういう面で桐生第一の攻撃には物足りなさがあった。
広島新庄の2回以降のチャンスは唯一、11回裏だけだった。4番阪垣 和也(3年)がセンター前ヒットで出塁し、5番奥田 慎梧(3年)がバント処理を焦ったサードのエラーで続いて無死一、二塁。ここで6番打者の二角 太陽(3年)がバントで送って二、三塁とし、7番打者の熊田 淳平(3年)が敬遠の四球で歩いて一死満塁というサヨナラ勝ちのお膳立てが整えられる。 しかし、この絶好のチャンスに8番田中啓がファーストゴロ。ボールは3−2と渡り、一塁ベースカバーのセカンド・石井へと転送され、まさかのダブルプレーとなってしまった。14回にも田中啓がエラーで出塁するが二盗を失敗し万事休す。2時間25分の激闘はついに決着を見ず、30日の再試合に持ち越された。
WBC(ワールドベースボールクラシック)では膠着状態を打ち破る作戦として盗塁がしばしば試みられる。私が確認したところでは盗塁をしている試合ほど勝率が高かった。もし、再試合が前日と同じような展開になったら、攻撃的な走塁で膠着状態を打ち破ってほしい。自分が動かなければ状況は何も変らない、とは人生にも共通する教えである。
(文=小関 順二)