八戸学院光星の見事なフルスイング

 ともに投手力に弱さのあるチーム同士の戦いは、序盤から乱打戦の気配を漂わせた。1回裏、横浜はドラフト候補、1番浅間 大基(3年)が四球で出塁するとこれをバントで送って2死後、打席にはこれもドラフト候補の4番高濱 祐仁(3年)が1ボールからの127キロスライダーをセンターフェンスに達するタイムリー二塁打を放ち先制する。

 浅間と高浜の名前が出たところで、少し2人の話をしたい。大会前、浅間が巨人のドラフト1位候補に挙がっているとスポーツ紙が紹介していて驚いた。上位候補だとは思っていたが、1位候補とは初めて聞いた話である。

 そのあたりを旧知のスカウトに聞くと「チーム事情によってほしい選手は違いますから」と断った上で、「浅間は確かに3拍子揃ったいい選手ですけど、うちのような若手の外野手が充実しているチームで1位はないですよ」と言う。高浜については「岡本 和真(智辯学園)のように結果を出してくれれば上位候補もある」と話してくれた。

 私が気になる高浜の遊撃守備については、「プロではショートはないですね。だからといってサードに行くのも難しい。彼はサードのような短い距離では捕球のバウンドを合わせるのが苦手で、それで深く守れるショートに就いているんです。プロでは外野を守ることになると思いますよ」と解説してくれた。

 昨年夏の神奈川大会、浅間と高浜が松井 裕樹(桐光学園−楽天)から本塁打を放った試合を見ているので2人とも文句なく上位指名されると思っているが、指名する側のプロの事情や、高浜の守備の特徴については考えが及ばなかった。

 話を戻そう。先制された八戸学院光星は2回表、6番新井 勝徳(3年)が四球で歩き、これをバントで送ったあと8番馬場 龍星(2年)が左前へタイムリーを放ち同点とする。2回までに両チームとも打順がひと回りしたのを見た印象はというと、八戸学院光星のほうが自分のタイミングでしっかりバットを振っている選手が多かった。

 たとえば1番北條 裕之(3年)、4番深江 大晟(3年)、5番蔡 鉦宇(3年)だけでなく、十分な結果が出なかった3番森山 大樹(3年)でも自分のタイミングでしっかりバットを振ってバッテリーにプレッシャーをかけていた。そういう圧迫感が徐々に横浜を追い詰めていく。3回表は北條の二塁打を皮切りに横浜先発・伊藤 将司(3年)の暴投や3つの四球で満塁のチャンスを作り、蔡のタイムリーなどで大量5点を奪い、横浜を突き放した。

 横浜・伊藤は持ち味のストレートにキレがなく、スライダーに頼る苦しいピッチングが続いた。比率の高いスライダーを狙われているのはわかっていてもそれ以外に投げる球がない。2、3回には馬場 龍星(2年)が、3回には蔡が110キロ台のスライダーを狙い打ってタイムリーをつらねた。

 伊藤は3回2死一、三塁の場面で降板、2番手の日暮 圭一(3年)がこのピンチを抑えたが、6回に深江に2ランを喫して降板。再び伊藤がマウンドに上がったが、7回に先頭打者の新井 勝徳(3年)にホームランを打たれて降板。すると4番手に小田 準右(3年)が上がり2イニングを無失点に抑えると9回に伊藤が3回目の登板をするという悪あがきにも似た継投策を演じる。

 王者横浜を知る人間には寂しい姿だったが、知人で事情通の横浜ファンと顔を合わせると、「夏は大丈夫」と言う。どうしてと聞くと、「144キロ投げる180センチ以上の左腕が入ってくる」と言う。何でも垂直跳びが80センチ以上を記録するアスリートタイプらしい。しかし、1年生はあくまでもプラスアルファ的な存在。伊藤が立ち直らないと夏も厳しいと思った。

 八戸学院光星各打者のフルスイングは見事だった。北條はバットを引きながらグリップを下げトップで再び上げるという兄・史也(阪神)にも似た振幅の大きいバッティングで少し笑えた。昨年秋も同じようなバッティングスタイルだったが、スイングスピードがひと冬越えて段違いに速くなり、打球の強さで高浜に負けていなかった。

 北條以上に印象に強く残ったのが深江である。動きが大きい北條にくらべ打席でのたたずまいがどっしりしているのでバッテリーはどこに投げても打たれるのでは、というプレッシャーを受けたと思う。ヒットは6回の2ランしか出ていないが、2回戦でも見たいと思わされた。

 打者走者の「一塁到達4.3秒未満〜」では八戸学院光星の0人に対して、横浜が4人4回と上回った。八戸学院光星が2回戦以降も勝ち上がっていくためには、この部分の意識を高めていくことが必要になるだろう。

(文=小関 順二)