明徳義塾vs智辯和歌山 延長15回の激闘!智辯和歌山サイドの視点で勝負のポイントを探る!!
延長15回。3時間4分に及んだ激闘は、明徳義塾がサヨナラワイルドピッチという形で決着した。 勝負のポイントがいくつもあった一戦を、敗れた智辯和歌山サイドの視点で振り返っていきたい。
◎1回裏の守り 先発のマウンドに立ったのは2年生左腕の齋藤 祐太。そしてマスクを被ったのは、主将の長 壱成(3年)だった。 七人の投手をベンチに入れた高嶋仁監督。誰が選抜で投げるのかは不透明であったが、明徳義塾との対戦が決まった時から、『先発は齋藤になるだろう』という声が関係者や報道陣から挙がっていた。当然、明徳義塾の馬淵史郎監督も織り込み済みである。 ただキャッチャーは、昨秋は2年生の西山 統麻が被ることが多かった。近畿大会での長は、背番号2をつけながら、西山の起用ポジションを作るためにセンターへ回っていた。 それがこの日はスタメンマスクで、西山がファーストに回った。例年、選抜大会ではサプライズ起用が多い高嶋監督の胸中が、スタメン表ににじみ出ている。もし、秋までと同じ布陣だったならば、延長15回の激闘にならなかったにかもしれない。
さて先発した齋藤は、明徳義塾の1番尾崎 湧斗(3年)に、2球を投げた所で、球審から二段モーションの注意を受ける。さらに3球目を投げた後には、改善が見られないとして、反則投球を取られた。 キャッチャーの長によると、「これまで、(二段モーションを)取られたことはなかった」とのことだ。ただし、秋の県大会二次戦と近畿大会を故障のため投げていないので、大舞台で審判に投球フォームを見られる機会がなかったことが、この日の二段モーションに繋がったと言える。 スローVTRで見ても、はっきりと二段モーションとなっている。近畿大会クラスの審判が見れば、明らかにわかるものだった。 マウンドの齋藤は、尾崎に対する4球目からクイックモーションに変え、1回を三者凡退に打ち取った。 「(投球の)リズムがどうかなと思ったが、良く投げてくれた」と高嶋監督は齋藤の立ち上がりを褒める。結局、自身最長イニングとなる12回途中までマウンドを守り続けた。
◎2回表の攻撃 齋藤に不安が出た後、次の攻撃が重要だった智辯和歌山。一死から5番片山 翔太(3年)が二塁打を放ち、6番西山がヒットで続いて一、三塁とチャンスを作った。 この場面で、明徳義塾のエース・岸 潤一郎(3年)がワイルドピッチ。両監督の駆け引きが始まるか思う前に、思わぬ形で、智辯和歌山に先取点が入った。 モーションの不安の後で、点を取ってもらった齋藤にとっては、大きな勇気をもらった気持ちだろう。この後のピッチングもクイックを続け、明徳義塾打線を5回の1点のみに抑えた。
◎中盤以降 ゲームが進む中で、両指揮官の動きに違いが出てくる。明徳義塾の馬淵監督は、2回、6回、9回と三度のタイム(伝令)を積極的に使ったのに対し、高嶋監督はいつものようにベンチで仁王立ちしたまま、動かない。伝令どころか、内野陣がマウンドに集まることすらなかった。「やることは一緒なんでね」と話した高嶋監督。一人でマウンドに行き続けたキャッチャーの長は、「マウンドに集まらなくても、自分が声をかけていれば問題ないと思っていた」と、マウンドに行ってピッチャーに話をしてから内野陣に大きな声を懸けていた。
◎延長突入 明徳義塾・岸と、智辯和歌山・齋藤が耐え続ける中、ゲームは延長戦に突入。スコアブックを見ると、10回までは両チームともほとんど先頭打者が出塁できていなかった。 だが11回裏、智辯和歌山の5番片山が初めて先頭打者として出塁したのを皮切りに、先頭打者の出塁回数が増えた。確実に、ゲームは終焉へと向かっていたのである。
◎12回表の攻撃 智辯和歌山は先頭の1番大畑 達矢(3年)がライトへヒットを放ち出塁する。続く2番田中 宏明(3年)に高嶋監督は迷わず送りバントのサインを出すが、2ボールからの3球目を打ちあげて、ピッチャー・岸への小フライとなった。岸は捕球に向かうが、グラブに当ててボールを落としてしまう。だが、打者の田中が走っていなかったのが幸いして、一塁をアウトにし、走者を一、二塁間で挟んでダブルプレーを完成させた。
わざとワンバウンドにするのではなく、グラブに当てていたため、『併殺を狙うための、故意落球では?』と思った方もいただろう。しかし岸は、「たまたまです」と本当に落としてしまったことを強調。チームメートに対しても、『ごめん』という表情を浮かべていた。逆にダブルプレーで二死になってしまった高嶋監督は、「バントを失敗したバッターのミス。細かい所がまだまだできていない」と己(智辯和歌山)にダブルプレーの責任があるとの見解を示した。 チャンスが潰えたかに見えた智辯和歌山だが、直後に3番山本龍河(2年)がライトスタンドへ特大の一発。「手応えは完璧だった」と満面の笑みでダイヤモンドを一周した。 その山本が、直前のバント失敗を振り返ってこう話した。「自分的には(ランナーがいなくなって)打席に入りやすかった。二塁にいたら、“打たな、打たな”と思ってしまうので、ランナーなしで思い切ったスイングができるので、吹っ切れた気持ちでした」。 もし、一死二塁で山本だったならば、この一発はなかったかもしれない。ここも、15回まで進んだ要因の一つである。
◎12回裏の守り このイニングを抑えれば勝ちという状況だったが、マウンドの斎藤が、明徳義塾の先頭で7番の森 奨真(3年)にヒットを浴びる。これが齋藤にとって初めて与えた先頭打者の出塁だった。8番水野 克哉(3年)が送った後、9番大谷勇希(3年)がセンター前へのヒットで繋ぐ。一、三塁となった所で、高嶋監督はエースナンバーをつける東妻 勇輔(3年)をマウンドへ送った。 「齋藤は限界を超えていた」という指揮官。試合前に勝負のポイントと見られていた継投がこの12回になったことについては、「東妻に不安があったからです」と心境を語った。ベンチには残り六人の投手がいるものの、相手が明徳義塾ということを考えれば継投できるのは東妻しかいない。だが、調子に不安があったため、中々手を打てない状況だった。
ゲームが再開し、打席は1番尾崎。高嶋監督、キャッチャーの長、マウンドの東妻はいずれもスクイズを警戒した。1球目がボール、2球目がストライクと場面が進んでも、尾崎にスクイズの素振りはない。まだスクイズを頭にいれながらの3球目を投じた東妻だが、ボールとなって、2ボール1ストライクのバッティングカウントになった。 そして4球目、馬淵監督のサインで、ついに尾崎がスクイズを敢行。ピッチャー東妻の前に転ぶと、スタート良く走者が生還する本塁への送球をあきらめて、一塁へ投じてアウトを取りに行った。
この時の配球をキャッチャーの長はこう話す。 「1番バッターだったので、何かやってくるかもと思っていた。でもボールが先行したので、打たれた方が、流れが向こうに行く。スクイズの1点は仕方なかった」。 ボール先行のカウントを考えてスクイズをした明徳義塾サイドの読みが当たった。
またもゲームは振り出しとなり、スコアボードの得点欄がどんどん埋まっていった。
◎15回裏の守り 智辯和歌山にとってこのゲーム最後の攻撃となった15回表に、二死満塁と大チャンスを作ったが、結局得点することはできなかった。 最終回を前に、東妻の投球回数が増えてきていたことに、高嶋監督は「1,2イニングやったら良いのですが、抜いた球がないので」とさらに不安を覚えた。
そして15回裏、ついに試合は決着する。 一死からヒット2本と四球で満塁。打席はこの日3安打2打点と当たっていた7番森。1ストライクからの2球目だった。東妻が投じた直球が、力みでワンバウンドに。キャッチャーの長が後ろに逸らす間に、三塁走者の西岡 創太(3年)が生還した。 「外に外すための直球でした。(東妻が)力んでいるのは頭に入っていたので、ワンバウンドを自分が止めていればと思う。東妻は悪くないです」と責任を背負いこんだ主将でキャッチャーの長。高嶋監督は、「四球か、ああいう風(暴投)になるのは予想できていた」と落ちついた表情で語った。
◎試合後 高嶋監督はゲームを振り返り、「齋藤が投げている間にもっと点を取りたかった。先攻を取っている以上、先に点を取って逃げないといけない」と話した。 主将の長は、「負けて良い試合はないと思う。でもこういう試合を経験させていただいて、夏に繋げないといけない。明徳義塾ともう一度やりたい気持ちが強くなった。(明徳義塾の)岸はランナー置いてからのピッチングなど、本当に良いピッチャーでした」と中々できない激闘を経験したことで、新たな気持ちを持ったことを明かした。
取材時間が終わり、インタビュー台を降りた高嶋監督の元に、明徳義塾の馬淵監督が歩みよった。智辯和歌山の林守部長を交えて、さながら感想戦のような会話が始まっていた。12回裏のスクイズの場面などを語り合う声が漏れ聞こえる。 両指揮官がどんな言葉を交わしたのか。そこはご想像にお任せしたい。
(文=松倉 雄太)