フィテッセのハーフナー・マイクがオランダリーグ3試合で計4ゴールと調子を上げている。2ゴールを決めた3月1日のローダJC戦(3−0)では、全国紙『アルヘメーン・ダッハブラット』と、専門誌『フットボール・インターナショナル』の週間ベスト11にも選ばれた。

 かつてデンマーク代表の名ストライカーとして鳴らし、現在はローダJCの指揮を執るヨン・ダール・トマソン監督は、「リーグ1の長身(194cm)ストライカー、ハーフナーへのマークを離してしまったら、ヘディングで決められてしまうのは当然」と、ハーフナーの打点の高いヘディングシュートを絶賛した。

 今季決めた9ゴールの内訳は、ヘッドが5ゴール、左足が4ゴール。いずれも豪快なものばかりだ。例えば10月27日のフローニンゲン戦(2−2)で決めたヘディングシュートは、地面に叩きつけたボールが跳ね返り、フローニンゲンゴールの天井に突き刺さるほどだった。

 また、最近になって目を引くのは、左足によるスーパーゴールだ。12月7日のPSV戦では左からのクロスに対し、オランダ代表CBのカリム・レキクを身体でブロックしながらスライディングシュート。さらに2月23日のRKCワールワイク戦ではスライディングボレーでゴールを奪い、3月1日のNACブレダ戦でも真横からのクロスをニアサイドからボレーで決めた。

 このように今季のハーフナーは、驚くような規格外のゴールを披露している。だが、ハーフナー自身は、25試合で9ゴールという数字は物足りないと語っている。開幕前、「今季はエールディビジ(オランダリーグ)の得点王を狙う!」と宣言していただけに、納得のいっていない思いがあるようだ。

 たしかに今季の前半戦は、不運なシーンも多かった。バーやポストにシュートが嫌われる場面が多々あり、スライディングシュートを決めたのに、ゴール直前の相手の微妙なプレイがファウルを取られ、後にレフェリーから「笛を吹いてすまなかった」と謝られることもあった。だがやはり、思っていたよりゴール数が伸び悩んだのは、前半戦でイージーなシュートを外し続けたことが大きな要因だろう。無人のゴールに決めきれなかったシュートは、開幕戦のヘラクレス戦を皮切りに、9月1日のAZ戦、10月2日のADOデンハーグ戦、そして10月27日のフローニンゲン戦と、計4度もあった。

 その結果、ウインターブレイク後のフィテッセは、1勝3分け2敗と不振に陥り、優勝争いから脱落してしまった。そのすべての試合に先発したハーフナーは、いずれもノーゴール。チームが好調だったときは、「ハーフナーはアーリークロスを含め、どんなクロスに対してもゴールにすることができる力を持っている」と褒めていたテレビ解説者のアーノルド・ブルヒンク(元トゥウェンテFW)も、不調になると一転して、「ハーフナーはフットワークが悪く、ポジショニングも良くなく、味方を邪魔している場面がある」と酷評した。また、フィセッテの地元紙『デ・ヘルダーラント』も、「フィテッセにはストライカーがいない」と批判するなど、ハーフナーへの風当たりは次第に強くなっていった。

 しかし、フィテッセのペーター・ボス監督は、「私はマイクに満足している。彼のヘディングはオランダの中で一番。スペースがあれば、彼の技術は十分に生きる」と、ハーフナーへの信用を失わなかった。指揮官はチーム内のムードを変えるために他の選手を入れ替えながらも、ハーフナーをスタメンで起用し続けたのである。

 そんな監督の想いをようやく結果として恩返しできたのが、シーズン後半戦7試合目となるRKCワールワイク戦だ。1点のビハインドを背負う重苦しい展開の中、後半開始5分にハーフナーが同点ゴールを決めて、フィテッセの本拠地ヘルレドームを大いに沸かせたのである。そのプレイで流れは変わり、2分後にはMFバレリ・カザイシュヴィリ、さらに後半23分にもFWクリスティアン・アツが相次いでゴール。結果、3−1で逆転勝利を収めたのである。試合後、チームメイトのヤン=アリー・ファン・デル・ヘイデンは、「マイクのゴールで僕たちに圧し掛かっていたプレッシャーがほぐれた」とハーフナーの値千金のゴールに感謝し、その後、フィテッセは3連勝を挙げて再び優勝争いに舞い戻った。

 現在9ゴールという結果についてハーフナーは、「前半戦でもっとゴールを獲れていた。自分の中のイメージでは、現在17ゴールだ」と、反省に余念がない。ただ、最近結果を残しているだけに、日本代表に呼ばれないことについて、どう思っているのだろうか――。そんな質問をぶつけてみると、ハーフナーは気負うことなく現在の心境を語った。

「まずは、クラブで結果を出したい。代表に選ばれても、選ばれなくても、納得のいくように今シーズンをいい形で終わらせたいんです」

 そう語るハーフナーに、「W杯行きは目標ではないのか?」と、少し意地の悪い質問を投げかけてみた。すると、「はい。まあ、そうですね」と答えながら、「でも、そんなに深く考えてないです。まずはこのチームで結果を残せれば......。(代表メンバーは)自分が決めることじゃないので、僕は頑張るだけです」と、実に淡々とした言葉を返してきた。

 だが、高身長ぞろいのオランダ人の中で制空権を握り、さらにボレーシュートに冴えを魅せるハーフナーの復活劇を見ていると、どうにかして日本代表のジョーカーとして使えないものかと期待を寄せたくなる。とりわけ、スランプと批判に打ち勝って這い上がってきただけに、ハーフナーは以前よりも強く、そしてたくましくなっているはずだ。

 昨季、後半戦だけで9ゴールを量産したハーフナー。リーグ戦はあと6試合も残っている。ザッケローニ監督を振り向かせるために、ラストスパートの再現に期待したい。

中田徹●文 text by Nakata Toru