注目左腕・田嶋 二刀流で鎮西を完封

 大会屈指の左腕・佐野日大の田嶋 大樹(3年)に鎮西打線がどのように挑むのかに注目が集まった。大会前、腕の振りをサイド、スリークォーターから投げ分けると紹介されていた通り、1回表、サイドに近いスリークォーターからキレのいいストレートを投げ込む田嶋。高めに浮きがちなのが気になったがこれが打者近くで伸びて、1番中野 航汰(3年)を空振りの三振に仕留め、上々の滑り出しをみせる。

 2回にはたびたび腕を上手に近いところまで上げて投げ込んでいたが、結論を急ぐならこの腕の振りのほうがいいと思った。まず、上手に近いほうが前(右)肩の早い開きを抑えられるので腕の出どころが見えづらい。早い肩の開きがないということは、同じ137キロのストレートでも球が見えている時間が短いということである。

 スライダーも上手に近いほうが打者から見れば打ちづらいだろう。サイドに近い腕の振りから投げられるスライダーは大きい横変化を余儀なくされ、5人が揃う鎮西の右打者に対しては甘く中に入ってくることが多いが、上手に近いところまで腕を上げると変化は縦になり、右打者の内角に絶妙の角度でえぐり込まれていく。具体的に言うと、右打者の軸足(右足)に絡みつくような角度で入っていくのだ。横変化が小さく、目に近い位置から高角度で落ち込んでいくので、見逃せばボールと判定されるとわかっていても打者はイヤイヤをするようにバットを振らされる。

 左打者には見ているほうがアッと声を出してしまうような内角いっぱいのコースに腕を振ってストレートを投げ込み、打者の踏み込みを許さなかった。6回表には左打者の9番須崎琢朗(3年)の内角低めに伸びのある142キロのストレートをねじ込み、さらに続いてもう1球、同じコースに138キロのストレートを配して見逃しの三振に仕留めている。ちなみに、巨人のスカウトに聞くと、持参のスピードガンが弾き出したこの日の最速は144キロとのこと。十分な速さと言っていいだろう。

 対する鎮西の先発、須崎はストレートの最速が120キロ台というサイドスローだった。緩急というより(ストレートが遅いので緩急が作れない)スライダー、カーブ、シンカーを交えたボールの変化の多様性で打者を打ち取っていくタイプの技巧派で、4回まで佐野日大打線を散発の3安打、無得点に抑えているのを見ても、その技巧がいかに佐野日大打線に有効だったかわかる。

 5回裏、無死一塁で須崎がボークを犯し、走者を二塁に進めるところから得点は動き始める。バントに対応しようとファーストの坂本 麗矢(3年)が猛チャージをかけた姿が須崎の目に入り、ボールが指先から離れなくなってしまった、そういうボークであった。

 走者が二塁に進み7番小泉 奎太(3年)は定石通りバントをするが、この打球を投手の須崎が焦って一塁へ悪送球してしまう。このプレーにも説明を要する。 ベースを大きく離れた二塁走者が、このバントでは三塁に進めないと二塁に帰塁しようとした姿が須崎の目に入り、須崎は二塁に投げようか一塁に投げようか一瞬迷う。須崎は一塁アウトを選択するのだが、迷った分送球に神経が行き届かなかった。この悪送球で無死二、三塁になり、8番の田嶋が四球を選び満塁になったところで9番佐川 昌(3年)がセンター前に2点タイムリーを放ち、これが決勝点になった。この打球も超前進守備態勢を敷いたセカンドの左を抜くもので、鎮西ナインのやることすべてが裏目に出てしまった。

 無事に初戦を突破した佐野日大の課題は、2点しか取れなかった打線にある。結論を言うと技巧派を引っ張り打法で攻略しようとしても術中にはまるだけで、鉄則は逆方向への流し打ちのはず。しかし、左打者の引っ張った打球が9つ(逆方向が5つ)、右打者の引っ張った打球が4つ(逆方向が1つ)と無茶振りに終始した様子がわかる。

 次戦の相手は智辯学園対三重の勝者。両チームとも鎮西投手陣ほどではないが技巧色の濃い投手陣を擁している。これにどう挑んでいくのか、ベンチワークが試される一戦になりそうだ。

(文=小関 順二)