婚前契約書で「トイレ行くたびメール」、拘束力は?
婚前契約書の種類と法的拘束力について
婚前契約書には、いくつかの種類があるとされています。いわゆる「覚書」といった簡単なもの、体裁をきちんと整えた「契約書」、さらには内容を「公正証書」にしたものなどに分類する例が見られますが、これらは書面の形式や体裁、契約の存在についての証明力に違いがあるに過ぎず、契約の内容そのものに種類があるというわけではありません。婚前契約の内容は、二人がどのような婚姻関係ないし婚姻生活を望むのか、子どもの教育方針、親族との付き合いのこと、財産のこと、どちらかが先に亡くなったときのことなども含めて多岐にわたることが考えられますので、これらをあえて分類することにそれほどの意味はありません。
そういった意味では、さきほどの「覚書」「契約書」「公正証書」などといった書面の形式や体裁の違いにより、その法的拘束力に差が生じるというということはなく、契約である以上、一般的に同等の法的拘束力があることになります。ただ、その契約の法的拘束力を主張するためには、その契約の存在が前提となりますので、相手方から契約の存在自体を否定されてしまった場合には、その存在を立証する必要が出てきます。「公正証書」にしておけば、その立証が容易になるでしょう。
「公序良俗に反する」「司法の介入は不相当」は無効に
しかしながら、法的拘束力があるとはいっても、通常の契約と同じように公序良俗に反するものは無効です(民法90条)。夫婦間の平等を著しく損なうような内容のものは無効となりますし、子どもの扶養や相続制度など二人だけで勝手に決めることのできない性質の問題について、民法が予定した内容と異なる合意をしたとしても強行法規に反するものとして無効となります。
それ以外にも、あえて法的拘束力まで持たせること、すなわち、法(司法)の力を得させてまで、その内容を実現させる必要はないと考えられるものもあるでしょう。例えば、「夫は、トイレに行くたびに妻にメール又は連絡をするものとする」といった内容の合意が、公序良俗に反するといえるか否かは評価が分かれるところだとは思います。夫の行動の自由を著しく制限するものであると考えれば、公序良俗に反すると評価する余地もありますし、仮に反しないと評価されたとしても、司法がわざわざ介入する必要がない、あるいは司法の介入は不相当と考えられる事項であれば法的拘束力はないのです。
以上のとおり、婚前契約書といっても、法的拘束力があるかどうかという問題は、その内容によるということになります。
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