患部外トレーニングについて 今回はケガを抱えている選手が、トレーニング期に出来ることについて西村氏が分かりやすく解説します。

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マシントレーニングは動く範囲が制限されているのでより安全に鍛えられる

こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。

高校野球はいよいよオフシーズンを迎えます。皆さんのチームでも技術練習と並行して、トレーニングやランニングなど体力面を強化するための練習が組み込まれているところも多いと思います。前回「トレーニング期に向けた準備」では、不安部位を取り除くこと、現状を把握するための体力測定の実施、目標設定などについてお話をしました。今回はケガを抱えている選手が、トレーニング期に出来ることについてお話をしたいと思います。

【ケガをしているから練習の手伝い?】ケガをしている選手は、通常練習に参加することがむずかしく、練習の手伝いをしたり見学をしたりといったことが多いと思います。だからといってケガが治るまで身体を動かさず、何もしないというのも時間がもったいない。高校野球が出来る時間は多く見積もっても2年半です。少しでも早く競技復帰できるようにするためには、ケガで練習が出来ない期間にも、ケガの部位以外のところを鍛え、ケガが治ったらすぐにプレーできるようにしておきたいもの。ケガ以外の部位をトレーニングすることを「患部外トレーニング」と言います。

【たとえば右肘を痛めている場合】患部外トレーニングについては、まずケガを診てもらった病院の医師に相談するようにしましょう。たとえば右肘を痛めているのであれば、左腕や体幹・下半身は動かしていいかどうか。ジョギングやランニングはどの程度の強度まで行っていいかなど、身体を動かせる範囲を確認します。右肘だけであればランニングなども制限なく行えると考えがちですが、手術後など肘に大きな負担がかかると痛みなどを引き起こす場合があります。ジョギングで起こる振動なども制限しなければならないかもしれません。こうした判断は自分自身で行うのではなく、治療を受け持つ医師の指示を仰ぐことが大切です。

医師から「左腕・体幹・下半身」の運動許可が出たところで、患部外トレーニングをスタートさせます。ジョギング・ランニングも特に制限がなければ、積極的に参加しましょう。フリーウエイトでスクワットなどを行う時、肘に負担がかかるようでしたら、マシントレーニングなどに変更して行います。十分な器具や施設がない場合は、自重(自分の体重)を使ってのトレーニングを行ったり、選手同士ペアになってトレーニングを行ったりします。

「左腕だけトレーニングすると鍛えられたほうだけ大きくなって、右腕は細いままなのでは?」と心配することがあるかもしれませんが、左腕のみ行っても問題ありません。筋肉は左腕のみ鍛えられますが、運動を指令する神経の伝達は両腕に流れているため、トレーニングをしていない右腕にもある程度の効果が見込まれます。何もない状態でダンベルを想像し、「エア」トレーニングを行っても筋肉は太くなるともいわれています。また復帰した後に右腕のトレーニングを再開すると、何もしなかったときよりも早く筋肉がつくといわれています。左右のバランスを整えるのは、ある程度筋力が回復してからでも十分間に合います。

プールトレーニングは浮力があるので、荷重関節に大きなストレスがかかりにくい

【荷重関節はより慎重に】ケガをした部位が上半身である場合と、下半身である場合では、患部外トレーニングのアプローチ方法は異なる場合があります。より慎重に進めたいものの一つに、荷重関節と呼ばれる体重を支える関節(股関節・膝関節・足関節など)が挙げられます。足関節捻挫などでより症状が重い場合には、松葉杖などを使って免荷(めんか・体重をかけないようにする)で歩行する場合があります。この際にも患部外トレーニングは有効なのですが、ケガの部位に体重をかけないように注意しながら行わなければなりません。膝関節や股関節などでも同様のことが言えます。

ケガをしていない側の足でトレーニングをする場合、自重でのトレーニングでも壁や手すりを利用し、バランスを崩さないようにする必要があります。フラッとして思いがけずケガをしている側の足が地面についてしまうと、体重がかかり痛みを誘発する場合があるからです。こうしたケースにはプールトレーニングなどが有効です。水の中では浮力が発生するため、荷重関節にかかるストレスが軽減されるからです。プールが近くにない場合などは、マシントレーニングで関節にストレスをかけないようにしながらトレーニングを行いましょう。ダンベルやバーベルなどのフリーウエイトを使ったトレーニングは、バランス能力が求められるので、ケガをしている場合は、決められた範囲での動きを強化するマシントレーニングがより安全であるといえるでしょう。

患部外トレーニングはケガの部位以外の体力低下をなるべく抑えて、以前のプレーが早く出来るようにするための大切なコンディショニングの一つです。チームにトレーナーなど専門家がいない場合でも、病院の先生と相談して行うことは可能です。ケガでプレーの出来ない時期は患部外トレーニングを行い、ケガから復帰したときに一回り成長したプレーが出来るようになりたいですね。

【患部外トレーニングについて】●患部外トレーニングとは、ケガをしている部位(患部)以外をトレーニングすること●患部外トレーニングを始めるにあたって医師の診察を受け、指示を仰ぐこと●患部に負担がかからないようにトレーニングを進める(マシントレーニング・自重トレーニング等)●片側トレーニングも積極的に行う。左右のバランスは筋力が回復してからでも鍛えられる●体重のかかる荷重関節をケガしている場合は、より慎重に患部外トレーニングを行う●荷重関節をケガしている場合、プールトレーニングは浮力が発生するので物理的ストレスが軽減される

(文=西村 典子)

次回、第82回公開は12月15日を予定しております。