『北海道日本ハムファイターズあるある』(熊崎敬・著、中村智子・イラスト/TOブックス) 
稲葉、中田翔、大谷翔平、斎藤佑樹からダルビッシュ、新庄、岩本……。栗山監督率いる爽やか軍団のすべてが1冊に。

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いや、ないよ。

書店でその本を見つけた瞬間、声が漏れた。
昨年の『カープあるある』に続き、今年に入ってからも『中日ドラゴンズあるある』『阪神タイガースあるある』と次々刊行されている「プロ野球チーム×あるある」の組み合わせ。いいかげん、あるある本ブームも飽和状態の感があり、もうこの辺で打ち止めなんじゃないのか、と思っていた矢先に書店で見つけたのが本書『北海道日本ハムファイターズあるある』になる。

これまでの例を見ていくと、「プロ野球チーム×あるある」といってもそこにはもうひとつ、「地域球団」というタグを有していることがわかる。地域(地方)球団ならではの文化的・郷土的ノリも含めた「あるある」。
で、あるならば、次に出るとしたら「福岡ソフトバンクあるある」だと予想していた。
(と思って調べてみたら、案の定、今月末に出るらしいです『福岡ソフトバンクホークスあるある』)

ただ、東北楽天とこの北海道日本ハムに関しては、「あるある本」にするのは正直難しいと思っていた。ファイターズが北海道に移転してから今年で10年。楽天イーグルスは誕生から9年。「あるある」として語るには期間的な素養が短いからだ。
でも、期待を込めて本書『北海道日本ハムファイターズあるある』に手を伸ばしてみた。その一番の理由は著者にある。

著者・熊崎敬は普段はサッカーを主戦場とするスポーツライター。
よく比較される「サッカーファンと野球ファンの文化的違い」までも含めて論評できるだろうという点、そして東京在住のハムファンであることも大きい。地理的・文化的にも一歩引いた視点で観察できるハズだから。
果たして、本書にはファン目線であるが故の「熱さ」はある一方で、ファン特有のクドさや厚かましさのない、日本ハムらしいさわやかな内容になっている。

先に言っておくと、本書はあくまでも「北海道」日本ハムファイターズのあるある本であり、2004年の北海道移転後のエピソードをもとに語られている。東京ドーム(後楽園)時代のエピソードも、ましてや大沢親分も出てこない。
だからこそ、なぜファイターズが北海道で受け入れられ、根付いたのかが垣間見えてくる。

《ファイターズあるある022/ファイターズは家族だ》
《ファイターズあるある028/親は札幌ドームで、娘は東京ドームで応援》
《ファイターズあるある050/久しぶりに再会した父ともファイターズの話題なら間が持つ》
などなど、実に「家族視点」からのあるあるが多いのだ。
それを端的に示しているのが巻中に収められたコラムになる。この中で熊崎は、ファイターズの本拠地・札幌ドームにあって他の球場にない特徴こそが、この球団を支え、見守る「母の愛」であると綴る。
《やがてわかってきた。札幌ドームの温かさは、そこに集まる大勢の女性を中心とした、純粋で大らかな北海道の人々の気質によって醸し出されているということを》
《選手が失敗しても「大丈夫、あなたならできる」、試合に負けても「次があるから」。ひたすら背中を押す。この温かさは女性である母と母なる大地、このふたつから生まれる母の愛だ》

厳しい視線を向け、時には辛辣なヤジを飛ばすのもファンの役目。だがそれ以上に、ファイターズには我慢と辛抱ができるファンがいる。
毎年のようにケガ人が続出し、新庄や小笠原、ダルビッシュら主力が抜けても、次から次に新しいヒーローが生まれる背景にあったものが、このあるある本を読むことで見えてくる。

《ファイターズあるある001/本当に「夢は正夢」になる!》とは、元々は監督である栗山英樹の言葉だが、ファンにとっても道標となる言葉であり、あるあるにもなっている。また、夢を直視し、愛あふれるファイターズファンだからこそ、評論家からは厳しい見方の多い「大谷翔平の二刀流挑戦」も受け入れられるのではないだろうか。

《ファイターズあるある017/大谷くん、ようこそ北海道へ。二刀流の夢を追いかけよう》
そして今夜、正夢を目指し、大谷翔平は札幌ドームのマウンドに登る。

(オグマナオト)