吉田がオーバーエージ枠での招集を受けてくれて本当によかった!

なでしこジャパンの陰に隠れて、注目も期待もされていなかった男子の五輪代表やってくれた。決勝トーナメントに進出しただけでも成功といっていい。ヒデ(中田英)や高原、稲本など“黄金世代”を擁した2000年シドニー五輪以降の快挙だからね。なでしこがメダルを獲るのと同じくらいの価値がある。僕も本当に嬉しいよ。

大きかったのは、やっぱり初戦のスペイン戦をモノにしたこと。一気に勢いに乗ったね。

この試合は、守りを固めてカウンターを狙うという作戦が完璧にハマった。前線から積極的にプレスをかけ、攻撃ではワントップの永井のスピードを生かす。守備的なゲームプランを選手たちが忠実に遂行した。最後の最後までよく走っていたし、相手に押し込まれても決定的な場面はほとんどつくらせなかった。セカンドボールでの奪い合いでも勝っていた印象だ。

相手が優勝候補ということも、選手たちのモチベーションを高めたと思う。例えば、天皇杯で大学生がJリーグのクラブと対戦すると「ひと泡吹かせてやる」と健闘することが多いけど、それに近い。アドレナリン200パーセントだよ。終盤、何度も追加点のチャンスを逃したのも、あれだけハードワークで長い距離を走っていたら、シュートする場面でフラフラなのも仕方ない。実際、永井は試合後のドーピング検査に3時間ほどかかったらしいね。激しく消耗したことを物語っている。

逆にスペインは日本をなめていた。コンディションも分析も明らかに不十分。それでも勝てるだろうと軽く見ていたんだろう。足元でパスをつなぐばかりで、崩せないし、決定力もない。そうこうしているうちにセットプレーから失点して、さらに退場者まで出してしまった。完全に悪循環。チームの持てる力を最大限に発揮した日本とは対照的だ。

実は、関塚監督とはたまに食事したりする仲なんだけど、試合後、勝利を報告するメールが届いた。彼もよほどうれしかったんだろうね。

予選リーグではスペイン戦でゴールを決めた大津。続くモロッコ戦でゴールを決めた永井と、前線の選手が脚光を浴びることが多かったけど、僕はオーバーエージ(OA)のセンターバック、吉田をMVPに選びたい。

吉田が最終ラインに加わったことで守備が安定し、チームに一本芯が通った。さすがA代表のレギュラーという感じだね。ほとんどミスもなく、高さでも競り勝つ。とにかくピンチになると顔を出して防いでいる。味方からの信頼感も相当なものがあるんじゃないかな。

僕は、このチームにはリーダーが見当たらないから、闘莉王(名古屋)を入れるべきだと何度も言ってきた。その役割を闘莉王とは違うタイプの吉田が果たしてくれた。まさに静かなリーダー。ケガ明けで今も右ヒザにはテーピングがグルグル巻かれているのは痛々しいけど、彼が日の丸にこだわってOA枠での招集を受けてくれて本当によかった。

結果論になるけど、招集を辞退した香川(マンチェスター・U)はこんな“おいしい”大舞台を逃したわけだから、もったいないことをしたね。

(構成/渡辺達也)