[Photo: Ina Fassbender / Reuters]

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 開幕以来、Jリーグ、ACL共に未勝利のガンバ大阪は、3月26日に監督交代を決断した。金森喜久男社長は、「ガンバ大阪の躍動感あふれるサッカーを表現する」ことへの期待を松波正信新監督に託したという内容のコメントを残している。「ガンバ大阪の躍動をピッチで表現し、必ず結果を出してくれると信じています」と。
 スタイルや戦術にとどまらない、ハートに訴える試合を望んでいるということなのだろうか?
 それで思い出した試合がある。

 2月19日のシャルケ対ヴォルフスブルク戦、10分にシャルケに先制点を許し、15分に2失点目を喫したヴォルフスブルクは、攻撃MFで先発していた長谷部誠を前半29分にベンチへ下げる。しかし、さらに2点を奪われて、試合は4−0とホームシャルケの圧勝で終わる。
「なぜ、長谷部を交代させたのか?」
 ハーフタイムから日本人記者の間では、その疑問が持ち上がった。
 この試合のヴォルフスブルクは、相手にプレスをかけることもままならず、チーム全体としてチグハクなプレーが続いていた。長谷部が特に悪かったというわけでもない。ヴォルフスブルクのマガト監督の采配が効を奏したとも思えなかった。しかも試合開始から30分も経っていないのだ。交代の理由があるとすれば、選手のメンタル面への“ショック療法”、選手に渇を入れるための交代ではないかと思った。
「僕はマガト監督のもとで、長くプレーしているからわかるんですけど、早い時間帯で2失点もすれば、みんなを目覚めさせるというか、誰かを交代させることがあるんです。でも、攻撃的に出なくちゃいけない状況で僕が一番必要のない選手だったということは、メッセージとして受け取らなくちゃいけない」
 試合後、淡々とそう語る長谷部は、冬の移籍で加入してきた選手間の連係の悪さについて問われ、次のように語る。
「連係を深めていくというのは、正直難しいですね。戦術練習をやっているわけじゃないし。誰がどのポジションでプレーして……というような練習ではないので。監督のやり方としては、たくさんのライバルがいる中で、練習から100%でやっている、いい選手を使うというメッセージをいつも受け取っている」
 長谷部交代の采配にしても、彼の語る日々の練習内容から考えても、マガトのやり方はオールド・スタイルかもしれない。しかし、「自分たちは競わされている」「厳しい競争の中にいる」という危機感を背負いながら日々を過ごせるのは、選手として幸せなことではないだろうか? 

「こっちへ来てから、戦術うんぬんはなくて、1対1で闘えないヤツは生き残れないということを、より強く意識するようになった。極端な話、すべての選手が1対1で負けなければ試合も負けないからね。戦術なんて関係なく1対1で競わされる練習は必ずある。引っ張って、引き倒してみたいな感じでね。そういう野性的な本能が強くなるための秘訣なんじゃないかな。やっぱり競ったら、選手としての能力は絶対に伸びるから」と吉田麻也も話していた。
 
 シャルケの練習場では、20分間ほどのミニゲームが結構行われる。ピッチの広さやゴールの数、選手の人数が違えども、ひとつのボールを追う。シュートがゴールを外れれば、悔しそうな選手の声が上がり、タッチを割ったボールへの執着心も強い。ボールを奪い合うというほど、闘争心がぶつかり合うメニューだ。試合翌日でも白熱したミニゲームが、コンディション調整のように実施される。
「ビブスが破れるなんて、しょっちゅうあるよ」と内田篤人。
 感情を表に出すのが苦手な内田だが、球際で負けたあと、すぐさまボールを奪った相手を追うプレーは熱い。試合とは違い戦術もポジショニングもバランスも関係なく、目の前の相手だけに集中し闘志をぶつけている内田の姿は「練習から100%でやっている選手」という長谷部の言葉と重なった。競い合いが日常になっているということだ。