一見すると普通のかぶの漬け物のようですが……。
(写真提供=賀茂のすぐき販売所)

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京都と言えば漬け物。
千枚漬け、すぐき、しば漬。この3つは京都の三大漬け物と呼ばれているそうだ。

その中でも変わり種なのが“すぐき”。
使う材料は、すぐき菜と塩だけ。それなのに不思議と酸っぱい。シンプルかつ伝統の漬け物なのだ。

漬け物に使われる大根・白菜などは全国のどこででも収穫できる。
しかしこのすぐきに使われる“すぐき菜”は京都の一部(滋賀の一部も)でしか収穫されない。

すぐきの専門店である、賀茂のすぐき販売所さんにお話を伺ったところ、すぐきの起こりははるか数百年も昔。
「少なくとも340年前には作られていた」という。当時の書物にも名前が残っているそうだ。

もともと、賀茂川の河原に自生していた“すぐき菜”。これを上賀茂神社で栽培、漬け物に。
貴重な品として大事に扱われていたこの漬け物は、江戸時代以降も近隣の農家だけが栽培することを許可され、持ち出すことさえ許されなかったという。
まさに秘蔵とも言えるこの技法は脈々と伝えられた。今でもこの技法を守り漬け物を作るのは、すぐき菜を育てる農家さんだ。

ほかの漬け物との違いは、
「重石を非常に強くかけること。それを暖かい室に入れて、乳酸発酵させることです」
乳酸菌といえばヨーグルトなどを思い浮かべるが、すぐきにつくのは植物性の乳酸菌であるラブレ菌。
京都人の健康の秘密を探っていた博士が発見したもので、すぐきを漬ける室などに付いているとされる。
胃酸の影響を受けずに、腸まで届くといわれているそう。
健康にいい漬け物、と賞賛され今では日本だけでなく世界でも注目を浴びているらしい。

伝統だの乳酸菌だの、いろいろ話題の多いすぐきだが、実際は京都の人に愛される日常食。
偉い顔も大きな顔をするわけでもなく、本人はしれっと食卓に並ぶ。
食べ方を伺うと「サッと水洗いし、かぶらの部分はイチョウ切りに、葉茎の部分はできるだけ細かくみじん切りにし、お好みで、しょうゆ・七味をかけます」
このすぐき、酸っぱい味が特徴だ。酸っぱさが苦手な人は卵かけご飯に混ぜるなどすると酸味が感じにくくなるとか。

すぐき菜は毎年11月から12月に栽培され、漬け込みがはじまる。〆は大体毎年2月ごろまで。
今期出回るのは3月ごろまでがシーズンだ。
つまりはそろそろシーズン終了。このすぐきは季節限定、場所限定の季節の風物詩なのだ。
すぐきの季節が終わると、京都にも春が訪れる。

すぐき、今期のシーズンが終わる前に機会があればぜひどうぞ。
(のなかなおみ)