銀塩(左)とデジタル(右)の撮り比べ。野球ボールの例。

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今さら「モノクロ写真!? 銀塩(フィルム)?」という声もあるかも知れないが、写真はモノクロが原点であり、いまだにモノクロは銀塩で撮っている人も少なくない。フィルム代、現像代をかけてまで撮るその理由は何か。そこで、実際にデジタルと銀塩で撮り比べて、その違いや、銀塩の良さを確かめてみる。

「モノクロ写真は銀塩で撮るに限りますよ」とある写真・カメラ機器メーカーの関係者に取材したときに聞いた言葉をふと思い出した。筆者も写真を始めたころは銀塩で、カラーネガフィルムからポジフィルムへ、そしてモノクロネガフィルムの現像・プリントまでするようになっていった。そんなことをしているうちに、デジタル技術は進み、カラー写真ではある面で「銀塩を凌駕した」ところまで到達した。コストパフォーマンス、便利さに加え、解像度の高さ、パソコンを含むデジタル機器との相性の良さは抜群。また、紙の上ではなくモニター上で観賞することを前提とするならば、発色の点でもポジフィルムに比肩し得るレベルだと思う。

さて、モノクロではどうだろう。色がまったくない、光と影の世界では。
以前、「フィルムカメラの得意な被写体は?」で、カラーネガフィルムとデジタルで撮り比べを行った。そのときはコントラスト(明暗差)の高い被写体で、銀塩のほうが美しい写真が撮れることが分かった。では、モノクロでコントラストの低い被写体ではどうだろう。

公園の芝の上に転がっていた使い古しでボロボロの野球ボールを撮ってみた。その日は曇り空で、日差しが弱く、ボール表面の革は擦り切れていて光をほとんど反射しないコンディション。こういう暗い被写体は背景とのコントラストが小さいので、なかなかいいモノクロ写真になりにくい。仕上がりを見てみると、やはりだ。ちなみに、デジタルで撮った写真は画像処理ソフトのフォトショップでモノクロ化し、銀塩はブローニフィルム(6×4.5)をスキャナで取り込んだもの。ともに辛い写真になってしまったが、銀塩のほうがコントラストや質感がデジタルよりよく出ている分だけベターといえるだろう。逆にデジタルのほうは背景との区別が難しいほどのっぺりしてしまい、「ごめんなさい」という結果だ。

つぎに、もう少しコントラストの高い被写体を撮ることにした。公園の周りの道端に溜まった枯葉にカメラを向けてみた。こちらは、枯葉それぞれの濃淡がはっきりしている分、光が弱くてもある程度いいモノクロ写真になる。実際の仕上がりでも分かるように、銀塩、デジタルともに申し分ない出来。銀塩のほうがややコントラストは強く、デジタルは弱め。どちらが良いかは観る人の好みによって分かれるといったレベルだろう。

最後に、コントラストの強い被写体で試した。公園の小道を空を少し入れて撮った。一目瞭然だと思うが、銀塩は抜群の出来栄え。建物の壁や白い曇り空の階調までしっかり再現できている。対して、デジタルは完敗。手前の道や植木に露出を合わせた結果、背景の建物と空はすっかり白とび(白過ぎて階調がない状態)してしまった。

以上の3つの例から分かるように、モノクロ写真は色情報が皆無なだけに被写体のきめ細やかな階調表現が重要。で、銀塩はその階調をうまく表現できるだけの能力を備えているが、デジタルは残念ながらそこまではまだ達していない。ただ、コントラストが弱すぎず、強すぎずの被写体であれば、デジタルでもモノクロ写真を楽しめるようだ。

一方、こうしたデジタルの弱みをカバーすべく、最近では同じ被写体を露出を変えて数回撮りしたものを合成することで、再現域の広いデジタル写真が撮れる機能(ハイダイナミックレンジ)も登場している(機会があれば是非紹介したい)。

ともかく今回のレビューでは、デジタルではまだ到達し得ないモノクロ写真の奥の深さに改めて感銘を覚えた。
(羽石竜示)