廃業後の工場が人をつなぐカフェに変身! 「工場まるごとプロジェクト」に行ってみた
ここ数年、アートで地域を盛り上げようという取り組みをよく耳にするようになった。瀬戸内海の島々をアート空間にした「瀬戸内国際芸術祭」のような大規模なもの以外にも、「アートプロジェクト」と検索すると、都市部、農村部問わず、日本中あちこちでプロジェクトが進行していることがわかる。
今日ご紹介したいのはそのひとつ、つい先日始まった「ASHIGARAアートプロジェクト」。神奈川県西部、小田原のすぐお隣にある「足柄上地域」と呼ばれるエリアで、アートによる地域おこしが始まった。正直言うと、私自身、このエリアには田舎というイメージしか持っていなかった。アートがこの地域でどのように機能しているのか? さっそく、始まったばかりの「ASHIGARAアートフェスティバルvol.0」(2/11〜3/11開催)に足を運んでみた。
まず前提として知っておいてほしいのは、フェスティバル会場が実に広範囲に渡り点在していること。「足柄上地域」とは1市5町(南足柄市、中井町、大井町、松田町、山北町、開成町)のことを指しており、自治体ごとにコア会場がある他、サテライト会場も多数設けられている。このため、見学前にはお目当ての会場を決めておくのがベター。私はまず、サテライト会場の中で目を惹いた「工場まるごとプロジェクト」に足を運んでみることにした。使われなくなった工場を再生して、ギャラリーやカフェとして蘇らせる企画らしい。
アートフェス2日目の午後、私の住む茅ヶ崎市から車を走らせること1時間強。のどかな川沿いの田園風景の中に、その工場は佇んでいた。ドラム缶に描かれたCAFEの文字に誘われて中に入ると、手前は人々が集うカフェ空間、奥はギャラリースペースになっていることが分かる。壁や天井などには、ここが工場であったことを物語る配線や配管がそのままになっているが、陶芸や絵画など、至る所にアート作品が展示されている。木でできた手作りの椅子やテーブル、薪ストーブもこの空間に溶け込んでいて、どこか懐かしさを感じる。私が訪れた午後2時頃には、すでに地元の方と思われる親子連れや女性グループで賑わい、ほぼ満席となっていた。
カフェの奥を覗くと、カラフルなテーブルがあり、その上に家らしきものが並んでいる。スタッフの方に聞くと、これは「君の街ワークショップ」というもので、カラフルなテーブルは巨大地図。家の形をした木片(建築用木材の端材となったもの)に自由に色を塗って、みんなで街をつくる、というものらしい。せっかくなのでコーヒーとスイーツをいただきながら、ワークショップにもチャレンジしてみることにした。
しかし、いざ木片を手に取ってみると、一体何を描いたらいいのやら、意外と難しい。筆が進まないでいると、目の前に小学校低学年くらいの女の子が座り、「私もやる!」と、ペンを取った。書きやすいペンを教えてあげると、もくもくと色を塗り始めた。私も負けじと壁を白に、屋根を青に塗り始めると、隣に座っていたおばちゃんが「まー、エーゲ海にありそうな家ね」と声をかけてきて、しばし談笑。そんなこんなで会話が生まれ、なんだかみんな知り合いだったような、なごやかな雰囲気に。なんだかとっても、心地いい。
ワイワイやっていると、このワークショップの主催者で彫刻家の、ひでひこさんが戻って来られたので、お話を聞いた。ひでひこさんはこの地域に引っ越してきて2年ほど。「地元の人々とつながりたい」と感じていた頃、廃業したこの工場のオーナーさんが「アーティストの人たちに使ってほしい」という希望を持っていることを知り、地元のアーティストと一緒に、今回のアートフェスティバルの一環として、「工場まるごとプロジェクト」を立ち上げたと言う。約半年かけて2つの工場を改装し、この「ソウセイカフェ」と、ここから徒歩圏内にあるギャラリー「びるぼっくり」に変身させた。
それにしてもオープンから2日目でこんなに人が集まる場所になっているとは驚きだ。ひでひこさんも、地元の人々と、私のような外部の人が、入り交じって集う場になっていることに、想像以上の地域おこし効果を感じているようだ。「面白い看板があったからふらっと覗いてみた」というノリの地元の方がどんどん入ってきて、知り合いではなくても言葉を交わしていく。一見ハードルが高そうな「アート」だが、人々をつなぐきっかけになる。そんなコミュニティ形成のゆるやかな過程を、目の前で見たような気がした。もちろん地域性もあると思うが、きっと都会でも、何かきっかけがあれば人はつながるし、参加型アートはそのために最適なコミュニケーションツールと言えるかもしれない。
居心地の良さに、気がついたらすっかり長居をしてしまい、この日は別の会場には辿り付けず。地元アーティストの美術作品が展示されたギャラリーを少し覗いてから、この場所を後にした。私が描いた小さな家は巨大地図の上に置いてきたが、きっとあの地図も、一カ月であっという間にいっぱいになってしまうことだろう。
使われていなかった小さな工場が、アートで人々がつながる場所に。そんな小さな変化が今、日本の各地で起こっているのかもしれない。もちろんきっかけはアートだけではないだろう。様々な問題を抱えた地域でも、「変化を起こしたい」という気持ちとちょっとしたきっかけさえあれば、街はもっと面白くなっていくのかもしれませんね。
(池田美砂子)
今日ご紹介したいのはそのひとつ、つい先日始まった「ASHIGARAアートプロジェクト」。神奈川県西部、小田原のすぐお隣にある「足柄上地域」と呼ばれるエリアで、アートによる地域おこしが始まった。正直言うと、私自身、このエリアには田舎というイメージしか持っていなかった。アートがこの地域でどのように機能しているのか? さっそく、始まったばかりの「ASHIGARAアートフェスティバルvol.0」(2/11〜3/11開催)に足を運んでみた。
アートフェス2日目の午後、私の住む茅ヶ崎市から車を走らせること1時間強。のどかな川沿いの田園風景の中に、その工場は佇んでいた。ドラム缶に描かれたCAFEの文字に誘われて中に入ると、手前は人々が集うカフェ空間、奥はギャラリースペースになっていることが分かる。壁や天井などには、ここが工場であったことを物語る配線や配管がそのままになっているが、陶芸や絵画など、至る所にアート作品が展示されている。木でできた手作りの椅子やテーブル、薪ストーブもこの空間に溶け込んでいて、どこか懐かしさを感じる。私が訪れた午後2時頃には、すでに地元の方と思われる親子連れや女性グループで賑わい、ほぼ満席となっていた。
カフェの奥を覗くと、カラフルなテーブルがあり、その上に家らしきものが並んでいる。スタッフの方に聞くと、これは「君の街ワークショップ」というもので、カラフルなテーブルは巨大地図。家の形をした木片(建築用木材の端材となったもの)に自由に色を塗って、みんなで街をつくる、というものらしい。せっかくなのでコーヒーとスイーツをいただきながら、ワークショップにもチャレンジしてみることにした。
しかし、いざ木片を手に取ってみると、一体何を描いたらいいのやら、意外と難しい。筆が進まないでいると、目の前に小学校低学年くらいの女の子が座り、「私もやる!」と、ペンを取った。書きやすいペンを教えてあげると、もくもくと色を塗り始めた。私も負けじと壁を白に、屋根を青に塗り始めると、隣に座っていたおばちゃんが「まー、エーゲ海にありそうな家ね」と声をかけてきて、しばし談笑。そんなこんなで会話が生まれ、なんだかみんな知り合いだったような、なごやかな雰囲気に。なんだかとっても、心地いい。
ワイワイやっていると、このワークショップの主催者で彫刻家の、ひでひこさんが戻って来られたので、お話を聞いた。ひでひこさんはこの地域に引っ越してきて2年ほど。「地元の人々とつながりたい」と感じていた頃、廃業したこの工場のオーナーさんが「アーティストの人たちに使ってほしい」という希望を持っていることを知り、地元のアーティストと一緒に、今回のアートフェスティバルの一環として、「工場まるごとプロジェクト」を立ち上げたと言う。約半年かけて2つの工場を改装し、この「ソウセイカフェ」と、ここから徒歩圏内にあるギャラリー「びるぼっくり」に変身させた。
それにしてもオープンから2日目でこんなに人が集まる場所になっているとは驚きだ。ひでひこさんも、地元の人々と、私のような外部の人が、入り交じって集う場になっていることに、想像以上の地域おこし効果を感じているようだ。「面白い看板があったからふらっと覗いてみた」というノリの地元の方がどんどん入ってきて、知り合いではなくても言葉を交わしていく。一見ハードルが高そうな「アート」だが、人々をつなぐきっかけになる。そんなコミュニティ形成のゆるやかな過程を、目の前で見たような気がした。もちろん地域性もあると思うが、きっと都会でも、何かきっかけがあれば人はつながるし、参加型アートはそのために最適なコミュニケーションツールと言えるかもしれない。
居心地の良さに、気がついたらすっかり長居をしてしまい、この日は別の会場には辿り付けず。地元アーティストの美術作品が展示されたギャラリーを少し覗いてから、この場所を後にした。私が描いた小さな家は巨大地図の上に置いてきたが、きっとあの地図も、一カ月であっという間にいっぱいになってしまうことだろう。
使われていなかった小さな工場が、アートで人々がつながる場所に。そんな小さな変化が今、日本の各地で起こっているのかもしれない。もちろんきっかけはアートだけではないだろう。様々な問題を抱えた地域でも、「変化を起こしたい」という気持ちとちょっとしたきっかけさえあれば、街はもっと面白くなっていくのかもしれませんね。
(池田美砂子)