本文に出てきたおつりの金額。1ユーロと、50ユーロセント。50ユーロセント硬貨の方が、若干大きめです。

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ドイツのスーパーマーケットで、合計18.50ユーロ分の買い物をしたとします。会計レジで20ユーロ紙幣を1枚支払った場合、おつりの額は、20-18.50=1.50ユーロ。おつりの算出には、20から18.50をマイナスする「引き算」を使うのが自然の発想です。少なくとも、日本人にとっては。このように、日本人ならごく当然のように「引き算」をする場面で、ドイツ人は、逆に「足し算」をすることが当たり前なのです。

通常はレジスターがおつりを自動計算してくれますから、店員が暗算する必要などありませんが、おつりの自動計算機能がついていないレジでは、ドイツならではの計算方法にお目にかかることができます。

さて、レジに座っているのは、小学校以来、ドイツ式の計算方法のみを習ってきた店員。レジスターはおつり額を表示してくれないので、自ら暗算するしかありません。

このレジ係は、買い物の合計金額「18.50ユーロ」と、お客が差し出した「1枚の20ユーロ紙幣」を見比べつつ、おつりの計算を始めるわけですが、その際、レジ係の頭に浮かぶのはあくまで「足し算」。はたして、足し算だけでおつりの計算なんてできるのでしょうか。なお、参考までに付記しますと、ユーロ通貨圏には「ユーロ」と、その下の単位「ユーロセント」という通貨が流通しており、100ユーロセントが1ユーロに相当します。

それでは、ドイツ式おつりの計算方法を追ってみましょう。

まずレジ係は、お客さんに50ユーロセントのコインを1枚差し出しながら、「19ユーロ」と言います。この時、レジ係は「18.50(買い物合計額)+0.50(おつりの一部分となる)=19.00ユーロ」という足し算をしています。続いて、レジ係は1ユーロのコイン1枚をお客さんに差し出し、「20ユーロ」と言います。ここではレジ係は、「19ユーロ(上記の小計額)+1ユーロ(これも、おつりの一部分となる)=20ユーロ(客が支払った額)」という足し算をしています。「19ユーロ」、「20ユーロ」と、いちいち金額を声に出すレジ係が多いのは、お客さんも一緒に金額確認して下さいよというメッセージのようにも受け取れます。

なにはともあれ、これでめでたく、お客さんの支払った「20ユーロ」と同額になりました。レジ係がおつりとして差し出したのは、50ユーロセント1枚と1ユーロ1枚。合計1.50ユーロですから、おつりの金額は見事に正解です。

つまり、おつりを算出する際、「お客さんが支払った金額から、買い物の合計額を差し引く」という発想ではなく、「お客さんの支払った20ユーロに到達するためには、買い物の合計金額である18.50ユーロに、あと何ユーロをプラスすればいいのか?」を算出するのがドイツ式思考なのです。引き算の暗算で、ほぼ瞬時におつり額をはじき出す日本式と違い、目的の金額に到達するまで、コイン1枚1枚、または紙幣1枚1枚を、段階を追いながら加算していくのが、ドイツ式。

こんな具合ですから、合計金額がわずか2.17ユーロだったところに、うっかり100ユーロ紙幣を払おうものなら、ドイツ式おつり計算方法では、100ユーロに到達するまでにやや時間がかかるのも事実。しかし、客がいかにイライラしたところで、レジ係は上述の「ドイツ式おつり足し算」に没頭していますから、せいぜい足し算の邪魔をしないよう、大人しく待つしかありません。
(柴山香)