ホワイトボードにポイントをまとめる中村さん
(撮影:朝岡英輔)

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プロの主夫によるワークショップがあると聞いて、東京・渋谷に行ってきた。

開始前の会場に入ると、あきらかに緊張した面持ちの男性がいる。今回の主役、専業主夫のお笑い芸人、中村シュフさんだ。
――こんにちは、調子はいかがですか?
「緊張しています。こういうことやるの初めてなので……」(中村さん)
――きっとうまくいきますよ!
「いや、完全アウェイだし、そもそも渋谷自体がアウェイだし……」
うつむいてしまう中村さん。無責任な励ましが逆効果だったようだ。

中村さんは、高校時代に家庭科の教師に憧れ、大学の家政科に入学、教員免許を取得するも、"みんなの笑顔を作りたい"と、お笑いの世界に。10年近く芸人として活動し、昨年春、当時、同棲していた彼女との結婚を機に家庭に入り、専業主夫としてのキャリアをスタートしたのだった。

この日はそんな主夫として初の舞台。会場の期待と緊張が高まる中、ついにワークショップが始まった。
いざ本番となれば、さすが芸人、舞台のプロ。さながらカリスマ予備校教師のように、配布プリントやホワイトボードを駆使し、サクサクと進行していく。ポイントがわかりやすく、エピソードも豊富で、 終始、参加者たちの笑顔に包まれた2時間となった。
そんなワークショップの中で、印象的だったものを一つ紹介しよう。

■中村シュフ、ワークショップ 第二部「お手伝いのコツ」
ある夫婦の休日を例に出す中村さん。主婦役に抜擢されたお客さんと夫役の中村さんが、休日の様子を想像しながら即興で演技をすることに。
休日ということで、料理や買い物など、意気揚々と家事を手伝う男性。親切心でやっているのだが、男性の「家事をやってやるぜ」的な言動に、主婦役の人だけでなく、会場にいる女性の参加者たちは、腑に落ちない様子。
私はなんだか自分の私生活を見せられているようで、いたたまれなくなってきた。すいません、という気持ちになってくる。

そんな空気を察し、中村さんが言う。
「そうなんです! ここポイント!! 手伝おうとする人の多くは料理とか買い物とか、家事の派手なところをやりたがるけど、毎日の家事にはちゃんとした"流れ"があるんです」
「その"流れ"を壊したらダメ。結局、あとで軌道修正するのは主婦なので、二度手間になって、 かえって負担をかけちゃう場合もあるんですよね」
――うーん、確かに……
男性参加者たちから、感心と反省の混ざった低い声が漏れる。では、一体どうすればいいというのか。
「だから手伝うときは、"流れ"を壊さないように、たとえば、洗濯カゴにまるまったままの状態で脱いでいた靴下を伸ばしたり、食事のあと使った食器をシンクに運んだり、という風に"流れ"を円滑にするような、『家事のチョイ足し』をするのがいいんです」(中村さん)
会場から「そうか」「なるほど」という声があがった。隣の席を見ると、同行したカメラマンの朝岡さんも激しく感動している様子。彼はまるで呪文を唱えるように何度も『チョイ足し』と呟きながら、シャッターを切っていた。

そんなわけで、2時間のワークショップは無事に終わった。ホッとした様子の中村さんに今の気持ちを聞いてみた。
「参加者の皆さん優しくてよかったです。あとは皆さんのツイートが心配ですけど(笑)」
――皆さんに何かメッセージなどありますか?
「シュフ(主婦・主夫)という仕事はノーライセンスで出来ちゃうし、社会的に評価が非常に低いです。でも家事とは義務ではなく権利。日々の生活を率先してデザインをしていく権利を持ったのがシュフなんだから、シュフの皆さんはもっと自信を持ってほしいですね。グレートな仕事なんだから!」

今回のワークショップの成功で引っ張りだこになりそうな中村さんだが、あくまで本業・主夫として、扶養の範囲内でパート的に活動していく様子。ブログも随時更新中なので、シュフを目指す人もそうでない人も是非チェックしてみてはいかがでしょう。
(小島ケイタニーラブ)