急降下で危機一髪だったのか(写真はイメージ)

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   全日空機が、ほぼ背面飛行の状態で1900メートル急降下したトラブルは、あと10秒ほど落下が続いていれば大惨事になったかもしれない――。航空評論家がこう指摘した。

   急降下の際に速度が制限値を超えたが、さらにスピードが加速して音速を超えていたら、機体が空中分解していた恐れがあるというのだ。

音速状態で衝撃波、激しい振動が発生

   国土交通省運輸安全委員会は2011年9月28日の会見で、那覇発羽田行きの全日空140便、ボーイング737型機が9月6日、静岡県浜松市上空を飛行中に機体が最大131.7度傾き、背面に近い格好のまま30秒間で1900メートル急降下したことを明らかにした。乗客乗員117人のうち、客室乗務員2人がけが、またこれまでに6人の乗客が首の痛みや吐き気を訴えたという。

   降下の際には、速度が基準のマッハ0.82を超えるマッハ0.828が出ており、さらに機体にも制限値を上回る2.68Gの加速度がかかっていた。30秒ほどした後に機体の姿勢が正常に戻ったと報告されたが、もし落下が止まらずにあと10秒ほど対処が遅れたら、大事故につながっていたかもしれないと、航空評論家の前根明氏が情報番組の中でコメントした。

   全日空広報室に聞いたところ、ボーイング737型機の一般的な巡航スピードはマッハ0.78〜79ほどだと説明する。これが急降下のときにはマッハ0.828まで上がった。「コンコルド」のような超音速旅客機や戦闘機とは違い、一般的な旅客機の場合はマッハ1、すなわち音速と同じぐらいのスピードに達すると、機体の周りの空気の流れが音速より速い個所と遅い個所が出る「遷音速」という状態になる。こうなると衝撃波が発生して機体に強い力がはたらき、激しい振動が起きるなどして操縦困難になる恐れがある。

   前根氏は、「小型の737型機の場合は音速の90%くらいになると、機体が分解を始めるかもしれない」と推測した。これが正しければ、降下が続いてスピードが増し、音速に到達したころには機体がバラバラ、という大惨事に陥っていた可能性も否定できない。

「ゆっくり動くジェットコースター」の感覚

   背面に近い状態で30秒間急降下したと聞くと、当時の機内の様子が気になる。ある航空会社の元副操縦士は、けが人がこれまで客室乗務員の2人だけにとどまっている事実に触れて、「ゆっくり動くジェットコースターに乗っていた感覚だったのでは」と当時の状況を推測する。先述の前根氏も今回のケースを、ジェットコースターに乗っていて、遠心力により座席に押しつけられるような力が働いている状況に例えて説明した。夜遅くのフライトだったため、着席してシートベルトを締めていた乗客が多かったのも幸いした。

   全日空広報室に取材すると、今回のトラブルについて謝罪したのち、原因の究明については「運輸安全委員会に協力しながら、現在調査中」と回答した。また、急降下がさらに続いていたら重大な事故につながっていたかもしれないとの専門家の指摘については、「制限値を超えてしまったことは誠に申し訳ない」とする一方で、「機体は、仮に3Gを超えたとしても耐えられる設計になっている」と説明。ただし「音速を超えたら機体が空中分解する可能性」については、現段階ではそこまでの分析をしていないのか、指摘内容について「特に意見はありません」とのことだった。

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