増沢 隆太 / 株式会社RMロンドンパートナーズ

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年の初めや年度末など、キャリアカウンセリングを申し込んで来られる方が増えます。「今、転職すべきでしょうか?」と聞かれるのは当然のようによくあることなのですが、当然のように正しい答などありません。

麻雀は下駄を履くまでわからない。これはキャリアでもいえることです。その転職が正しいかどうか等、誰にもわからないのです。しかし麻雀同様に、推測は出来ます。少しでもリスクを減らす努力こそ、キャリア決定においては重要なことでしょう。

ではどうすればリスクは減るでしょうか。自ら考えることを放棄し、「あり・なし」で判断したがるような人は「良い転職・悪い転職」の答えをいきなり求めます。答を求めるのはリスクコントロールではなく単に不安な感情に振り回されているだけ。答がないからこそ自分の頭で考えなければなりません。

転職する以上は何がしかの「やりたいこと」や「ほしいこと」があるはず。そうであれば、自分がやりたいことがなぜその選択(転職そのものや転職先企業)だと実現出来るのか、を考えるべきです。

ゆえにまず「やりたいこと」が何であるかを整理する必要があります。例えば○○という業務がしたくて転職、であれば、その実現に必要な役割、役職、職務分掌、といったポジション確保が必要です。それが確保できるかどうかの検証です。
給料を上げたい、のであればそれだけの年収提示が確保されるかどうか、となります。

転職で禁句とされるが、実は一番多い「人間関係が嫌で辞める」場合も同じです。転職すればそれが変わるのかどうか、確認出来なければ、今と同じ確率で人間関係不適合が起こる可能性があります。

例として挙げた中で、事前に予見できるものは何でしょう?
ポジションと給与は、内定通知や雇用契約書があれば、一定の法的担保になります。こうしたものを求める転職であれば、担保となる契約書等が得られれば、成功の確率はぐっと高まりますし、無ければ反故にされるリスクは自分で背負うことになります。法律違反ではあっても、昨今のような厳しい景気環境では、特に中小企業等、雇用契約書を結ばない、という例は現実にあります。法律違反だ!と言って改善されるなら良いのですが、そうでない場合であれば、そのリスクは織り込んで転職に踏み切るかどうか、自己判断になります。

残念ながら、よほどの人材バリューのある方でない限り、現実問題で採用においては圧倒的に採用側が強い立場であるのは事実です。契約を結ばない企業に転職するにおいては、しっかりその自己責任を自覚して下さい。

一方、人間関係問題等はどうしましょうか。残念ながらこれを見抜く方法は存在しません。キャリア決定には、必ず偶然が伴います。どれだけ事前に社員と会おうが、面接で聞こうが、「入ってみなきゃわからない」のが人間関係です。大企業も零細も関係なく、職人や芸術家のように、たった一人だけで、すべての業務を完結できるキャリア以外では、必ず存在するリスクです。
だから「人間関係が理由の転職」は良くない、勧めない、と言われるのでしょう。そこを改善出来る保証は絶対に無いからです。

個別事由に加え、判断能力を向上させる存在もあります。それは良いキャリアアドバイザーの存在です。資格や職業としてのキャリアアドバイザーという意味ではなく、キャリアアドバイザー能力が優れている人が、身近にいるだけで、判断時に大きな助けになります。
ただ単に自分の体験談を語るのはキャリアアドバイザーではありません。就業環境や雇用状況、特にその業界独自の経営環境等に詳しく、なおかつロジックが組み立てられる人がいれば、だれでもキャリアアドバイザーとして頼りに出来ると考えます。

さらにもう一つ。ぜひご自身の「時価」を考えていただきたいと思います。要するに今の仕事を離れたとして、自分がいくらなら雇ってもらえるのか、いくらなら稼ぎ出せるのか、ということです。
△△株式会社の部長だとしても、その肩書と企業名を外した場合、どれだけの時価になるのかは簡単です。ご自分がいくら稼げるかを計算すれば良いのです。

そうなりますと営業職等は比較的計算しやすいですが、事務職や非営業系専門職は難しいでしょうか。
それも含めて「時価」なのです。今の厳冬状態の雇用環境で、事務職、専門職を希望するのであれば、当然それがダイレクトに稼ぎに通じないことが理解できるでしょう。しかしそれでも事務であればコスト削減はどうでしょうか?
無駄な出費削減もあれば、効果のなかった取組を見直した、3人のスタッフで取り組んだ業務を2人で回せるようになった、外注化によって専任スタッフ配属を避けられた・・・・何でも良いのです。

こうした稼ぎへの貢献が、どの程度アピールできるかどうか、ここをぜひ検証して下さい。転職活動ではそのまま自己アピールに使えます。
それが見当たらないなら、今の雇用環境下では、転職というリスクは負わない方が良いのかも知れません。正解のないキャリア決定においては、自ら自分の時価を顧みる努力が、永遠に続くと言えます。