「私はいまのサッカー（サウジ戦）の信奉者である。そのほうが、魅力的ではないだろうか。ゲームはオープンなものになるし、美しいフットボールになる。何かが伴わなかったのは残念だが……。それが何なのかはお分かりだろう」

相手との力関係があってこその考え方ではある。それは分かっている。それでも、酷暑のハノイ（ベトナム）で我々は、リスクを冒しても点を取りにいこうとするオシムのロマンに触れることができた。

だからこそ、彼の目ざす方向性に多くのファンやメディアがひかれていったのだ。「日本代表の日本化」というフレーズが具体性を帯びていき、サウジ戦で「伴わなかったもの」もやがてはつかむことができる、という期待感は膨らんだ。自分たちの良さを発揮したうえで結果を残そうとするオシムの示す方向性に、僕自身もどんどんと吸い寄せられていった。

では、ワーストマッチはどの試合だろうか。ここでもアジアカップが思い浮かぶ。韓国との３位決定戦だ。

ワーストと言うのは、少しばかり酷かもしれない。選手はサウジ戦以上に疲労感を隠せなかったし、準決勝から中３日で移動もあるというハードスケジュールだ。両チーム無得点のままＰＫ戦へ持ち込むのは、精いっぱいの抵抗だったかもしれしない。

いずれにしても、日本はＰＫ戦で敗れて４位に終わった。アジアカップに具体的なノルマは設定されていなかったから、オシムが責められることもなかった。

ただ、３位までに与えられる２０１１年のアジアカップ出場権は逃してしまった。パレンバン（インドネシア）での敗退は、南アフリカＷ杯を目ざすチームにとって、決してぬぐい取れない〈滲み〉となってしまうのである。

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